エンドトキシンとは?関連語も含めてわかりやすく解説!

2021.09.27 監修 深江化成株式会社

細胞培養などの実験を行う皆さんは、「エンドトキシンフリー」や「パイロジェンフリー」のプラスチック製品を見かけることがあると思います。
この「エンドトキシンフリー」とはいったい何を指すのか?エンドトキシンがあると何が悪いのか?エンドトキシンフリーとパイロジェンフリーは何が違うのか、について、パイロジェンフリー製品を多数含むWATSONブランドを手掛ける、深江化成株式会社様に解説いただきました。

この記事はこんな人に向いています

  • エンドトキシンがなにか知りたい人
  • エンドトキシンフリーだと何がいいかを知りたい人
  • 細胞培養が必要な研究をしている人、これからしようとしている人

エンドトキシンってどういうもの?

歴史的には、1892年 Pfeiffer がコレラ菌(1883年にKochによって発見された)の耐熱性毒素について菌体に由来するものとして命名したのがはじめといわれています。“endotoxin”はギリシア語の“endo-”「内部の」と英語の接尾語“-toxin”「毒素」を組み合わせた造語で、日本語では「内毒素」と訳されます。

“endo-”はendothelium(内皮)やendocytosis(飲食作用)など、生物の研究者の方にはおなじみかと思います。“-toxin”もtetrodotoxinがフグ毒として有名ですね。(ちなみにtoxinは中世ラテン語“toxicus”「中毒」、ラテン語“toxicum”「毒」、ギリシャ語“toxikon”「矢毒」“toxon”「弓」と遡ることができるようです。)対義語には“exotoxin”(“exo-”「外部の」)「外毒素」があります。

細菌が生きて産生し「外部」に分泌する毒素が「外毒素」であるのに対し、細菌が死んだ後に菌体の細胞壁が壊れて「内部」に存在する細胞膜の構造が毒素として作用するところから「内毒素」と呼ばれています。内毒素を持つ細菌はグラム陰性菌と呼ばれるグループの細菌で、発見の元となったコレラ菌をはじめ赤痢菌,チフス菌などが含まれます。いずれの細菌もその毒素となる部分は共通で細胞壁の成分、細菌表面の毛のようなリポ多糖体(LPS)の根元のリビドAと呼ばれる構造です。

エンドトキシンはピコグラムやナノグラム単位という微量でも血液中に入ればマクロファージや樹状細胞などの免疫担当細胞に作用し、体に発熱をはじめ種々の生体反応を引き起します。大量にエンドトキシンの混入があるとエンドトキシンショックと呼ばれるショック状態に陥るなど命に関わる重大な影響を及ぼします。

エンドトキシンフリーって?

前章で説明したとおり、体内に入ると深刻な症状を引き起こすエンドトキシン。注射剤や医療機器などが汚染されていると大変なことになります。「エンドトキシンフリー」というのはそのようなことがないよう「エンドトキシンを規定値以下にコントロールしていますよ」ということです。

注射剤、医療機器以外にも、再生医療製品、バイオ医薬品製品、透析用剤などの分野でエンドトキシンフリーは重要な要件となっています。

パイロジェンとは?

「エンドトキシン」とほぼ同義語のように使われる言葉に「パイロジェン」があります。
この二つは同じなのでしょうか?違うとすれば何が違うのでしょうか。その違いや使い分けについて考えてみましょう。

「パイロジェン」とはそもそも何なのか?それを知るためには「パイロジェン」の発見と命名の経緯を紐解く必要があります。「パイロジェン」は19世紀末、感染症の予防法として注目されはじめたワクチン開発や静脈注射の普及の途上で「謎の発熱」として問題になっていた現象を説明するため仮定された概念です。これについては『エンドトキシン研究 第10巻』「1.血液製剤の発熱性物質 山本明彦著」日本エンドトキシン研究会 編集 に詳しいので引用してみましょう。

不活化細菌ワクチンは1886年にドイツのPfeiffer とKolle およびイギリスの Wright らによって同時期に、加熱処理チフス菌ワクチンとして作成されたのが最初である。このワクチンの人への接種により、特異抗体の産生を証明したことによってヒトへの実用化が始まった。チフス菌ワクチンの作製以降から1920年頃までは、加熱死菌ワクチンが数多く作製された。当時は Pasteur らの in viitro 長期継代による弱毒化生ワクチンも作製され、これらの投与によって細菌感染に対して劇的な予防効果が示された。しかし感染の予防効果が期待されるワクチンの投与によって、投与後に発熱が惹起されるという新たな問題が生じた。すなわち感染した細菌が体内で増殖して生じると考えられていた発熱が、死菌ワクチンの投与によっても起きることが示された。さらに同時期に、静脈注射の普及に伴い、生理食塩水、ブドウ糖注射液などの静脈注射により、注射後30~60分にしばしば悪寒戦慄を伴う発熱現象が認められた。その原因として細菌汚染の可能性が指摘され、1923年にSeibert によって汚染細菌の代謝産物が原因であり、ウサギを用いてこの細菌代謝産物の発熱活性を測定できることが報告された。この死菌ワクチンや生理食塩水、ブドウ糖注射液などによる発熱の原因は、これに含まれていたグラム陰性菌の細胞膜に由来する耐熱性毒素によることが確認された。これが「身体を燃やす物質」という意味のパイロジェンまたは発熱物質と呼ばれるようになった。

上記のような経緯から、当初「パイロジェン」は「エンドトキシン」と同じ物を指していました。(ちなみに“pyro-”はギリシャ語の「火」“pŷr”で 英語“fire”と同源、“-gen” はギリシア語の「生まれた」「産出された」“genēs” が由来です。“pyrogen”の「発熱物質」の意味での英語初出は1896年とのことだとか。だいたい上記ワクチン開発が始まった時代に合っていますね。ギリシア語で“pyrogenes” は”born in fire, wrought by fire.” 「火の中で生まれ、火によって鍛えられた。」を意味するそうです。

参考:https://www.etymonline.com/word/pyrogen#

その後パイロジェンの意味が広がった

その後、グラム陰性菌のエンドトキシン以外にも体温を上げる発熱物質が他の微生物由来のものやウイルスなどから見つかってきたため、現在では、パイロジェン=エンドトキシンではなくエンドトキシンはパイロジェンの一部という認識が一般的となっています。

さらに、パイロジェンは細菌など外来性のもの(外因性発熱物質)と、それに反応して生体が自ら放出するもの(内因性発熱物質)の総称という位置付けになり、もはや広義には毒素を指す言葉ですらなくなってしまいました。

エンドトキシンフリーならパイロジェンもフリーっていえるの?

エンドトキシンはパイロジェンの一部で厳密には同じではないということがわかりましたが、では、よく同じ意味で使われる「エンドトキシンフリー」と「パイロジェンフリー」も同じではないのでしょうか?これまでの話からすると「パイロジェンフリー」の方が「エンドトキシンフリー」よりも、いろんな発熱物質を含んでいないようで、より強力な印象を持ちそうですが、実はこの二つは同じと言っていいのです。

というのも、外因性発熱物質で最も不活化が難しいのがエンドトキシンだからです。毒素界のラスボスと言ってもいいかもしれません。その理由はエンドトキシンの耐熱性にあります。多くの細菌やウイルス、生理作用物質は放射線滅菌、ガス滅菌、オートクレーブなどで処理すれば不活化できますがエンドトキシンは不活化できません。

ですので、エンドトキシンを不活化できるほど過酷な条件の処置を施せば、その他の毒素は余裕で不活化できるというわけです。「エンドトキシン(パイロジェン)フリー」という表記を目にすることがあると思いますが、「エンドトキシンフリー」なら「パイロジェンフリー」と称しても問題ないのはこのためです。実際パイロジェンフリーを保証するための試験ではエンドトキシンが無いことを調べています。

エンドトキシン不活化の条件とは?プラスチックで実現できるの?

エンドトキシンの不活化は一般的な手順では250℃ 以上で30分以上の乾熱を行います。ガラスや金属の製品なら可能ですが、プラスチックの場合はそうは行きません。多くの熱可塑性プラスチックは250℃ともなると変形・溶融してしまいます。

WATSONブランド製品にはプラスチックのパイロジェンフリー製品が多数ありますが、どうやって実現しているのでしょうか?熱可塑性プラスチックは成形時に高温で溶融し高圧で射出成形します。この時、一度エンドトキシンが不活化されると考えられ、これを利用しています。
成形後のエンドトキシン混入を防ぐため、クリーンルーム内で射出成形し成形後速やかに封入します。プラスチックという材料の特性上、一般的な不活化条件とは異なりますが、できあがった製品に対し、定期的な抜き取り試験を実施しパイロジェンフリーであることを確認しています。

パイロジェンフリーマークが付いています

WATSON製品ではパイロジェンフリーの製品にはカタログなどにマークを付けてお知らせしています。ご要望に応じて製品試験書を発行しており、パイロジェンフリーを保証しています。

再生医療研究向け三重包装「粋(すい)」シリーズのチップ・チューブ、ディスポピペット、クライオチューブ、培養プレート、遠沈管、滅菌スプーン・スコップなど、多数パイロジェンフリー製品をお届けしていますので是非ご利用ください。