2025年ノーベル生理学医学賞について分かりやすく解説!『末梢性免疫寛容の発見』

2025.10.07

Nobel Prize in Physiology or Medicine 2025 thumbnail

(Illustrations: The Nobel Committee for Physiology or Medicine / 画像引用元)

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2025年ノーベル生理学医学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2025年10月6日

カロリンスカ研究所ノーベル賞会議は、2025年のノーベル生理学医学賞を、以下の者に授与することを決定した。

 

メアリー・E・ブランコウ (Mary E. Brunkow)
システム生物学研究所、シアトル、アメリカ合衆国

フレッド・ラムズデール (Fred Ramsdell)
ソノマ・バイオセラピューティクス社、サンフランシスコ、アメリカ合衆国

坂口志文 (Shimon Sakaguchi)
大阪大学、大阪、日本国

末梢性免疫寛容まっしょうせいめんえきかんようの発見」に対して。

 

彼らは免疫系がどのように制御されているのかを発見した

身体の強力な免疫系は、制御されなければ、自らの臓器を攻撃してしまう恐れがある。メアリー・E・ブランコウ、フレッド・ラムズデール、そして坂口志文は、免疫系が身体に害を与えるのを防ぐ末梢性免疫寛容に関する画期的な発見により、2025年のノーベル生理学医学賞を受賞した。

 


 

Mary E. Brunkow

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Mary Elizabeth Brunkow (メアリー・エリザベス・ブランコウ)
1961年生まれ (63-64歳)
システム生物学研究所 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

 

Frederick J. Ramsdell

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Frederick Jay Ramsdell (フレデリック・ジェイ・ラムズデール)
アメリカ合衆国、イリノイ州、エルムハースト出身
1960年12月4日生まれ (64歳)
ソノマ・バイオセラピューティクス社 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

 

Shimon Sakaguchi

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

坂口 志文 (さかぐち しもん)
日本国、滋賀県、長浜市出身
1951年1月19日生まれ (74歳)
大阪大学 (日本国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 


 

免疫系はどうして自分自身への攻撃を防いでいるのか?

この自然界には様々な細菌、ウイルス、その他の微生物などがウヨウヨいて、24時間年中無休で私たちの身体へ侵入しようと試みているよ。しかし健康な人の場合、滅多なことではこのような病原体に罹ることはないよね。この理由は、私たちの身体に「免疫系」というシステムが備わっているからなんだよね。

 

免疫系というのは非常にスゴいシステムで、身体に入り込んた物質が異物なのかどうかを判断し、異物であると判断した場合には殺滅・破壊して排除するんだよね!多数の細胞組織が連携して動く免疫系は、まさに進化の傑作と言うべき、生物の驚くべきシステムだと言えるよ。

 

この免疫系には、主体となる細胞や物質によっていくつかの種類に分かれるけど、今回のノーベル生理学医学賞は「T細胞」と呼ばれる代表的な免疫細胞 (リンパ球/白血球) が主役となるよ。なので今回の記事で、特に断り書き無く“免疫”や“免疫細胞”と言った場合、それはT細胞のことを指していると読み替えてね。

 

T細胞は、その役割によってさらにいくつかのサブタイプに分かれるんだよね。まず「ヘルパーT細胞」と呼ばれるT細胞が、体内を巡回しながら細菌やウイルスのような“侵入者”がないかどうか警備巡回をするよ。もし、細菌やウイルスに感染した細胞が見つかった場合、ヘルパーT細胞は他の免疫細胞に向けて警告を発するよ。

 

この警告を受けて動き出すのが「キラーT細胞」で、細菌やウイルスに感染した細胞を破壊するんだよね。それだけでなく、異常になった自分自身の細胞、つまりはがん細胞も破壊することになるよ。“殺人者”という物騒な名前がついているけど、この殺し屋細胞は、身体全体を保つために必要なんだよね!

 

2025年ノーベル生理学医学賞図1

普段の私たちがウイルスに感染しないのは、T細胞と呼ばれる免疫細胞がウイルス由来のタンパク質と結合し、攻撃を受けていることを知らせる警告システムがあるからだよ。これはウイルス以外の異物でも同じような挙動をするんだよね。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ところで、T細胞はどうやって異常なものを見分けているんだろうね?細菌やウイルスの中には、巧妙にヒトの細胞を模倣した“変装の達人”もいるんだけど、大抵の場合、T細胞はその変装を見破るんだよね。そのカギは、「T細胞受容体」と呼ばれる、T細胞の表面にある複雑なタンパク質「抗原受容体」にあるよ。

 

受容体と言うタンパク質そのものは全ての細胞に備わっており、何かしらの物質を受け取り、または放出して細胞間の情報伝達を担っているよ。抗原受容体の場合、自分自身の身体に由来する正常なものと、それ以外の異物を見分けるセンサーのような役割を果たしているんだよね。

 

抗原受容体は、多種多様な異物を検知するために極めて複雑にできており、複数の遺伝子が関与して設計されているよ。理論的には、私たちの身体は1000兆通りもの抗原受容体を作ることができるよ!この複雑さが、体内にある正常なものと無数の異物との微妙な違いを見分けるのに役立っているんだよね。

 

しかし、ここで1つ疑問が浮かんでくるよ。さっきからT細胞は異物を攻撃すると言ったけれども、じゃあなぜ自分自身の正常な細胞は攻撃しないんだろうね?他人の細胞を入れると、たとえそれが正常であっても攻撃するんだから、何か見分ける方法があることになるよ。

 

自分自身の細胞を攻撃しないという謎は、免疫に関する学問のスタート時から指摘されていた問題で、例えば、免疫の研究で1908年にノーベル生理学医学賞を受賞した“免疫学の父”パウル・エールリヒ (1854-1915) は、免疫は自分自身を攻撃しないという「自己中毒忌避 (Horror autotoxicus)」という説を提唱していたよ。

 

しかしながら、後述する通り研究が進むと、実際には免疫系が正常な細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」というのがあることが理解されたよ。攻撃を行うキラーT細胞は実際のところかなりの暴れん坊で、制御ができなければ何でも破壊してしまうポテンシャルを秘めているから、このような病気が起こるんだよね。

 

この、免疫細胞が他の異物を攻撃する一方、自分自身の細胞は攻撃しない見分ける特性は「免疫寛容」と呼ばれているよ。免疫寛容に関する研究は1945年の偶然の発見から始まり、数十年かけて重要な発見が見られたんだよね。今回のノーベル生理学医学賞は、その進展に関わる研究に対して贈られたんだよね。

 

免疫寛容前史: その発見からサプレッサーT細胞の否定まで

1945年、レイ・デイビッド・オーウェン (1915-2014) はウシを研究中に、双子 (二卵性双生児) のウシ同士が、お互いに血液型が異なっていても、異なる血液同士で拒絶反応が起きないことを発見したんだよね。この偶然の発見を手掛かりに、どのような条件ならば免疫系が働かないのかの調査研究が始まったよ。

 

1953年、ピーター・メダワー (1915-1987) は、皮膚移植の可能性に関する研究を行うためにマウスで実験を行っていたよ。そこで、近親交配によって生まれたマウスは、元の系統の皮膚移植を許容する一方、無関係の系統の皮膚移植は拒絶することを発見したんだよね。

 

この特性について、メダワーは「能動的免疫寛容」と名付けた短い論文を発表したよ。その後まもなく1957年、フランク・マクファーレン・バーネット (1899-1985) は、免疫系がどのようにして異物を見分けるのかについて、「クローン選択説」という説を発表したよ。

 

それまでは、異物を見分ける選択が抗体レベルで起こっていると言われていたのに対し、クローン選択説にて免疫選択が細胞レベルで起こると提唱したことは、免疫寛容の研究に大きな影響を与えたよ。メダワーとバーネットは、「後天的免疫寛容の発見」で1960年にノーベル生理学医学賞を受賞したよ。

 

では、免疫細胞の選択はどのようにして起こるんだろうね?バーネットは1960年代中に、免疫細胞は一旦、多種多様なレパートリーで作られた後、自分自身を攻撃してしまう自己反応性T細胞を排除するようなフィルターがあるんだろうと提唱したんだけど、この説が実験的に証明されるのには、ずいぶんと時間がかかったよ。

 

2025年ノーベル生理学医学賞図2

T細胞の中には、自分自身の健康な細胞を誤って攻撃してしまうものがいるんだよね。このようなT細胞は自己免疫疾患を起こしてしまうよ。そうならないように、T細胞を検査する役割を果たすのが胸腺であり、胸腺に行われる選別プロセスを中枢性免疫寛容と呼ぶよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

重要な発見の1つは、1961年にジャック・ミラー (1931-) によってなされたよ。それまで、胸の中心付近にあった「胸腺」と呼ばれる臓器は、その機能が不明だったんだよね。しかし、生まれたばかりのマウスの胸腺を除去すると、重度の免疫不全と、特定のリンパ球が生成されなくなることを発見し、大きな進展があったよ。

 

ミラーは、胸腺を除去すると生成しなくなる細胞を、“thymus (胸腺)”の頭文字からT細胞と名付け、胸腺は正常な免疫系を維持するのに欠かせない存在だと突き止めたんだよね。この発見を足掛かりに、20年以上後となった1980年代末になって、胸腺は自己反応性T細胞を除去する役割があることが、初めて実験的に証明されたんだよね!

 

胸腺の役割の発見により、免疫細胞がどのように生み出されるのか、一連の流れが分かったよ。免疫細胞の大元は、骨髄にある「造血幹細胞」に由来し、造血幹細胞が胸腺に移動すると「胸腺細胞」に変化するよ。この胸腺細胞が、さらに何段階かのプロセスを経て生成されるのが、成熟したT細胞と言うことになるよ。

 

そして1997年には、2つの研究チームによって転写調節因子「Aire」が発見され、胸腺が自己反応性T細胞のアポトーシス (細胞死) を誘導して除去するということが分子レベルで明らかになったんだよね。胸腺が正常な免疫系の中枢に位置することから、これは「中枢性免疫寛容」と名付けられたよ。

しかし、胸腺による中枢性免疫寛容は完璧ではなく、一部の自己反応性T細胞を見逃してしまうことが明らかになったことで、別の免疫寛容が必要なことが明らかになったよ。この免疫寛容のメカニズムでは当初、1970年に提唱された「サプレッサーT細胞」が注目を集めていたよ。

 

“suppressor (抑制)”と名付けられている通り、サプレッサーT細胞は自己反応性T細胞を抑える存在として盛んに研究されたんだけど、研究を進めるとどうも細胞が見えてこない、それどころか遺伝子配列を決定してみると、サプレッサーT細胞を生み出す遺伝子自体が見つからないということで、1990年代後半までには否定されたよ。

 

新種のT細胞「制御性T細胞」の発見の主張

2025年ノーベル生理学医学賞図3

坂口志文氏は、生後3日のマウスから胸腺を摘出すると自己免疫疾患を発症するけど、そのマウスに成熟したT細胞を注入すると発症が抑えられることを発見したんだよね。これは後の発見に繋がる重要な実験となったよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

1969年に西塚泰章と坂倉照妤は、生後3日のマウスから胸腺を除去する実験を行ったよ。胸腺の役割に基づけば、T細胞が減少して免疫系が弱体化すると予測されたんだけど、予想外なことに免疫系が暴走して卵巣を攻撃、不妊になってしまう自己免疫疾患となることを発見したんだよね。

 

そんな発見をした、愛知県がんセンター研究所にある西塚の研究室に加わったのが、今回のノーベル生理学医学賞の受賞者の1人である坂口志文氏だよ。坂口氏は1982年に、胸腺を摘出したマウスは自己免疫疾患を発症するけど、遺伝的に同一なマウスからの成熟したT細胞を注入すると、自己免疫疾患が抑えられることをを発見したよ。

 

このため坂口氏は、免疫系には自己反応性T細胞を抑える役割を持つT細胞がいるはずだ、と考えたんだよね。しかし、似たような概念であるサプレッサーT細胞が否定されつつあった逆風の状況において、どのように存在を証明したんだろうね?

 

先ほど、異物の検知を行うT細胞をヘルパーT細胞、実際に攻撃を行うのをキラーT細胞と呼んだけど、これらのT細胞の区別はT細胞表面にあるタンパク質で見分けられるよ。この頃、ヘルパーT細胞は「CD4」、キラーT細胞は「CD8」というタンパク質を持つことで識別可能だと認識されていたんだよね。

 

坂口氏が行った実験では、普通ならば免疫系を活性化させるヘルパーT細胞を注射したんだよね。しかし実験の結果、免疫系が活性化するどころか、自己免疫疾患が抑えられたのよね。ということは、CD4を持つけれどもヘルパーT細胞ではない、何か別の種類があることになるよね。

 

2025年ノーベル生理学医学賞図4

坂口氏は一連の実験を通じて、CD4タンパク質とCD25タンパク質の両方を持つT細胞は、CD4タンパク質のみを持つT細胞とは異なり、自己免疫疾患を防ぐ役割を持つことを特定したんだよね。坂口氏は、新しく発見したこのT細胞を「制御性T細胞」と名付けたよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

坂口氏らは、これらのT細胞を区別する方法を10年以上探索し、10年以上後の1995年に種類の特定に成功したよ!坂口氏は、T細胞の中で免疫系を抑える働きをし、CD4だけでなく「CD25」という別のタンパク質を持つ新種のT細胞を見つけ、これを「制御性T細胞 (Treg細胞)」と名付けたよ!

 

しかし当時は、かなり似たような概念であるサプレッサーT細胞の存在がほぼ否定された頃なので、坂口氏による制御性T細胞の発見も、最初は懐疑的に見られていたよ。制御性T細胞を作る分子メカニズムも未解明だったので、メカニズムの決定が制御性T細胞の存在を認めるのに不可欠だったんだよね。

 

自己免疫疾患を防ぐ「Foxp3遺伝子」の発見

坂口氏が提唱した制御性T細胞が正しいかどうか。これを決定づける研究は意外なところからスタートしたよ。1940年代、原子爆弾開発のために立ち上がった「マンハッタン計画」では、放射線が生物にどのような影響を与えるのかを研究していたよ。その一環で偶然に誕生した突然変異の1つに「スカーフィ (Scurfy)」という系統があるよ。

 

スカーフィマウスは鱗状の皮膚、極度に肥大した脾臓とリンパ腺を特徴とし、重度の自己免疫疾患を発症しているため、数週間しか生きられないんだよね。ところが、この重篤な症状はオスのみに見られ、メスには影響がなく、子孫を残して系統を維持できることを特徴としている点が特異だったよ。

 

当時は遺伝子に関する研究は初期段階だったけど、それでも1959年までに、当時の科学者は、オスはY染色体とX染色体を1本ずつ持つのに対し、メスはX染色体を2本持つ、なのでX染色体が片方だけでも無事なメスは健康だけど、1本しかないオスは自己免疫疾患を発症するのだろうと、理由にある程度のアタリを付けていたよ。

 

2025年ノーベル生理学医学賞図5

メアリー・ブランコウ氏とフレッド・ラムズデール氏は、X染色体の変異によって自己免疫疾患を発症するスカーフィマウスの研究を行ったよ。当時の技術では乾草の山から1本の針を見つけるような膨大な時間と手間がかかる作業の末、変異すれば自己免疫疾患の原因となる「Foxp3遺伝子」の発見に成功したよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

では、スカーフィマウスのX染色体の変異は、正確にはどの位置にあるのか?ここに興味を持ったのが、当時セルテック・カイロサイエンス社に所属していた、今回のノーベル生理学医学賞を受賞したメアリー・E・ブランコウ氏とフレッド・ラムズデール氏になるよ。

 

当時ブランコウ氏とラムズデール氏は、自己免疫疾患の治療薬を探索していたので、スカーフィマウスがなぜ自己免疫疾患を発症するのかを調べることで開発のヒントを得ようとしたんだよね。そこで他の研究者と共に、スカーフィマウスのDNAを調べ、遺伝子の変異がどこにあるのかを調べることにしたよ。

 

研究が行われていた1990年代、X染色体の約1億7000万塩基対のゲノムを調べるのは、乾草の山から1本の針を見つけるような、極めて大変な作業だったんだよね。今日では、全てのゲノム配列をマッピングし、変異した遺伝子を特定するのは数日でできる作業だから、相当な技術的格差があるよ。

 

かなり時間をかけた作業の末、ブランコウ氏とラムズデール氏は、変異した領域がX染色体の中央付近、約50万塩基対の範囲内にあると絞り込み、その中にある20個の遺伝子を全部調べたよ。そして最終的に2001年になって、20番目に調べた遺伝子が、まさにスカーフィマウスの特徴を示す変異を持つことを突き止めたんだよね!

 

この遺伝子は、他の遺伝子の働き (発現) を制御する「FOX遺伝子群 (フォークヘッドボックス遺伝子群)」と似ているのよね。ブランコウ氏とラムズデール氏は、スカーフィマウスから新たに発見したこの遺伝子を「Foxp3遺伝子 (フォークヘッドボックスp3遺伝子)」と名付けたよ。

 

この発見の直後、ブランコウ氏とラムズデール氏は、この遺伝子変異がヒトにもあるんじゃないかと疑い、「IPEX症候群」と呼ばれる致死的な自己免疫疾患の患者の遺伝子も調べてみたよ。IPEX症候群は、スカーフィマウスと同じくX染色体に変異があり、男児のみに現れることを特徴としているんだよね。

 

その結果、ブランコウ氏とラムズデール氏は他の研究者と共同で、IPEX症候群の患者から、スカーフィマウスと同じようなFoxp3遺伝子の変異を発見し、IPEX症候群がFoxp3遺伝子の変異によって起きることを実証したんだよね。2001年に相次いだFoxp3遺伝子に関する発見は、その後坂口氏の研究へと繋がったよ。

制御性T細胞による「末梢性免疫寛容」を立証!

制御性T細胞の発見を主張した坂口氏だけど、サプレッサーT細胞の件もあり、発表直後は懐疑的な見方が多かったんだよね。しかしFoxp3遺伝子の発見により、制御性T細胞の実在の証明に大きな弾みが付いたよ。坂口氏らの研究チームは、Foxp3遺伝子の働きによって、制御性T細胞が生み出されていることを突き止めたんだよね!

 

おさらいだけど、T細胞のうちヘルパーT細胞はCD4タンパク質のみを持つんだけど、制御性T細胞はCD4タンパク質とCD25タンパク質の両方を持つんだよね。2003年に坂口氏らは、Foxp3遺伝子が、CD4とCD25の両方持つように誘導する役割を担っていることを突き止めたよ。

 

実験では、レトロウイルスの力を借りて、Foxp3遺伝子を後付けで導入することにより、ヘルパーT細胞が制御性T細胞へと変化することで、この関連性を実証したんだよね!この研究結果を踏まえてすぐ、ラムズデール氏は他の研究者と共同で、スカーフィマウスと制御性T細胞の関連性を調べたよ。

 

ラムズデール氏らは、Foxp3遺伝子に変異があるスカーフィマウスには制御性T細胞がないこと、逆にFoxp3遺伝子が過剰に働くマウスでは制御性T細胞も過剰にあることを実験的に示すことで、制御性T細胞が実在する事、Foxp3遺伝子が制御性T細胞を作るのに欠かせない遺伝子であることを示したんだよね。

 

また別の研究チームにより、Foxp3遺伝子を完全に失ったマウスは、スカーフィマウスとかなり似た特徴を示すことが示されたよ。これらの研究結果から、制御性T細胞が実在し、自己反応性T細胞による自己免疫疾患を防ぐ役割を持つこと、制御性T細胞を生み出すのはFoxp3遺伝子にあることが、今回の受賞者3人を中心に示されたんだよね!

 

「胸腺による中枢性免疫寛容を逃れた自己反応性T細胞がなぜ働かないのか?それはFoxp3遺伝子の働きにより、ヘルパーT細胞から作られた制御性T細胞が自己反応性T細胞の働きを抑えているからだ」という一連のメカニズムは、中枢性免疫寛容と対になることから「末梢性免疫寛容」と名付けられたよ。

 

免疫系を制御する新しい治療法の開拓は進んでいる

2025年ノーベル生理学医学賞図6

制御性T細胞とFoxp3遺伝子の発見により、制御性T細胞は、胸腺による中枢性免疫寛容をすり抜けたT細胞の攻撃を防ぐ役割を持つことが分かったよ。この一連の機能である「末梢性免疫寛容」の発見が、今回のノーベル生理学医学賞の主な理由となっているんだよね。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ある意味で、サプレッサーT細胞に関する仮説が形を変えて復活した、制御性T細胞と末梢性免疫寛容の発見により、免疫系の暴れ過ぎを制御する仕組みについて、大きな理解が得られたよ。基本的な仕組みを理解すれば、次は仕組みへの理解を深掘りし、ひいてはそれを制御する方法を見つける研究に繋げることができるね。

 

例えば、制御性T細胞にはいくつかのサブタイプがあり、特定のタンパク質 (インターロイキン-2) を入れることで人為的に作ることができる「誘導型制御性T細胞 (iTreg)」の発見などがあるよ。ただしiTreg細胞は、通常の制御性T細胞 (tTreg) と比べて不安定であるなど、いくつかの違いがあるね。

 

また、研究が進むにつれて、ヒトの制御性T細胞はマウスの制御性T細胞と比べて複雑な仕組みを持っていることが明らかにされたよ。例えばヒトのヘルパーT細胞は、制御性T細胞に変化していなくても、Foxp3遺伝子に由来するタンパク質が少しだけ見つかっているんだよね。

 

研究が進むにつれて、胸腺で制御性T細胞がどのように作られるのか、その仕組みはかなり複雑であり、まだ完全な理解には遠いことが分かってきてているんだよね。胸腺内での制御性T細胞の生成機構がより正確に理解できれば、制御性T細胞を使う応用研究にも繋がることから、現在でも研究が進められているよ。

 

これらの研究を通じて制御性T細胞は、自己免疫疾患を防ぐだけでなく、妊婦が胎児によって拒絶反応が起きることへの回避、慢性炎症の抑制、感染症における過剰な免疫応答を抑制するなど、免疫系が暴れてしまうことによって起こる様々な疾患を回避し、自己を維持するのに欠かせない役割を持つことが理解されているんだよね。

 

そして、制御性T細胞の働きを抑えたり、逆に活発にすることによって、免疫系の機能を調整すれば、免疫系の機能に由来する様々な疾患を治すことができるのではないかと期待されており、現在200件ほどの臨床研究が行われているよ!例えば以下のような研究が行われているよ。

 

  • インターロイキン-2による刺激と再灌流により、多様な抗原受容体を持つ制御性T細胞を増殖させる試み。
  • キメラ抗原受容体を持つ制御性T細胞 (CAR-Treg) の作成。特定の解剖学的部位のみを標的にしているため、例えば特定の臓器のがん細胞をキラーT細胞で攻撃しつつ、他の部位では炎症反応を抑えることができる。
  • T細胞受容体制御性T細胞 (TCR-Treg) の作成。例えばセリアック病 (グルテンを含む食品を摂取すると発症する多臓器自己免疫疾患) など、その原因がはっきりしている疾患の患者に投与することで、自己免疫疾患を抑えることができる。
  • 少量のインターロイキン-2や、現在開発中の薬「レズペガルデスロイキン (Rezpegaldesleukin)」による制御性T細胞の増殖の試み。特にレズペガルデスロイキンは、中等度から重度のアトピー性皮膚炎の患者において、有効性を実証するランダム化比較試験が行われている。
  • 腫瘍浸潤制御性T細胞に存在するCCR8を除去する薬の開発。がん細胞は通常免疫系によって排除されるが、がん細胞は腫瘍浸潤制御性T細胞を放出することで免疫系の攻撃を回避している。この働きを制御している分子がCCR8であり、これを除去するモノクローナル抗体を投与すれば、従来の抗がん剤に頼らずがんを治療できる可能性がある。

 

ブランコウ氏、ラムズデール氏、坂口氏が発見・開拓した末梢性免疫寛容は、免疫系の理解されていなかった基本的な仕組みの理解を深めたと同時に、ぜんそくやアトピーなどの一般的な疾患の治療、がん治療、移植した臓器が定着することを促すなど、様々な応用が期待されるのよ!

文献情報

<ノーベル財団の公式資料>

 

<受賞に関わる主要な論文>

  • S. Sakaguchi, N. Sakaguchi, M. Asano, M. Itoh & M. Toda.“Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor α-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases”. The Journal of Immunology, 1995; 155 (3) 1151-1164. DOI: 10.4049/jimmunol.155.3.1151
  • Robert S. Wildin, Fred Ramsdell, Jane Peake, Francesca Faravelli, Jean-Laurent Casanova, Neil Buist, Ephrat Levy-Lahad, Massimo Mazzella, Olivier Goulet, Lucia Perroni, Franca Dagna Bricarelli, Geoffrey Byrne, Mark McEuen, Sean Proll, Mark Appleby & Mary E. Brunkow.“X-linked neonatal diabetes mellitus, enteropathy and endocrinopathy syndrome is the human equivalent of mouse scurfy”. Nature Genetics, 2001; 27 (1) 18-20. DOI: 10.1038/83707
  • Craig L. Bennett, Jacinda Christie, Fred Ramsdell, Mary E. Brunkow, Polly J. Ferguson, Luke Whitesell, Thaddeus E. Kelly, Frank T. Saulsbury, Phillip F. Chance & Hans D. Ochs.“The immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked syndrome (IPEX) is caused by mutations of FOXP3”. 27 (1) 20-21. DOI: 10.1038/83713
  • Mary E. Brunkow, Eric W. Jeffery, Kathryn A. Hjerrild, Bryan Paeper, Lisa B. Clark, Sue-Ann Yasayko, J. Erby Wilkinson, David Galas, Steven F. Ziegler & Fred Ramsdell. “Disruption of a new forkhead/winged-helix protein, scurfin, results in the fatal lymphoproliferative disorder of the scurfy mouse”. Nature Genetics, 2001; 27 (1) 68-73. DOI: 10.1038/83784
  • Shohei Hori, Takashi Nomura & Shimon Sakaguchi. “Control of Regulatory T Cell Development by the Transcription Factor Foxp3”. Science, 2003; 299 (5609) 1057-1061. DOI: 10.1126/science.1079490

 

<授賞理由と関わりの深い研究論文>

  • Ray D. Owen.“Immunogenetic Consequences of Vascular Anastomoses Between Bovine Twins”. Science, 1945; 102 (2651) 400-401. DOI: 10.1126/science.102.2651.400
  • R. E. Billingham, L. Brent & P. B. Medawar.“Actively acquired tolerance of foreign cells”. Nature, 1953; 172 (4379) 603-606. DOI: 10.1038/172603a0
  • W. L. Russell, Liane Brauch Russell & Josephine S. Gower.“Exceptional Inheritance of a Sex-Linked Gene in the Mouse Explained on the Basis that the X/O Sex-Chromosome Constitution is Female”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 45 (4) 554-560. DOI: 10.1073/pnas.45.4.554
  • J. F. Miller.“Analysis of the thymus influence in leukaemogenesis”. Nature; 1961 15 (191) 248-249. DOI: 10.1038/191248a0
  • J. F. Miller.“Immunological function of the thymus”. Lancet, 1961; 278 (7205) 748-749. DOI: 10.1016/s0140-6736(61)90693-6
  • F. M. Burnet.“The Immunological Significance of the Thymus”. Australasian Annals of Medicine, 1962; 11 (2) 79-91. DOI: 10.1111/imj.1962.11.2.79
  • Yasuaki Nishizuka & Teruyo Sakakura.“Thymus and Reproduction: Sex-Linked Dysgenesia of the Gonad after Neonatal Thymectomy in Mice”. Science, 1969; 166 (3906) 753-755. DOI: 10.1126/science.166.3906.753
  • R. K. Gershon & K. Kondo.“Cell interactions in the induction of tolerance: the role of thymic lymphocytes”. Immunology, 1970; 18 (5) 723-737. PMID: 4911896
  • F. M. Burnet.“A modification of jerne's theory of antibody production using the concept of clonal selection”. CA: A Cancer Journal for Clinicians, 1976; 26 (2) 119-121. DOI: 10.3322/canjclin.26.2.119
  • S. Sakaguchi, T. Takahashi & Y. Nishizuka.“Study on cellular events in postthymectomy autoimmune oophoritis in mice. I. Requirement of Lyt-1 effector cells for oocytes damage after adoptive transfer”. Journal of Experimental Medicine, 1982; 156 (6) 1565-1576. DOI: 10.1084/jem.156.6.1565
  • John W. Kappler, Neal Roehm & Philippa Marrack.“T cell tolerance by clonal elimination in the thymus”. Cell, 1987; 49 (2) 273-280. DOI: 10.1016/0092-8674(87)90568-X
  • Pawel Kisielow, Horst Blüthmann, Uwe D. Staerz, Michael Steinmetz & Harald von Boehmer.“Tolerance in T-cell-receptor transgenic mice involves deletion of nonmature CD4+8+ thymocytes”. Nature, 1988; 333 (6175) 742-746. DOI: 10.1038/333742a0
  • Finnish-German APECED Consortium.“An autoimmune disease, APECED, caused by mutations in a novel gene featuring two PHD-type zinc-finger domains”. Nature Genetics, 1997; 17 (4) 399-403. DOI: 10.1038/ng1297-399
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彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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