単体の炭素を生成する生物を初めて発見!

2021.11.17

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回の解説は、生物の代謝によって単体の炭素が生成される事を確認した初の報告についての解説だよ!

まだまだ未知の部分が多いけれど、もしかするとこの発見は、この地球における炭素循環に影響する可能性があるかもしれない発見だよ!

生き物に身近ではない炭素

6番元素の炭素は、生命において重要な元素なのは、わざわざ言わなくても分かるよね?

炭素は非常に複雑な化合物を作るする事が可能で、筋繊維やDNAと言った非常に複雑な分子は炭素無しには生成しないよ。炭素を含む化合物は有機物と言う、と言うのもよく知られているよね?

ただし、炭素を含んでいても有機物とは呼ばれないものがあるよ。二酸化炭素、炭酸塩、シアン化物、そして忘れちゃならないのが単体の炭素だよ。

そもそも有機物とか無機物とかいう区分は、18世紀ごろに有機体、つまりは生命が生み出す物質を特別扱いして有機物という区分を設けた、という歴史的経緯があって、基本的には有機体が生み出さない物質を無機物扱いしていたよ。

もちろん現代的な視点で言えばこれは間違いではあるんだけど、ただし、現在でも有機体が生成する事が知られていない炭素を含む物質があったんだよ。それは炭素の単体だよ。

炭素の単体は、有機物が分解し、有機物を構成する水素や窒素などが全て抜け出すような環境でしか生成されないよ。これはしばしば生命が存在できないような高温高圧の環境となるよ。

例えば木炭や煤は火を見るよりも明らかな高温が必要だし、石炭や石墨、ダイヤモンドは地下深くで長い年月をかけて高温高圧が加わって生成されるよ。

後は宇宙から降ってくる隕石には見つかるけど、これも生命の証拠はないよ。面白い事に、生命の最も基本的な元素である炭素について、その単体を生成するような生物代謝は未だに未発見だったんだよ。

ただし、単体の炭素は生命に全く無縁の無機物、という訳でもなくて、いくつかの細菌や真菌は単体の炭素を代謝できる (生分解できる) 、又はその可能性が指摘されていたよ。

海底の微生物を培養して生じた、正体不明の黒い物質

グアイマス海底盆地の写真で、白色からオレンジ色の部分が今回採集されたものを含む微生物の集団だよ!
画像引用元: Dr. Gunter We­gener. (Oct 27, 2021) "Microorganisms produce elemental carbon". MARUM - Center for Marine Environmental Sciences, University of Bremen. (リンク)

今回のバージニア工科大学などの研究チームがまとめたのは、そんな今まで空白だった、単体の炭素を生成する生物についての初めての報告だよ!

研究チームは元々深海に生息する微生物の微生物を研究しているよ。今回の研究では、カリフォルニア湾にあるグアイマス海底盆地と、ナイル川河口にあるナイル海底扇状地から採集されたサンプルの微生物を培養して、代謝で生じる生成物を分析した際に偶然発見したものだよ。

グアイマス海底盆地を含むカリフォルニア湾は東太平洋海嶺に位置して、海底から高温の熱水が噴き出す熱水噴出孔が存在するよ。グアイマス海底盆地のサンプルAOM50は、ANME-1aとHotSeep-1という微生物群 (前半は古細菌・後半は真正細菌) が存在するよ。

一方、ナイル海底扇状地は冷水噴出孔が存在し、冷たい水が噴き出しているよ。ナイル海底扇状地のサンプルAOM20はANME-2a/cとSeep-SRBという微生物群が存在しているよ。

これらのサンプルにはANME (嫌気的メタン酸化古細菌) という古細菌が含まれている点が重要だよ。

ANMEは、炭素を含む物質 (大半は二酸化炭素) を代謝して活動する古細菌で、酸素も光もない暗闇の環境で生物が適応した例であり、有機物の分解や海底火山のガスに含まれる炭素化合物を代謝してメタンを生成する主要な役割を果たしているとみられているよ。

左画像: 今回のサンプルを数ヶ月培養すると、単体の炭素が生成される事が分かったよ。瓶の中の浮遊物のほとんどがそれだよ!
右画像: 培養で生じた物質の拡大写真だよ。黒色の点々が単体の炭素、無色から琥珀色の透明結晶はリン酸マグネシウムだと特定されたよ。 (スケールバー200μm)
画像引用元: Dr. Gunter We­gener. (Oct 27, 2021) "Microorganisms produce elemental carbon". MARUM - Center for Marine Environmental Sciences, University of Bremen. (リンク)

AOM50は50℃、AOM20は20℃で培養して、何が生成されるのかを調べたよ。深海にすむ微生物は全体的な活動が遅く、培養には数ヶ月かかる事がしばしばあるから、根気のいる作業だよ。

すると、無色から琥珀色をした透明結晶と、そこに含まれる直径2.5μmから4.5μmの黒い球状物質が見つかったよ。透明結晶は、培地中にある過剰なリン酸がリン酸マグネシウムの結晶を作る事が同定されたけど、一方で黒い物質は正体不明だったよ。

この黒い物質はとても化学反応に乏しくて、水酸化ナトリウムや塩酸、硝酸で処理しても反応せず、塩酸と硝酸の混合物で100℃に加熱し2日間置く事でようやく溶けたよ。

これは単体の炭素と特徴が一致する化学反応の乏しさで、最後の処理で酸に溶けたのは、炭素の表面に水素や酸素が化合する事で部分的に有機物となり、徐々に溶けていった、と考えると説明がつくよ。

単体の炭素を生成するヤツがいた!

単体の炭素かもしれないという事で、次にその正体を探ったよ。

まず、生物とは関係なく生成した可能性を考えて、実験室で非生物的に炭素が生成するかを再現した実験や、培養する瓶を密封するゴム栓が欠けて混ざった可能性、更には単体の炭素を抽出するプロセスで生成しないかを大腸菌を培養したサンプルで実験したよ。

しかしながら、これらの可能性は除外されたよ。次に、この黒色の物質を走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光法、ラマン分光法、X線光電子分光法でそれぞれ調べると、内部の一部に黄鉄鉱、表面にタンパク質が結合しているけど、その他の大部分が単体の炭素で、結晶構造が存在しない無定形炭素である事が分かったよ!

この無定形炭素が、本当に生命活動で生成したかを明らかにするために、微生物群から細菌の一部を取り出して培養する事にしたよ。

まず、グアイマス海底盆地にいるHotSeep-1に含まれる真正細菌Candidatus Desulfofervidus auxilii (Candidatusは暫定的に与えられた学名である事を表すよ) を培養すると、そこからは黒い物質が生成しなかったことから、黒い物質は古細菌に由来するものと考えられるよ。

そこで、古細菌であるMethanocaldococcus jannaschiiMethanococcus maripaludisMethanosarcina barkeriの3種を、他の比較対照群などと共に培養したよ。

この時、古細菌の栄養として与える二酸化炭素を工夫して、炭素13という同位体の比率を、天然に存在するものとは違う値として標識したよ。もし無定形炭素が生物の代謝によって生成するなら、二酸化炭素が元になっているはずで、違う作用で生成したものとは異なる比率の無定形炭素が生成するはずだよ。

結果はビンゴで、二酸化炭素と水素を与えて培養した古細菌は、サンプルから取り出す前の微生物群よりは効率が悪いけど、同位体の比率が自然に存在するものとは異なる無定形炭素を生成する事を確認したよ!

まだまだ研究は始まったばかり!

という訳で、今回の研究では、生物は単体の炭素を生物代謝によって生成する事が可能、という事が突き止められたよ!

今回の研究で分かったのはここまでで、他の重大な疑問点、なぜ単体の炭素を生成するのか、どんな生理学的な作用で単体の炭素が生成されるのか、生成効率や地球の炭素循環における影響は、といった様々な疑問点については、今回の研究では分からなかったよ。ただし、全くの手掛かりなしではなく、今回の研究からいくつかの推定が成り立つよ。

まず、分析した炭素からは、内部に鉄、外側にタンパク質が見つかったよ。内部の鉄は、その状態から炭素の生成に関与している可能性が示された一方で、外側のタンパク質は100種類以上もあって関連性が観られない事から、偶然付着しているだけで特に関係なさそうだという事が分かるよ。

次に、どのような酵素が関与しているかなど、詳細な反応は不明だけど、全体的な化学反応としては、二酸化炭素と水素から単体の炭素と水を生成する反応だと観られているよ。

この手がかりは重要で、将来の研究においてどのような生理学的な機構が存在するかなどを探すヒントになると思うんだよ。

更に、今回見つかった無定形炭素の詳細な構造を解析すると、電子を運びやすい構造をしている事が分かったよ。電子が行き来するという事は、化学反応がより速く進むという事になるから、単体の炭素を生成する理由は、微生物群の中での生化学的な反応の促進のためと言う推測が出てくるよ。

また、今回培養した古細菌のうち、Methanococcus maripaludisは微妙に異なる構造の無定形炭素を生成したんだけど、これは微妙すぎる違いで無意味な可能性から、生物種による役割の違いを反映している可能性もあるかもしれないよ。

これまで単体の炭素は、自然界では生命活動とは無関係に生成されるもの、という見方をされていたから、生物が直接単体の炭素を生成するという事実は、自然界で単体の炭素が見つかった場合に、生命活動由来である可能性も選択肢に入るという点で、とても重要だよ!

加えてこれは、地球全体の炭素循環に影響を及ぼすかもしれないよ。代謝でメタンを生成するメタン菌は深海や地中に大量に生息している一方で、単体の炭素は化学反応に乏しいから、炭酸塩のように炭素循環から除去された炭素とみなす事ができるよ。

単体の炭素を生成するメタン菌の割合によっては、地球の炭素循環や気候変動に影響を及ぼすかもしれないよ!この研究はあくまで初めの一歩、これからの発展に期待だね!

文献情報

[元論文]

  • Kylie D. Allen, Gunter Wegener, D. Matthew SublettJr, Robert J. Bodnar, Xu Feng, Jenny Wendt & Robert H. White. "Biogenic formation of amorphous carbon by anaerobic methanotrophs and select methanogens" Science Advances, 2021; 7, 44. DOI: 10.1126/sciadv.abg9739

[参考文献]

  • Dr. Gunter We­gener. (Oct 27, 2021) "Microorganisms produce elemental carbon". MARUM - Center for Marine Environmental Sciences, University of Bremen.
  • Yakov Kuzyakov, Irina Subbotina, Haiqing Chen, Irina Bogomolova & Xingliang Xu. "Black carbon decomposition and incorporation into soil microbial biomass estimated by 14C labeling". Soil Biology and Biochemistry, 2009; 41 (2) 210-219. DOI: 10.1016/j.soilbio.2008.10.016
  • Andrew R. Zimmerman. "Abiotic and Microbial Oxidation of Laboratory-Produced Black Carbon (Biochar)". Environmental Science & Technology, 2010; 44 (4) 1295-1301. DOI: 10.1021/es903140c
  • Mirosława Szczesna-Antczak, Agata Kaczorowska, Witold Kaczorowski & Tadeusz Antczak. "Biomodification and biodeterioration of carbon coatings by fungal strains". International Biodeterioration & Biodegradation, 2014; 88, 106-117. DOI: 10.1016/j.ibiod.2013.12.013
  • Lerato Mary Sekhohola, Michelle Louise Isaacs, Ashton Keith Cowan. "Fungal colonization and enzyme-mediated metabolism of waste coal by Neosartorya fischeri strain ECCN 84". Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2014; 78 (10) 1797-1802. DOI: 10.1080/09168451.2014.930325
彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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