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(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 画像引用元)
みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!
今回はみんな大注目!2025年ノーベル物理学賞の解説だよ!
まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!
2025年10月7日
スウェーデン王立科学アカデミーは、2025年のノーベル物理学賞を以下の者に授与することを決定した。
ジョン・クラーク (John Clarke)
カリフォルニア大学バークレー校、アメリカ合衆国ミシェル・H・デヴォレ (Michel H. Devoret)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校、アメリカ合衆国ジョン・M・マルティニス (John M. Martinis)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校、アメリカ合衆国「電気回路における巨視的な量子力学的トンネル効果とエネルギーの量子化の発見」に対して。
チップ上での実験は、量子の物理学的ふるまいを明らかにした
物理学における重要な問いの1つは、量子力学的効果を実証できるシステムの最大サイズである。今年のノーベル賞受賞者は、電気回路を使った実験を行い、手に持てるほどの大きさのシステムで、量子力学的トンネル効果と、エネルギー準位の量子化の両方を実証した。

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)
John Clarke (ジョン・クラーク)
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、ケンブリッジ出身
1942年生まれ (82-83歳)
カリフォルニア大学バークレー校 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)
Michel Henri Devoret (ミシェル・アンリ・デヴォレ)
フランス共和国、パリ市出身
1953年生まれ (71-72歳)
イェール大学 (アメリカ合衆国) およびカリフォルニア大学バークレー校 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)
John Matthew Martinis (ジョン・マシュー・マルティニス)
1958年生まれ (66-67歳)
カリフォルニア大学バークレー校 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3
CONTENTS
2025年は、原子や素粒子の振る舞いを記述する「量子力学」の誕生から100年目と言われているのよね。その理由は、ヴェルナー・ハイゼンベルク (1901-1976) によって1925年に書かれた論文の草稿、通称「再解釈 (Umdeutung) 論文」が、現在まで続く量子力学の礎となっていることにちなんでいるのよ。
ハイゼンベルグが、この論文を投稿すべきか相当悩み、ヴォルフガング・パウリ (1900-1958) やマックス・ボルン (1882-1970) と相談したくらいなように、量子力学は当時でも、そして現代においてすら、かなり奇妙に思える物理学なのよね。その奇妙な現象の1つは、粒子の位置やエネルギーなどの「重ね合わせ」だね。

壁に向かってボールを投げれば、跳ね返って自分の側に戻ってくるのは当たり前に思えるよね?ところが量子力学の世界では、勝手に壁の向こう側に飛んでしまう「トンネル効果」があることが知られているのよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
例えば、壁に向かってボールを投げるとどうなるか。普通ならば壁にぶつかって跳ね返るよね。ところがこれを原子くらいのミクロな世界でやると、壁にぶつかって跳ね返る場合もあれば、壁の反対側にすり抜けてしまう場合もあるんだよね!私たちのマクロの世界では奇妙過ぎる現象だけど、ミクロの世界ではこれが起こるんだよね。
あたかも、壁に穴を開けて反対側へ抜けたように見えることから、これは「トンネル効果」と呼ばれているよ。もちろん実際には、壁に穴は開いておらず、お互いに無傷のまま反対側に抜け出ているよ。この現象が起こるのは、粒子の位置がある1点に定まらない、位置の重ね合わせによって起こるんだよね。
マクロの世界でボール投げを観察すると、ある瞬間のボールの位置は厳密に定めることができるよ。しかしミクロの世界の場合、ある瞬間の粒子の位置を測ってみると、例えば「壁のこちら側にある確率が90%、壁の向こう側にある確率が10%」となるような状況が現れ、その確率に従って壁の向こう側に現れることがあるんだよね!

トンネル効果によって起こる現象の代表例としてアルファ崩壊があるよ。原子核の破片が原子核の外に飛び出すには、本来はエネルギーの壁を乗り越える必要があるけど、そういった正攻法では、必要なエネルギーが高すぎるんだよね。しかしトンネル効果を考慮すれば、エネルギーが不足していても、壁の向こう側に抜けてしまうことがあるんだよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
何とも奇妙過ぎる現象には間違いないけど、トンネル効果は実験的に確かめられているのよね。例えば、ウランなどの重い原子核で起こる「アルファ崩壊」という原子核崩壊は、トンネル効果がなければ起こらない崩壊現象として知られており、トンネル効果の研究の初期に検証されたものになるよ。
そして現在では、電流が流れる回路は極めて微細化しているため、トンネル効果を考慮するのは必須項目となっているよ。例えば、電気抵抗値の違いというエネルギー的な“壁”を設計して電流を流さないようにしても、その壁を乗り越えるトンネル効果が生じて、意図しない電流が流れたりすることがあるからね。
半導体や超伝導体に電流を流す時に現れるトンネル効果は、江崎玲於奈 (1925-) 、アイヴァー・ジェーバー (1929-2025) 、ブライアン・D・ジョゼフソン (1940-) によって重要な実証実験が成されたことにより、1973年にノーベル物理学賞が贈られているよ。特にジョゼフソンについては後でご登場いただくのよ。
ところで、トンネル効果はミクロの世界では実証済みだけど、マクロの世界では起こらないのかな?トンネル効果がマクロの世界でも起きていたら、野球もサッカーも成立しないから起きなくて当たり前と思うかもしれない。けど私たちは、ミクロの世界の住民である原子や素粒子でできていることを考えないといけないのよね。
ミクロの世界では当たり前に起きているけど、マクロの世界ではそれが起きてないように見える、けど両者は根本的に繋がっている世界であり、明確な境界は無さそうだよね。トンネル効果のような重ね合わせの現象が、果たしてマクロな世界でも起こるのか。これは長年の謎であり、これを検証したのが今回のノーベル物理学賞になるよ。
量子力学的効果によって生じる超伝導と超流動に関する先駆的な研究で、2003年にノーベル物理学賞を受賞したアンソニー・ジェームズ・レゲット (1938-) は、後に「レゲット構想」と呼ばれる問題提起をしたのよね。つまりは、マクロな世界でもトンネル効果が起きるかどうかを実験で検証できる、と提唱したのよ。
レゲット構想で検証可能と言われた「巨視的トンネル効果」と呼ばれるこの現象は、ミクロの世界で起こるトンネル効果とはスケールが違うのよね。これまでのトンネル効果は本当に粒子数個レベル、とても目に見えない大きさの話だったけど、巨視的トンネル効果は目で見える大きさの超伝導回路で検証可能だと言ってるんだからね!
ただ、巨視的トンネル効果の本題に入る前に、いくつかの用語についておさらいしないといけないのよね。知ってるよって人は、用語説明について適度に読み飛ばしてね。
普通の物質は、電流を流すと、電流がいくらか失われる電気抵抗を持つんだけど、いくつかの物質は、極低温に冷やすと電気抵抗がなくなる「超伝導状態」に変化することが知られているんだよね。この現象もやはり量子力学的効果によるもので、電流の源である電子が「クーパー対」と呼ばれる特殊なペアを生成することで起きるよ。
クーパー対を含め、超伝導を説明する基礎理論として「BCS理論」があり、この理論を作ったジョン・バーディーン (1908-1991) 、レオン・クーパー (1930-2024) 、ジョン・ロバート・シュリーファー (1931-2019) にはそれぞれ1972年にノーベル物理学賞が贈られているよ。クーパー対はレオン・クーパーの名前にちなんでいるね。
クーパー対で電気抵抗がなくなる原理は難しいので割愛するけど、たとえるなら2つの電子が二人三脚、足並みをそろえて運動することでお互いを邪魔しない運動をすると表現できるよ。二人三脚で一番スムーズに動けるのは、体格差などがなく、お互いの個性が揃っている状態だよね。これの電子バージョンがクーパー対と言えるよ。
電子のような粒子の“個性”は、量子力学的には波動関数というものの値で表されるんだよね。超伝導が現れるような極低温の世界だと、とることが可能な値が制限され、全く同じ値をとるしかない場合もあるよ。電子の波動関数が全く同じ値を取り、“個性”を失った状態で生じるのがクーパー対ないんだよね。
さて、このような電気抵抗のない超伝導体でできた回路の間に、電気抵抗のある絶縁体を挟むとどうなるだろう?普通の回路なら絶縁体を挟むと電流が流れないよね。しかし超伝導体の場合、トンネル効果によって薄い絶縁体を乗り越えて電流が流れることがあるんだよね。
この現象は、先ほど書いたジョセフソンがこの現象に関する理論を構築したことから「ジョセフソン効果」と呼ばれており、そして、ジョセフソン効果が起こる「超伝導体/絶縁体/超伝導体」というサンドイッチの回路接合は「ジョセフソン接合」と呼ばれているよ。
このジョセフソン効果は、電子のペアであるクーパー対が、トンネル効果によって絶縁体という“壁”を乗り越えている現象なのよね。それまでトンネル効果は、電子1個のような単一の粒子でしか観察されていなかったので、ジョセフソン効果は、粒子の複合体でもトンネル効果が起きることを示した点で画期的だったのよ。

今回のノーベル物理学賞が贈られた一連の実験では、電子同士がクーパー対という特殊なペアを形成した後、さらにそのクーパー対が回路全体を満たす1つの巨大な粒子として振る舞うことが重要になってくるんだよね。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
そんなジョセフソン効果を利用するのがレゲット構想になるよ。オリジナルのジョセフソン効果の場合、クーパー対という複合体でトンネル効果が起きているとはいえ、相変わらずミクロの世界の話でしかないのよね。しかしレゲット構想の場合、クーパー対の集団でもトンネル効果が起きることを実験的に検証可能だとしているのよ。
先ほど書いた通り、電子同士の“個性”が失われたのがクーパー対だけど、同じ論理の流れで、クーパー対同士でも“個性”が失われることがあるんだよね。この場合、クーパー対同士でも区別ができなくなることから、クーパー対の集団が、まるで1つの巨大な粒子として振る舞うことがあるのよ。
この、1つの波動関数で描ける1つの巨大な粒子は、やはりトンネル効果を起こすことが予想されるんだよね。1つの波動関数で描けるなら、粒子の大きさ自体は問題にならないからね。しかしその大きさは、電子1個やクーパー対と比べればものすごく巨大であり、理想的には目に見える大きさの回路でも観察できるはずだよ。
このように、クーパー対の集団が、目に見えるほど巨大な1つ粒子として振る舞っている状態となっている超伝導体を使ったジョセフソン接合を含む回路を作り、それを使った実験でジョセフソン効果が起きれば、マクロの世界でもトンネル効果が起きることが証明できるのよね。レゲット構想はこれを目指しているよ。
レゲット構想が発表された後、世界中の研究者がジョセフソン効果を通じた巨視的トンネル効果の実証実験を行おうとしたよ。今回ノーベル物理学賞を受賞したジョン・クラーク氏、ミシェル・H・デヴォレ氏、ジョン・M・マルティニス氏の3氏も、まさにこの実証実験を行ったんだよね。
この実験で使用されるのは、ジョセフソン接合を含む回路になるよ。この回路に電流を流した時に電流が流れるかどうかは、電流の強さと、トンネル効果を考慮するかどうかによって変わってくるんだよね。前提として、回路に流れる電流が強すぎる場合、超伝導状態が壊れてしまうので、そもそも実験が成り立たなくなるのよね。

OFFの位置あるレバーをONの位置に降ろそうとしても、その間に壁があると、壁が邪魔をしてレバーを下げられないよね?しかしトンネル効果を考慮すると、壁を乗り越えてレバーを下げ、ONにすることができる場合があり、その数量は理論的に予測することができるよ。今回の実験では、トンネル効果によって壁を乗り越え、レバーがONの位置に来ることがある数量を測定したよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
回路に流れる電流が弱い場合、超伝導体を流れる電流 (超伝導電流) に電圧は必要ないので、電圧を測定してもゼロとなるよ。しかしトンネル効果が起きると、たまに絶縁体の壁を乗り越えて電流が流れるのよね。この時に流れる電流は普通の電流となるので、これを測定すると、ゼロではない電圧を測定することになるよ。
超伝導体を流れるのはクーパー対だけど、極低温ではこのクーパー対は1つの巨大な粒子として振る舞うから、トンネル効果によって電流が流れる量、言い換えるとゼロではない電圧が測定される時間の長さは、波動関数を解くことで予測できるんだよね。なのでこの実験では、理論と実測を照らし合わせて検証をすることになるよ。
もし巨視的トンネル効果が実在するならば、ゼロではない電圧が測定される時間の長さは理論と一致するはずだよ。時間の長さは確率的な話なので、1000回から10万回程度という多数の計測が必要であり、その結果をグラフ化することで、理論的かどうかを検証することが可能になるんだよね。

今回のノーベル物理学賞が贈られた実験で使われた回路を含むチップの大きさは約1cmで、トンネル効果やエネルギー量子化を検証するために使われた1つの巨大な粒子は、実際には数十億個のクーパー対で構成されているよ。これまでは粒子数個分がせいぜいであったことを考えれば、相当に巨大なことがわかるよね? (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
3氏が設計した実験用の回路は、大きさが1cmくらいあるんだよね。小さいと思えるかもしれないけど、これまで粒子数個分の小さなモノで検証していたことを考えれば十分巨大で、数十億個のクーパー対による巨視的トンネル効果を検証するのは、本当にスケールの大きな話なんだよね。
しかし多数の研究者が取り組んだことからも分かる通り、この実験はかなり難しかったよ。というのは、絶縁体を乗り越えて電流が流れたことを測定できても、それが必ずしも巨視的トンネル効果によるものであるとは言えないからなんだよね。特に問題となってくるのは、実験装置からの熱放射なんだよね。
巨視的トンネル効果を観察するのに、例えば3氏の場合は回路の最低温度を15ミリケルビン (-273.135℃) という絶対零度付近に置いたんだけど、こんな極低温のわずかな熱放射ですら、電子の集団を“押す”ことで、絶縁体という壁を直接乗り越える力を与えてしまうのよね。なので、徹底的にノイズを除去する必要があるよ。
3氏はノイズを排除するために、回路の中に銅粉末を入れる工夫をしたよ。銅粉末は、それより温度の高い部分からの熱放射によるノイズを効果的に除去するのよね。これにより、トンネル効果以外の理由で電流が流れる可能性を極力排除し、測定を行ったんだよね。
この工夫を凝らした回路を使い、3氏は1984年から1985年にかけて実験を行ったよ。まず、回路に流れる電流の量を測定することで、これが巨視的トンネル効果で予測される時間と一致することを示し、巨視的トンネル効果が起きていることを実験的に証明したんだよね!

持つエネルギーが高いシステムは、低いシステムと比べてトンネル効果が起きやすいことは、ミクロの世界では実験的に検証されているよ。今回のノーベル物理学賞が贈られた実験では、この現象がマクロの世界でも起きるかどうかを検証したんだよね。。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)
さらに3氏は、量子力学が予測する別の現象の実証実験を行ったよ。量子力学では、粒子が吸収したり放出したりできるエネルギーには一定の制限があるのよね。これは「量子化」と呼ばれているよ。光の場合、エネルギーは波長とイコールなので、粒子が吸収・放出できる光の波長には制限があることを意味しているよ。
また、ある粒子がトンネル効果を起こす確率は、その粒子が持っているエネルギーによって変化し、エネルギーが高ければ高いほどトンネル効果を起こす確率が高くなるんだよね。これは例えば、トンネル効果で起きることが知られている原子核のα崩壊ではよく観察されている現象だよ。
量子力学で予言されるトンネル効果がマクロの世界でも起きるならば、量子化という量子力学的振る舞いもマクロの世界でも起こるだろう、と考えるのは自然なことだよね?3氏は、巨視的トンネル効果の実証に使った回路を使い、追加の実験を行ったよ。
トンネル効果が起きる確率が、その粒子が持つエネルギーで変化するならば、巨視的トンネル効果であってもそれは同じ話のはずだよね。3氏は、回路にマイクロ波を照射してエネルギーを吸収させ、巨視的トンネル効果が起きる確率が上昇するかどうかを実験したよ。
その結果、回路が吸収したのはマイクロ波の中でも一部の波長であり、巨視的トンネル効果が起きる確率は、吸収したエネルギーの量で予測される上昇分を反映していたんだよね!これは、エネルギーの量子化がマクロ世界でも起きることを示したという点で、画期的な実験となっているんだよ。
さてここまで聞いて、なんか難しいことをしているんだなぁ、でも何がノーベル賞になるほどスゴいの?というのが正直なところだと思うのよね。3氏が示したのは「量子力学で予言される量子力学的現象は、適切な環境さえ整えれば、その大きさに関係なく発生する」という点だけど、これがかなり重要なのよ。
電子デバイスの作成技術が進歩した結果、3氏による実験が行われてからの1990年代以降、とても精密な実験を行うことが可能になったんだよね。例えば、1組のクーパー対だけしか入らない「クーパー対箱」というものを作ることができ、箱の中にあるクーパー対が持つエネルギーを量子化することもできるんだよね。
1999年、当時NEC社 (日本電気株式会社) に所属していた中村泰信、ユーリ・パシュキン、蔡兆申によって、箱入りクーパー対に、2つの異なる大きさのエネルギーを重ね合わせて持たせることに成功したんだよね。たった3ナノ秒 (0.000000003秒) しか実現しなかった状態ながら、これはとてつもないインパクトを与えたよ。
従来からある古典的コンピューターの場合、エネルギーの大きさによって0か1のビット単位で情報を持たせ、それによって情報を刻んでいるよね?箱入りクーパー対で実現した、2つの異なる大きさのエネルギーの重ね合わせとは、つまり0と1を両方重ね合わせて持っている、つまり「量子ビット」を実現したんだよね!
また、1985年の実験で使われた回路が改良され、重ね合わせを壊さずに量子ビットを読み取ることが可能になったんだよね。量子ビットの構築と読み出し回路が実現したということは、つまり最近話題の「量子コンピューター」が実現可能であると示しているんだよね!
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは時間がかかりすぎる計算を瞬時に行えるなど、性能が圧倒的であるということはうっすらと聞いてると思うんだよね。とはいえ、量子コンピューターの基礎となる量子力学的現象はミクロでしか起きないと考えられていた時代においては、これはSFでしかなかったのよね。
しかし、3氏の実験によってマクロな世界でも量子力学的現象が起きることが実証されたことにより、量子コンピューターは決して空想ではなく設計可能であることが示されたんだよね。実際、今回の受賞者の1人であるマルティニス氏は、その後も量子コンピューターの開発に関する研究を続けたよ。
そして2019年、Google社が開発した53量子ビットを持つ「シカモア (Sycamore) プロセッサ」が、従来のコンピューターを凌駕する性能を持つ「量子超越性」を達成したと発表したよ。この開発研究のリーダーがマルティニス氏であり、量子力学とコンピューターの歴史において、1つの大きな転換点となったんだよね。
現在のところ、量子コンピューターはまだまだ一部の研究室が保持して研究を行っている、身近とは言い難い存在なのよね。しかし、従来のコンピューターだって研究室に閉じこもっていた存在だったものが一般に普及していることを考えれば、量子コンピューターが一般社会に出てくるのがあり得ない未来だとは言い難いのよ。
また、巨視的なトンネル効果やエネルギー量子化は、量子コンピューターの開発以外にも使われているよ。例えば、他の巨視的な物質の量子力学的性質を調べるための量子センサーが作成されており、2022年のノーベル物理学賞にもなった「ベルの不等式」の精密な検証にも使われているのよね。
クラーク氏、デヴォレ氏、マルティニス氏によって行われた研究は、量子力学が決してミクロの世界に閉じこもっている現象ではないことを示したことが画期的だったんだよえ。そしてその成果は量子コンピューターを始めとして、確実に表れているんだよ!まさに量子力学100周年にふさわしい研究だね!
2022年ノーベル物理学賞解説『量子もつれ状態の光子を使った実験、ベルの不等式の破れの確立、および量子情報科学の先駆的な研究に対して』
<ノーベル財団の公式資料>
<受賞に関わる主要な論文>
Michel H. Devoret, John M. Martinis, Daniel Esteve & John Clarke.“Resonant Activation from the Zero-Voltage State of a Current-Biased Josephson Junction”. Physical Review Letters, 1984; 53 (13) 1260-1263. DOI: 10.1103/PhysRevLett.53.1260
John M. Martinis, Michel H. Devoret & John Clarke. “Energy-Level Quantization in the Zero-Voltage State of a Current-Biased Josephson Junction”. Physical Review Letters, 1985; 55 (15) 1543-1546. DOI: 10.1103/PhysRevLett.55.1543
<授賞理由と関わりの深い研究論文>
J. Bardeen, L. N. Cooper & J. R. Schrieffer.“Microscopic Theory of Superconductivity”. Physical Review, 1957; 106 (1) 162-164. DOI: 10.1103/PhysRev.106.162
John M. Martinis, S. Nam, J. Aumentado & C. Urbina.“Rabi Oscillations in a Large Josephson-Junction Qubit”. Physical Review Letters, 2002; 89 (11) 117901. DOI: 10.1103/PhysRevLett.89.117901