著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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脳と頭蓋骨髄を結ぶ新たな免疫ネットワークを発見。頭蓋骨髄内に形成されたリンパ組織が脳由来抗原を監視し、グリオーマへの抗腫瘍免疫にも関与する可能性を解説します。
頭蓋骨骨髄から脳へつながる血管についての論文が発表されたのが2018年(https://aasj.jp/news/watch/8894) だが、8年たった今年には頭蓋に直接ナノ粒子に詰めた薬剤を注射して脳に運ばせるという驚くべき研究まで進んでいる(https://aasj.jp/news/watch/28166)。 即ち、頭蓋骨髄と脳との関係には我々のまだまだ知らない秘密があることを示唆している。
CONTENTS
本日紹介する論文
今日紹介するワシントン大学からの論文は、頭蓋骨髄の中には脳由来抗原をサーベーランススルリンパ組織まで存在することを示した研究で、8月19日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Functional role of skull lymphoid structures in CNS immunosurveillance(頭蓋リンパ組織の脳の免疫監視機能)」だ。
解説と考察
何か特別な現象がきっかけになったというより、脳との直接血管ルートがあり、頭蓋骨髄で作られた血液細胞が直接脳に到達しているとしたら、頭蓋内に抗原反応を調節するリンパ組織が形成しているはずだという、まあ当然の成り行きとして研究が始まっている。最初から、リンパ組織に存在するようなリンパ球が頭蓋組織にないか単一細胞レベルの探索を行い、その結果 Tfh と呼ばれる、リンパ濾胞に存在するT細胞の存在を発見している。他の骨髄組織を調べると、Tfh の下図は半分以下で、組織学的にもクラスターを形成しており、リンパ組織が形成されているように見える。
一方、B細胞も、いくつかの活性化マーカーを発現した集団が頭蓋骨髄だけで見られ、IgG を分泌するプラズマブラスト細胞も存在している。さらに、Tfh や B細胞は同じクラスターに集まっており、T と B細胞が直接接して存在する像も、頭蓋骨髄のみで見られることから、他の骨髄とは異なり、頭蓋骨髄ではリンパ組織が形成されていると言って良い。
最後にこのリンパ組織が機能的かどうかを調べるため、卵白アルブミン (OVA) をモデル抗原として脳に発現させ、これに対する反応が頭蓋で起こっているかを調べ、抗原が頭蓋へ移行していること、OVA反応性細胞の T、B細胞が誘導されていることを明らかにしている。
今度は同じようにOVAを発現するグリオーマ細胞を脳に移植し、これに対する抗腫瘍免疫反応を調べている。まず、CD40抗体を頭蓋内に注射して、局所的に抗体反応を抑えると、ガンの増殖が促進する。即ち、グリオーマについてはガン特異的抗体反応も重要な働きをしており、これはもっぱら頭蓋で合成される。逆に、CD40を刺激する抗体とともに IL21とインターフェロンγを投与することで、グリオーマの増殖を一定程度抑えることができる。また、この処理でNK細胞が増え、D8やCD4T細胞も強くはないが上昇する。しかも、CD8細胞のキラー分子の発現は大きく増強される。このような抗ガン作用は、全身に同じ処理をしても得られない。ただ全身のリンパ組織がなくても、頭蓋だけで反応が維持できることも示しており、極めて局所の反応と言える。気になるのは、全身のリンパ組織のないマウスとして、lymphotoxinノックアウトマウスを使っており、これで頭蓋の反応が起こるのは、LTαとは全く異なるメカニズムでリンパ組織を頭蓋では形成できることになる。
まとめと感想
以上が結果で、特に驚きはないが、脳と骨髄の関係の研究はますます拡大する気がする。