捉えどころのない "第2の水" の存在をトポロジー的に解析!

2022.09.07

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、2種類目の水に関する最新研究だよ!

30年前の研究から、液体の水は2種類の状態がある!とずっと予測されていたけど、未だにこれはどういうものなのか分かっていないよ。

今回、今までとはちょっと違う手法を使うことで、2種類目の水の状態をシミュレーションし、その性質を探ることができたよ!

液体の水は2種類ある!?

固体&液体&気体=相転移

水の相の違いは、水分子の結合の違い

私たちが普段目にする固体・液体・気体は、物質を構成する原子や分子の並び方や結びつきの強さの違いで表されるよ。これらの違いをまとめて相と呼び、異なる相を行き来するのを相転移と呼ぶよ。

液体の水は0℃で凍って固体の氷に、100℃で沸騰して気体の水蒸気となるよね?科学的にはこれを物質の相が変化した、というよ。

物質の相とは、スゴく簡単に言えば、物質そのものは同じだけど、物質を構成する原子や分子の並び方が違うもの同士を比較する時に使われる言葉だよ。

氷も水も水蒸気も、水分子でできているという点では物質の種類に違いがないけど、水分子の並び方が全く違うから、これは相が違うと呼ぶよ。

そして、ある相から異なる相に変化することを相転移と呼ぶよ。だから氷が融けたり水が沸騰することは、水が相転移をした、と呼ぶよ。

さて、氷は圧力をかけると、普段目にする氷とは違う水分子の並び方をするよ[注1]。固体であることに変わりはないけど、並び方が変わるから、これも相転移の1つに数えられるよ。

氷に限らず、様々な物質にはこういった相の異なる固体がたくさんあることが知られているよ。黒鉛とダイヤモンドはその典型例だよ[注2]

一方で、相の定義が原子や分子の並び方にあるのなら、配置がランダムで固定されていない液体や気体は、固体と違って相が何種類もありそうにないよね。

身近だけどよくわからない物質、水

ところが、最も身近な物質である水は、液体に2つの相が存在するのではないか、というスゴい予想がずっとされてきたんだよ!

そもそもとして、水は身近ながらもかなり不思議な物質だよ。例えば普通の液体は温度が低くなれば低くなるほど密度が高くなるけど、その理屈だと水は0℃が一番高密度だよね。

ところが実際には、水は4℃が一番高密度で、温度と密度が比例関係にはないという、物質全般を見てもかなり珍しい性質を持っているんだよ!

このような不思議な性質の延長線として、水には2種類の相がある、という予想が30年も前に予想されてきたんだよ。

このように、液体同士で相が異なるものを液液相転移[注3]と呼び、水以外にもそのような候補物質はたくさんあるから、長年研究がされているんだよ!

第2の水の相は恥ずかしがり屋

ただ、水の液液相転移、つまり第2の水の相が現れる領域は、過冷却状態[注4]という非常に不安定な状態にあることから、これまで実験的にその存在を証明することができなかったよ。

過冷却状態の水は、ほんの少しの刺激で凍ってしまうから、結晶構造を観るためにX線などを当てただけでも凍ってしまうことから、これまで研究を妨げてきたよ。

そこで、シミュレーションによって第2の水の相を探る研究もまた行われてきたんだけど、それはそれでやはり難問だったんだよ。

液体の水は、水分子がくっついたり離れたりを繰り返していて、水分子そのものも回転したり動いたりと、非常に目まぐるしく変化しているよ。

この変化の激しさと、非常に大量の水分子が相互作用していることから、そのままシミュレーションするにはコンピューターの能力が追い付かないよ!

ということで、この種の研究はコンピューターで処理可能なように簡略化をするんだけど、ではどう簡略化したら現実の水に近いか、というのも問題になるよ。

簡略化しすぎて、あまりに現実離れしたシミュレーションをしてしまったら、研究としての意味が無くなっちゃうからね。

ただ、どう簡略化するか、という方法を見定めるのも相当難しくて、この辺が何十年も水の構造の研究を妨げてきた理由になっているんだよ。

液体の水は絡み合った紐の集合体!?

水を絡まった紐として考える

を水分子1個1個で解析するのは難しいので、今回は水をある程度の塊として捉えて解析したよ。 (画像引用元: 原著論文Fig1およびFig2よりトリミング)

バーミンガム大学のAndreas NeophytouとDwaipayan Chakrabarti、そしてローマ・ラ・サピエンツァ大学のFrancesco Sciortinoの研究チームは、この難しい課題に取り組んだよ。

研究チームは、水を水分子1個1個として捉えるのではなく、その1000倍も大きな粒として捉えるという手法で研究を行ったよ。

研究では、ある程度の数の水分子が集合したクラスターと捉え、このクラスターがどのようにつながっていくのか、という前提でシミュレーションを組んでみたんだよ。

このクラスターは、最小単位として正四面体構造を取り、この正四面体構造が更に繋がることでネットワークを形成するよ。

その上で、水分子クラスターネットワークがどのような構造を取るのか、というのをシミュレーションすると、ユニークな構造が現れることが分かったよ。

液体の水の2つの相のうち、探索されている相は低密度であり、それに対して普通の水は高密度である、と予想されていたけど、これの現れ方が謎の1つだったよ。

そこで、水分子クラスターがどのようなネットワークを形成するかをシミュレーションし、低密度な水の相と高密度な水の相の違いを調べたんだよ。

相の違いは紐の絡まり方の違い!

解析の結果、水分子クラスターネットワークの絡まった形状の種類数や、追加の結合が生まれることで水の密度に大小関係が発生することが分かったよ! (画像引用元: 原著論文Fig3よりトリミング)

すると、水分子クラスターネットワークは、閉じたプレッツェルのような構造2つの環が繋がった構造など[注5]、様々な形態の絡み合った紐のような構造を形成することが分かったよ。

低密度な水の相と高密度な水の相の違いは、この絡み合った紐のような構造の違い、および種類に対応することが今回分かったよ。

低密度な水の相では、高密度な水の相と比べて紐の構造の種類が少なく、相対的に隙間の多い構造の数が増え、密度が小さくなる、と言うことが分かったよ。

また、高密度な水の相では、紐同士に追加の結びつきが生まれることで紐同士の距離が縮まり、更に隙間を少なくしていく、と言うことが分かったよ!

このようなシミュレーションは、数学的にはトポロジー[注6]と呼ばれる手法に基づいているよ。トポロジーは非常に研究されていることから、根拠が明確だよ。

このため、水分子クラスターネットワークという簡略化が果たして正しいのかどうかを、数学的に検証しやすいという点で非常に便利なんだよ!

更に言えば、トポロジーが数学的に洗練されているからこそ、他の物質でも同じ手法を応用できるかもしれない、というメリットがあるんだよ!

液液相転移が予想されている物質は他にも無数にあるけれど、水より更に物性が分かっていないという点で、研究はほとんど進んでいないよ。

今回のトポロジー的な手法が応用されれば、液液相転移が更に進むかもしれないよ!

脚注

[注1] 普段目にする氷とは違う水分子の並び方をする ↩︎
普段目にする氷は氷Ihと呼ぶ。温度を下げると氷Icや氷XIなどが、圧力を上げると氷VIやVIIなどが現れ、現在10種類以上が報告されてる。

[注2] 黒鉛とダイヤモンドはその典型例 ↩︎
元素の単体である場合、このような固体の相の違いは同素体と呼ばれることが一般的である。一方で固体の相の違いで述べる時には、単体ではない化合物も含めた場合が一般的である。

[注3] 液液相転移 ↩︎
2020年には、液体硫黄にて液液相転移が観察されたと報告された。実験的に液液相転移が確認された初めての物質である。

[注4] 過冷却状態 ↩︎
本来は固体になる温度を下回っても液体のままでいる状態を過冷却と呼ぶ。液体から固体になるには、固体結晶の核となる微細な結晶粒が現れる必要があるが、いくつかの条件が揃うとこれが現れず、液体のままとなる。液液相転移が起こると予想されている物質のほとんどは、過冷却状態を条件としていることから、これまで研究が困難であった。

[注5] 閉じたプレッツェルのような構造や2つの環が繋がった構造 ↩︎
数学的にはこれを結び目と呼び、前者を三葉結び目、後者をホップ絡み目と呼ぶ。

[注6] トポロジー ↩︎
位相幾何学とも呼ばれる数学の分野の1つ。図形を粘土のように自在に変形可能なものと捉え、いくつかのルールに基づいて考える学問。例えば、ドーナツとマグカップは、どちらも穴が1つの物体であることから同じものと捉える。20世紀半ばから急速に発達した学問である。

文献情報

[原著論文]

  • Andreas Neophytou, Dwaipayan Chakrabarti & Francesco Sciortino. "Topological nature of the liquid–liquid phase transition in tetrahedral liquids". Nature Physics, 2022. DOI: 10.1038/s41567-022-01698-6

[参考文献]

  • Dwaipayan Chakrabarti. "New evidence shows water separates into two different liquids at low temperatures". University of Birmingham.
  • Peter H. Poole, Francesco Sciortino, Ulrich Essmann & H. Eugene Stanley. "Phase behaviour of metastable water". Nature, 1992; 360 (6402) 324-328. DOI: 10.1038/360324a0
  • Jeremy C. Palmer, Fausto Martelli, Yang Liu, Roberto Car, Athanassios Z. Panagiotopoulos & Pablo G. Debenedetti. "Metastable liquid–liquid transition in a molecular model of water". Nature, 2014; 510 (7505) 385-388. DOI: 10.1038/nature13405
  • Frank Smallenburg, Laura Filion & Francesco Sciortino. "Erasing no-man’s land by thermodynamically stabilizing the liquid–liquid transition in tetrahedral particles". Nature Physics, 2014; 10 (9) 653-657. DOI: 10.1038/nphys3030
  • Sander Woutersen, Bernd Ensing, Michiel Hilbers, Zuofeng Zhao & C. Austen Angell. "A liquid-liquid transition in supercooled aqueous solution related to the HDA-LDA transition". Science, 2018; 359 (6380) 1127-1131. DOI: 10.1126/science.aao7049
  • Pablo G. Debenedetti, Francesco Sciortino & Gül H. Zerze. "Second critical point in two realistic models of water". Science, 2020; 369 (6501) 289-292. DOI: 10.1126/science.abb9796
  • Laura Henry, Mohamed Mezouar, Gaston Garbarino, David Sifré, Gunnar Weck & Frédéric Datchi. "Liquid–liquid transition and critical point in sulfur". Nature, 2020; 584 (7821) 382-386. DOI: 10.1038/s41586-020-2593-1
  • Kyung Hwan Kim, et.al. "Experimental observation of the liquid-liquid transition in bulk supercooled water under pressure". Science, 2020; 370 (6519) 978-982. DOI: 10.1126/science.abb9385
彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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