LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!
今回のお話は、カイメンの "くしゃみ" と "鼻水" に関する研究だよ。
ちょっと聞いただけでは意味不明だし、なんだか汚く聞こえるけど、こんな前置きでは想像がつかない、スゴいことに繋がるかもしれない研究だよ!最後まで読んでみてね!
CONTENTS
私たちは背骨を持つ脊椎動物の1種だよ。背骨を手掛かりにすると、脊椎動物で最初に出現した祖先の形態を残しているのは魚類である、と推定できるよ。
同じように、背骨ほど硬くはない脊索という部位を持つもの、そして脊索も持たないもの…と共通点を手掛かりにどんどん遡って行くと、動物の一番初期の形態であるカイメン[注1]に辿り着くよ。

色々なカイメンの種類と形態だよ。一見するとカイメンは、とても動物とは思えない姿をしているよね。(左からChondrilla caribensis, Aplysina archeri, Verongula gigantea, Xestospongia muta) (画像引用元: N. A. Kornder. (Aug 10, 2022) "Sponges ‘sneeze’ waste". University of Amsterdam.)
カイメンは漢字で海綿、英語でSpongeと書くように、海に生息するスポンジのような動物だよ。いや、実際にカイメンを見かけたら、動物とすら思えないかもね。
カイメンは生涯のほとんどを海底に固着して動かずに過ごすから、印象は植物に近いよ。でもれっきとした動物で、ある意味で私たちの遠い祖先だよ。
カイメンは地球で最初に登場した動物の形態を留めているとも推定されているから、カイメンの研究は、動物の進化という重要な研究にも繋がるよ!
ところで、カイメンの名前の由来である多孔質の身体は、海水を濾過し、海水に含まれる粒子状の有機物や微生物をとらえて栄養源とするためにあるよ。
カイメンの濾過システムは、自然な海水の流れで進むこともあるけど、カイメンが自ら積極的に海水を濾過することも明らかになっているよ。
この時カイメンは、海水の出入り口となる穴を含め、身体の表面を局所的に伸縮させ、海水の出入りを制御する行動を取るよ。
このカイメンの行動は、まるで消化管を持つ生物が行う蠕動運動[注2]のようにも思えることから、注目されているよ。
そしてこの行動は、研究者の間で "くしゃみ" (Sneeze) [注3]と形容されているよ。といっても、この "くしゃみ" は1回に20分から50分もかかる、とってもゆっくりな行動だよ。

カイメンの "くしゃみ" は、身体の表面を局所的に伸縮させて行う動きだよ。1回の "くしゃみ" にかかる時間は20分から50分と、とても長いよ! (画像引用元: 原著論文 Video S1 より画像キャプチャー)
さて、この濾過システムは、栄養源となる固形物を、栄養吸収のための器官である内管系に通すものだから、そのままでは老廃物や未消化物といったゴミが体内に蓄積してしまうよ。
特に、内管系の複雑な構造を考えると、身体の奥深くに入り込んだゴミは、底に沈んだ状態で中々除去されず、詰まりの元となる恐れもあるよ。
そこで、内管系は枝分かれしていて、出入り口もたくさんあることから、これまでは海水を濾過する過程で "くしゃみ" をすることで、積極的に体内のゴミを除去すると考えられてきたよ。
ところが最近になって、カイメンは "くしゃみ" だけでなく、ゴミを身体の表面から放出される粘液に絡め、身体の外へと放出するシステムがある、とも指摘されてきたよ。
これは "くしゃみ" に対して "鼻水" [注4]とも思えるけど、人間はもちろんのこと、最も原始的な動物ではサンゴなどの刺胞動物でも観られる、動物共通のシステムだよ。
"くしゃみ" に加えて "鼻水" までもがカイメンで観察されれば、この異物除去システムは動物の進化において、極めて早い段階で備わったもの、と考えることもできるよ。
ただ、カイメンの "くしゃみ" や "鼻水" の研究はほとんど進んでいなくて、多くの部分が謎のまま残されているんだよ。
アムステルダム大学などの研究チームは、このカイメンの "くしゃみ" と "鼻水" について、いくつかの視点から研究を行ったよ。
観察対象としたのは、その形態からストーブパイプ (Stove-pipe sponge) とも呼ばれるカイメンの1種で、カリブ海などに生息するAplysina archeriだよ。
研究ではまず、野生のAplysina archeriをタイムラプス動画として撮影し、 "くしゃみ" を含むゴミの除去の過程を観察したよ。

Aplysina archeriで観察された "くしゃみ" と "鼻水" の役割だよ。内管系の入り口から逆流で排出された有機物粒子のゴミは、身体の表面にある粘液のネットワークに絡め取られるよ。 (画像引用元: 原著論文 Video S1 より画像キャプチャー)
すると、内管系にあるゴミは、内管系の流れとは反対方向に "くしゃみ" と共に入り口から排出されたよ。これまでの研究でも、ここまでは観察されていたよ。
ただ、入り口をより広い領域で観察していると、排出されたゴミは、カイメンの表面に張り巡らされた粘液のネットワークに絡み取られることが分かったよ。
この粘液は、カイメンの表面にただ存在するだけでなく、身体の伸縮によって輸送され、ある程度の大きさの塊になると、外へと放出されるよ。

粘液で絡め取られたゴミは輸送され、やがて塊となり、外部に排出されるよ。 (画像引用元: 原著論文 Video S1 より画像キャプチャー)
つまり、この観察を観ると、カイメンはそこに鎮座しているのではなく、 "くしゃみ" でゴミを体内から除去し、更に "鼻水" に絡めた上、それを輸送して外部に捨てている、と言うことになるよ。
では、この推定が正しいのかな?という訳で、今度はAplysina archeriを水槽の中に入れ、 "くしゃみ" を伴う一連の行動の前後で起こる変化を観察したよ。

Aplysina archeriを24時間入れた水槽 (濃い灰色) と何も入れていない水槽 (白色) の箱ひげ図。A: 粒子状物質の重量。 B: 粒子状有機態炭素の量。 C: 粒子状有機態窒素の量。 D: 炭素窒素比。 E: 有機態炭素の含有割合。 F: 有機態窒素の含有割合。カイメンのいる水槽では、栄養分となる有機態の炭素や窒素が増えていることがわかるよ。 (画像引用元: 原著論文 Figure 2)
水槽に入れてから24時間後、海水に含まれていた粒子状の廃棄物を調べたところ、比較用としてカイメンを入れていない水槽と比べ、重量が倍に増えていることが分かったよ!
有機態炭素と有機態窒素[注5]の量は、カイメンの入っていた水槽の方が明らかに多くて、これはカイメンの粘液に含まれる有機物の追加が関与している可能性が高いんだよ!

実験に使ったのとは別種のカイメン、Halisarca caeruleaの表面を観察したもの。Halisarca caeruleaが放出した有機物をイトミミズのような微生物が食べているよ。 (画像引用元: 原著論文 Video S3 より画像キャプチャー)
今回の研究に基づけば、海に豊富に生息するカイメンの、生態系における立ち位置が見直される可能性があるんだよ。
カイメンが生息する熱帯のサンゴ礁や深海は、海水に含まれる栄養分の濃度が低い傾向にあるよ。カイメンはこの状況を改善してくれる存在、とこれまで考えられてきたよ。
カイメンが食事をした後に放出するゴミは、カイメンが栄養吸収した残りとは言え、それでも有機物を豊富に含んでいるよ。
更にカイメンの濾過するシステムのおかげで、海水に低い濃度でしか含まれていない栄養分を、ゴミという形で濃集してくれるというメリットもあるんだよ。
ところが最近の研究では、放出するゴミの量が予想外に少ないことから、カイメンは生態系の根幹をあまり担ってくれていないのではないか、という見直しの議論があったんだよ。
しかしながら今回の研究によれば、そもそもゴミの放出量を海水の出口で測っていたのが過小評価に繋がっていて、入り口からの逆流も測らないといけない、ということになるよ。
また、ゴミだけでなく粘液を追加することで、栄養源となる有機物の量が更に追加される、という点で、最近の研究とは真逆の評価となる可能性すらあるんだよ!
この点についてきちんと評価するには、今回研究したAplysina archeri以外のカイメンでの "くしゃみ" や "鼻水" についてきちんと評価しなければならないよ。
今回の研究では、インド洋に生息する別種のカイメンである野生のChelonaplysilla属を調べてみると、 "くしゃみ" は観察されたけど、粘液のネットワークはあまりはっきりしなかったよ。
果たして、他のカイメンではどの程度この活動が一般的であるかを調べることで、生態系におけるカイメンの再評価が進むことになるんだよ。
更に面白いのは、ゴミを輸送するための粘液を動かすカイメンの身体の動きだよ。これは実は生物が複雑に進化していったことと深く関係している可能性すらあるよ。
生物は最初は単細胞生物として生まれたけど、やがて細胞同士が集合し、細胞ごとに別々の役割を持つ多細胞生物へと進化、複雑化していったと考えられているよ。
多細胞生物がきちんと活動するには、栄養をきちんと取りこみ、全ての細胞に分配して、ゴミをきちんと放出する、という一連のメカニズムが構築されていないといけないよ。
カイメンの内管系では、急速な細胞分裂と脱落と言う、哺乳類の腸における急速な細胞の更新とよく似ている細胞活動が既に観察されているよ。
同様に今回の "くしゃみ" という動きは、上記の消化管に類似した細胞活動に加えて、非常に初期段階の筋肉の動きを観ているかもしれないから、非常に興味深いんだよ!
一方で、今回の研究では完全に解明されていない、いくつかの謎も残されたよ。それは今回焦点を当てた粘液についてだよ。
まず、粘液は放出する有機物の量を増やすという意味で、それを栄養源とする生態系にとっては利点になるけど、カイメン自身についてはきちんと明らかにされていないよ。
カイメンにとって粘液を放出するのがどれくらいの負荷になるのかや、栄養摂取やゴミの放出を含めたトータルコストに占める割合もまだ分かっていないよ。
また、粘液のネットワークはカイメンの身体の表面の伸縮によって移動するけど、この移動の詳しいメカニズムは明らかにされていないよ。
例えばヒトを含めた多くの動物の場合、粘液を移動させるのは内管系の内側にある繊毛だよ。肉眼では分からないほど極めて細かく密集して生えた繊毛は、粘液が内管系にこびりつくのを防ぐよ。
一方で、カイメンの身体に生えている繊毛は非常に密度が低く、粘液を輸送するのには役に立たないと今回推定されたよ。では何が粘液を運んでいるのか、という根幹的な謎が出てくるよ。
カイメンの研究は、種の多さに比べるとまだまだ進んでいるとは言いづらいから、今回の "くしゃみ" や "鼻水" がどの程度カイメンで一般的なのかは未知数だよ。
もしかしたら今回の研究が発展すれば、生態系の根幹を支えたり、生物が複雑化する過程を観る資料として、カイメンの学術的価値が一段と高まるかもしれないよ!
[注1] カイメン ↩︎
海綿動物門に属する動物の総称だよ。身体の対称性は最低限で、極めて原始的な動物である一方、遺伝子のレベルでは他の動物との共通点も多いことから、最古の動物の形態を留めていると考えられているよ。
[注2] 蠕動運動 ↩︎
消化管内部の物質を動かすために行う、消化管の伸縮運動のことだよ。食道から大腸まで食べ物や飲み物が移動するのは蠕動運動のおかげだよ。
[注3]"くしゃみ" (Sneeze) ↩︎
私が調べた範囲では、カイメンのこの動きについては繰り返しSneezeという用語が使われているよ。改めて命名し直されない限り、もしかすると "くしゃみ" は比喩ではなく正式用語となる可能性もあるよ!
[注4]"鼻水" ↩︎
これは私が独自に使った比喩なことに注意してね。カイメンには当然鼻がないし、粘液は "くしゃみ" に直接関連して排出されるわけではないからね。
[注5] 有機態炭素と有機態窒素 ↩︎
非常に簡単に言えば、生物が栄養源として利用可能な化学形態をしている炭素化合物や窒素化合物のことだよ。
[原著論文]
[参考文献]