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我が国では、65歳以上の人たちのワクチン接種はほぼ90%に達し、全人口比でも53%を超した。このまま接種が進んで、12歳以上の2回接種が8割を超すという状況が生まれるように思える。しかも、今回ワクチン以外に頼るすべがないことを知った政府も、早々とワクチンの3回接種を決定した。この決定に対して反対する理由はないが、このような決定がどの程度の科学的知識の上になされているのか興味がある。
3回目接種が議論された最大の理由は、ウイルスに対する抗体価が低下するという話だが、よほど遷延的な感染でもない限り、抗体は低下するのが当然だ。一方、ワクチン接種者の重症化率は、抗体低下後も低いことを考えると、キラーT細胞などの細胞性免疫の効果も正確に測定することが必要になる。これら科学的データを踏まえて、社会的にどこまでリスクをとるか、そのためにどのようなワクチンが必要になるのか、我が国独自の方針をオープンに、しかし迅速に議論してほしいものだ。
ワクチン接種による抗体とキラーT細胞の関係を、B細胞を抑える免疫治療中の患者さんで調べたのが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文で、9月14日 Nature Medicineにオンライン掲載された。
タイトルは「Cellular and humoral immune responses following SARS-CoV-2 mRNA vaccination in patients with multiple sclerosis on anti-CD20 therapy(抗CD20抗体治療中の多発性硬化症の患者でのSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の細胞性と液性免疫)」だ。
多発性硬化症は自己免疫病で、ミエリンに対する自己抗体を抑えるためにB細胞を抑えるCD20抗体治療が行われる場合がある。すなわち、抗体ができにくい状態で、ワクチンがどのような効果があるかを調べることができる。この状況を利用して、患者さんおよび健常人20人づつ、ワクチン接種時、1回目接種後10−12日目、2回目接種時、2回目接種後10−12日後、1ヶ月後に末梢血を採取、ワクチンに対する様々な反応を徹底的に調べた研究だ。
膨大な結果なので、詳細は省くが、結果の要点は以下のようにまとめられる。
以上が結果で、B細胞が抑えられることで、抗体の誘導が低下するとともに、直接相互作用するCD4Tfhの誘導が低下する。しかし一方で、キラー細胞の方は抗体を作るB細胞が抑制されている方が、高い反応が見られるので、CD20抗体治療を受けている患者さんでも、ワクチンの効果は期待できることが示された。
さらに、濾胞反応を強く誘導するmRNAワクチンに対する反応について、まだまだわからないことが多いこともよくわかった。臨床的効果から見てワクチン慎重論になる必要はないが、希有の機会を捉えて、徹底的に科学的分析を行い、人間の免疫反応を理解し、次に備えることの重要性を、政府も理解してほしい。