【それってホント?】ティラノサウルスについて"バズったネタ"の真実とウソを徹底解説!

2022.09.30

こんにちは!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートを行っている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。




恐竜の中で一番人気なのは恐らく、最大級の肉食恐竜ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)でしょう。命名された1905年からずっとティラノサウルスは大人気!SNSでもティラノサウルスについての「実は●●」的な話題はよくバズります。

ティラノサウルス・レックスの3D復元

 

しかし、ティラノサウルスのバズったネタ、これはどこまで「正確な話」なのでしょうか?

第2回となる今回は【それってホント?】ティラノサウルスについて"バズったネタ"の真実とウソを徹底解説!と題して、これまでTVSNSで広まった(バズった)ティラノサウルスの話題を取り上げながら、「研究論文と照らし合わせると、どこまで正確な話なのか」を調べていきます!

第1回の記事はこちらから!
恐竜好きのための”動物園の楽しみ方”!恐竜と、今の動物を比べてみよう!

「ティラノサウルスは走れない」はウソ?ホント?

このネタは2000年代からバラエティ番組でもよく取り上げられており、「あの(速そうな)ティラノサウルスが?!」というギャップを狙ったネタという印象が強いです。

まず大前提として、恐竜や古生物の【正確な速さの数値】は、生きている個体にスピードテストをさせないと分からないのですが、恐竜の速さについては様々な化石や方法を使った研究が数多く発表されています。

そして「ティラノサウルスは走れない?」ネタの元になったのは、2002年の研究論文『Tyrannosaurus was not a fast runner(ティラノサウルスは速いランナーではなかった)』であり、速く走る為に必要な後肢の最小限の筋肉の質量をコンピューターモデルで推定した研究になります。この論文では「大人のティラノサウルスは大型獣脚類の中では一番走るのに適していたものの、足の速さは最速でもおよそ時速40km(秒速11m)程であっただろう」としています。この時速40kmといえば、乗用車よりは遅い数値です。

2002年の研究論文で使われたコンピューターモデルのベースになった大人のティラノサウルス “ワンケル”の全身骨格レプリカ(筆者撮影)

 

しかしながら、大人のティラノサウルスが大股の一歩で動いた時の歩幅については2013年の研究で約3.75m/歩2021年の研究論文3.89m/歩という数値が出されており、更に2019年の研究論文「腰周り・後肢・尾に付く筋肉量を推定すると、大人のティラノサウルスは同じ位の全長のギガノトサウルスやアクロカントサウルスよりも体重が重かったにも関わらず、彼らよりも素早く動く事が出来ただろう」と考えられた為、大人のティラノサウルスと人間が追いかけっこをしたら人間が逃げ切るのは中々難しかった事でしょう。

更に、若い頃の【ティラノサウルス科 Tyrannosauridae(ティラノサウルス、タルボサウルス、ゴルゴサウルス、アルバートサウルス等のグループ)】の恐竜は大人よりも長めの後肢を持っていたので、「大人よりも素早く走る事が出来ただろう」と前述の2019年の研究論文を含めた複数の研究で考えられています。

若いティラノサウルス “ジェーン”の全身骨格レプリカ(筆者撮影)

 

これまでの研究で考えられた情報をまとめると大人のティラノサウルスは車よりも速くは走れなかったと表現する方が正確な表現になりますが、2008年の研究や前述の2013年の研究では大人のティラノサウルスを含めたティラノサウルス科の恐竜とその獲物となっていた恐竜のそれぞれの後肢のプロポーションの比較も行い、「それぞれが同じ位のサイズであるならば、ティラノサウルス科の恐竜達の方が高速走行に適したプロポーションをしていた」事が分かりました。ですから獲物とのスピード勝負となれば、ティラノサウルス(特に若者)が負けるのは珍しかった事でしょう。

 

「ティラノサウルスには羽毛が生えていた」はウソ?ホント?

「恐竜と言えば鱗」というイメージに対しては、こちらも驚きのネタになるでしょう。確かに今日では数多くの羽毛恐竜が発見されていますし、鳥類型恐竜 Avian Dinosaurs(鳥類)と非鳥類型恐竜 Non-Avian Dinosaurs(恐竜)の関係に関する研究も数多く発表されています。

そんな羽毛恐竜の殆どは、肉食恐竜を含む【獣脚類 Theropoda】、その獣脚類の中でも鳥類やデイノニクス、オルニトミムス、コンプソグナトゥス等を含む【コエルロサウルス類 Coelurosauria】に含まれます。そしてティラノサウルスもコエルロサウルス類の恐竜です。

このコエルロサウルス類の中の、ティラノサウルスやプロケラトサウルス達のグループ【ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea】に目を向けると、ディロング Dilong paradoxusユティランヌス Yutyrannus hualiから羽毛の痕跡が確認されており、この内ユティランヌスは全長約7.5mと考えられている為「ティラノサウルス上科のメンバーで尚且つ大きなユティランヌスに羽毛があるのなら、全長約12mのティラノサウルスにも羽毛があったのかもしれない」と考えられる事もあります。

 

ユティランヌスの模型(筆者撮影)

 

ではティラノサウルス上科の中でも、ティラノサウルスとより近縁なメンバーやティラノサウルスそのものが含まれる【ティラノサウルス科】はどうだったのかと言うと、ティラノサウルスのある程度成長した個体やタルボサウルス、ダスプレトサウルス、アルバートサウルス、ゴルゴサウルスの皮膚の構造についての研究論文2017年に出版され、彼らの皮膚の跡等を調べた結果ティラノサウルスを含めたティラノサウルス科の恐竜は、少なくとも部分的には鱗状の皮膚に覆われていたと考えられました。

ですので、現時点ではティラノサウルスから羽毛の痕跡は見つかっていませんが、今後の発見次第では羽毛の痕跡が残された若者や子供が発見されるかもしれません。そして2004年2011年2020年の研究論文によって「ティラノサウルスには若者から大人にかけて急激に成長する期間がある」と考えられている為、若者や子供がもし羽毛を持っていた場合、成長するに従って毛が無くなっていったのかもしれません。

 

「ティラノサウルスにも家族愛があった」はウソ?ホント?

こちらは「再び歩けるまで群れの仲間が餌を与えて助けてもらったティラノサウルスがいた?ティラノサウルスにも家族愛があった?」という、ハートフルなギャップを楽しめるネタになります。

このネタの元になったのは、スー Sueというニックネームのティラノサウルスの発見です。スーは2020年のティラノサウルスの成長についての研究論文等の複数の研究で「これまでに発見された中でも最大級かつ最もお年寄りの個体」と考えられており、体中に病気や怪我の跡が見られます。

その中でも今回のネタに関係するのは、スーの膝下の左腓骨に見られる物で、この腓骨に見られるのは2020年の病理学についての研究論文等で骨髄炎の跡と考えられています。

 

(アメリカ、シカゴのフィールド自然史博物館に展示されているスーの全身骨格schusterbauer.com - stock.adobe.com)

 

この骨髄炎と考えられている病気が良くなるまでスーはどの様に生活したか?スーの発掘の指揮を執った方は、執筆した書籍日本の恐竜雑誌『ディノプレス』に掲載されたスー達ティラノサウルスの病気や怪我の跡についての記事の中で「スーが生き延びるためには、仲間に世話をしてもらうという方法に頼るしかなかったに違いない。」と述べました。確かに1900年から2005年までに発見されたティラノサウルスの個体毎のデータを纏めた2008年の研究を確認すると、スーの発掘地からはスーの他に3頭分の若い個体の部分的な化石が産出していますし、他のティラノサウルス科の恐竜でもアルバートサウルスダスプレトサウルス、そして恐らくテラトフォネウスの集団の化石についての研究が発表されています。

しかし、集団の化石が見つかった時には注意しなければいけない事があります。それは集団の化石が見つかったとしても、年がら年中集団で生きていたとは限らず、助け合いや狩りや子育てと言った【行動の一部始終】の証拠にはならないという事です。何故かと言うと、化石という物を例えるなら良くも悪くも「スナップショット」ですので、一瞬の保存は出来ても映像の様に何かの一部始終を保存する事は出来ないのです。

ですから、ある恐竜の集団化石が発見されて研究が行われた場合「どの恐竜の集団化石なのか」「集団内の個体毎の成長段階はどれ位なのか」「他の恐竜や動植物の化石は周りからどれ位見つかっているか」等はある程度分かっても、「その集団がどの様に狩りや子育てをしていたのか」「その集団は常に集団で生活していたのか、ある時期にだけ集団だったのか」「個体同士で助け合いをしたか」等は行動を観察しないと分からない事なのです。

そしてスーそのものに話を戻すと、2003年にスーの全身の骨を調べた研究論文が出版されており、左腓骨の病気の跡については「直ぐ隣に付く脛骨そのものと腓骨の関節面の形態を観察すると、スーはこの病気の所為で不自由になった訳ではない事が示唆される」と述べられました。

つまり「体中に病気や怪我の跡があるお年寄りのティラノサウルス」は見つかっていますが「群れの仲間が餌を与えて助けた」という証拠はありませんし、その様な助け合いがあったかどうかさえ、残念ながらタイムマシンで過去に行って彼らを観察しない限り知る事は出来ないでしょう。

 

また余談になりますが、テラトフォネウスの集団化石等のティラノサウルス科の恐竜についての研究が日本語で紹介される際、しばしばティラノサウルス・レックスの研究として取り上げられる事があります。これは恐らくティラノサウルス類を意味するTyrannosaur(複数形はTyrannosaurs)をティラノサウルス Tyrannosaurusと混同して訳してしまうケースだと考えられます。

そしてティラノサウルス類についての研究を纏めた2010年の総説論文で「ティラノサウルス類 Tyrannosaurはティラノサウルス上科 Tyrannosauroideaのメンバーを指す用語として使う」と記述されています。ですから、-saur-saurusrsの間にuがあるかないかの些細な違いですが、グループのメンバー全体を指すかそのグループのメンバーにいる○○サウルスを指すか、意味が大きく違ってしまいます。つまりTyrannosaurはティラノサウルスだけではなくゴルゴサウルスやユティランヌス達の事も指しますが、Tyrannosaurusは有名なティラノサウルス・レックスのみを指します。英文を読む際にちょっと気を付けるとスムーズに読める様になるポイントですので、是非覚えてみて下さい。

 

まとめ

ティラノサウルスについての研究の数はとても多いですが、ティラノサウルスに限らず恐竜の研究論文の内容がメディアに取り上げられる際には、まるで伝言ゲームの様に情報が曲がったり派手な言葉で取り上げられたりする事があります。

派手な言葉で取り上げられた情報を見たり聞いたりした時は鵜吞みにせずに「それってホント?」と一度思ってみるのも大切です。

【恐竜の事を好きでいる気持ち】と【ホントかな?と思う気持ち】は両方とも大事ですので、どちらも大切に持っていてくださいね!

 

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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