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管理栄養士の栄 養太郎です。
みなさんは、「ながら食べ」してますか?
子どもの頃「テレビを見ながらご飯を食べるんじゃない!」と怒られた時代から、「スマホを見ながらご飯を食べるんじゃない!」と言われる時代に移ろいでいます。
「ながら食べ」は、マナー違反や食事の場の雰囲気に影響するだけでなく、健康、栄養学的にも良い影響は与えないことが明らかになっています。
例えば、
研究1: 満腹感を感じにくい
18〜65歳の男女を対象 (43名) として、ピザを食べる量を、安静条件 (作業を中断したときに食べる) と仕事条件 (コンピューターで仕事をしながら食べる)で比較しました。
[結果1] 仕事条件は、安静条件と比較して、ストレスの感じ方が高かったが、エネルギー摂取量には差が認められなかった。
[結果2] しかし、食後の空腹レベルは、安静条件と比較して仕事条件で高かった。
→この結果から、ながら食べをしていた仕事条件では、満腹感を感じにくかった、と考えられます
研究2: 1食のエネルギー摂取量が増える
18〜28歳の若年者を対象 (62名) として、軽食の摂取量 (好きなスナックを好きなだけ食べる) を、コントロール条件 (気をそらさない)、スマートフォン条件 (スマホを使用する)、読書条件 (印刷されたテキストを読む) で比較しました。
[主な結果] スマートフォン条件や読書条件では、コントロール条件よりもエネルギー摂取量が増加した (約15%増加)。
→この論文の筆者は、「食事中に注意をそらすものが入ると、摂取した食物の量に関する脳の理解が妨げられ、満腹感を感じづらくなる」というようなコメントをしています
他にも、新聞を読みながらの食事がエネルギー摂取量を増やすといった報告もあり、「ながら食べ」への注意は、健康面からも重要な視点と言えるでしょう。
忙しさの中で、「ながら食べ」や「早食い」をしてしまうのは、ある意味仕方ないことなのかもしれません。しかし、食事は単に栄養を摂取するだけでなく、食べる喜びや人との繋がりを感じる大切な時間です。
このような状況だからこそ、立ち止まって食事と向き合うための考え方、「マインドフルイーティング」が注目されています。
CONTENTS
マインドフルネスとは、「意図的に、今この瞬間に、価値判断す
これは、1960年代にJ.カバットジンという方が、マインドフルネスストレス低減法を開発・実践したことに由来します。
日本マインドフルネス学会では、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義されています。
この概念は、人々が持つ価値観や思い込み (例えば「●●はこうあるべきだ」「◾️◾️はこうならなければならない」といったこと) を持つことなく、今現在に起きていることに向き合おう、というものです。
いわゆる「べき論」にとらわれると、コントロールができない様々なことがらを、無理矢理にもコントロールしようとして、周囲や自分自身にとってストレスフルな状況を発生させてしまう、と考えられています。
マインドフルネスは、意図的に、評価や判断を加えることなく、「瞬間」に注意を向ける心の状態を指します。
そして、マインドフルネスの実践は、周囲や自分自身をコントロールしたい気持ちから抜け出し、意識的に自分の内面と向き合うための訓練と言えるでしょう。
マインドフルネスがもたらすメリット (東京大学経済学部・経済学研究科学生サポートルーム)
マインドフルネスは、座禅などの瞑想を通じてトレーニングされることが多いですが、日常生活の様々な場面に取り入れることができます。
例えば、呼吸に意識を集中する呼吸瞑想、歩くという行為に意識を集中する歩行瞑想など、様々な実践方法があるようです。
このような考え方や行動ができる人は、多くないだろうと思います・・・
ただ、今現在で来ていないのならば、取り組んでみる気持ちがあっても良いのかもしれません。
栄 養太郎にとっては、なかなかのハードルと感じます。
上記のマインドフルネスの概念を食事の食べ方に応用したのが、マインドフルイーティング (Mindful Eating) です。
マインドフルイーティングは、「食事中や、食べものに対する自分の体や感情について判断を下さず、ありのままを認識する」ことと定義されています。
マインドフルイーティングは、食べることに意識を向けて、満腹感をしっかりと感じ、食べ過ぎを防止しよう、という考え方です。
この内容から、海外では減量や体重の維持のプログラムに用いられています。
食事 (の場) に求めることは、人それぞれ異なると思います。
空腹を満たすことだけが目的の人、社会的交流が目的の人、美味しいものを求める人、もしかしたら目的がない人もいるかもしれません。
(現代における「食事」は、無意識的に行われている?)
マインドフルイーティングは、食事に関わる一連の流れに意識を向けることが重要です。
例えば、食事の準備、食べ物を口に運ぶ瞬間、咀嚼、味わい、飲み込む感覚、食後の身体状況の変化など、食事に関わることはすべて、と考えてよいでしょう。
これら一連の流れを感じることで、「食事」全体の満足感を得られる、という算段です。
<マインドフルイーティングの実践>
【食事前の意識】
食事の前に、自分の空腹度や感情の状態に気づき、なぜ食べようとしているのかを意識する
【五感への意識】
食べ物の見た目、香り、音 (咀嚼音など) 、味、食感といった五感を通じて得られる情報を丁寧に観察する
【ゆっくりとしたペース】
急いで食べるのではなく、一口ごとに時間をかけ、食べ物をじっくりと味わう
【咀嚼の重視】
食べ物を十分に咀嚼することで、味覚がより豊かに感じられ、消化も促進される
【満腹感への気づき】
体の満腹のサインに注意を払い、必要以上に食べ過ぎることを防ぐ
【思考と感情の観察】
食事中に湧き上がる思考や感情を判断せずに観察する
【感謝の気持ち】
食材や料理を作ってくれた人への感謝の気持ちを持つことで、食体験がより豊かなものになる
マインドフルイーティングは、単なる食事法ではなく、食べ物との関係性を再構築し、食を通じた自己理解を深めるためのトレーニングという位置付けでしょうか。
SNSで見たショート動画なのですが、
カップルと思われる方々が食事 (麺類) をしています
Aはスマホを見ながら麺をすすっていました
Bは、ティッシュ (のようなもの) を汁に浸し、Aに対して箸でつまんで差し出しました
Aは、そのティッシュを確認せずに食べ、「美味しい」とBに合図しました
Aは、ティッシュを食べさせられると思っていないでしょうが、食事に意識が向いていないと、きっとこのようなことは起こるのだろうなぁ、と少し感心して見た記憶があります。
食事や食べ物を「五感で味わう」といいますが、マインドフルーティングはこの感覚を呼び戻すためのもの、と言えるかもしれません。
マインドフルイーティングの概念を体験するための代表的なトレーニングとして、「レーズンエクササイズ」というものがあります。
1粒のレーズンを使って、マインドフルイーティングのプロセスを意識的に体験するトレーニングだそうです。
なんだか、胡散臭く思えます (笑)
レーズンエクササイズのステップは以下の通り。
【観察する】
レーズンを手のひらにのせ、じっくり観察します。
色、形、質感など、普段は気に留めない細かい特徴に意識を向けます。
【触れる】
指でレーズンをつまみ、感触を確かめます。しわの具合や柔らかさ、弾力などを感じ取ります。
【匂いをかぐ 】
レーズンを鼻に近づけ、香りを丁寧に感じます。甘い香りや発酵のようなニュアンスがあるかもしれません。
【口に入れる】
レーズンをゆっくりと口に含みますが、すぐに噛まずに舌の上で転がし、その感触や味の変化に注意を払います。
【噛む】
ゆっくりと噛み始め、食感や味の変化に集中します。噛むごとに味わいが広がるのを感じることができます。
【飲み込む】
飲み込む瞬間を意識的に捉え、どのような感覚が体に広がるか観察します。
ステップの内容を見てみると、「ながら食べ」をしていなくても、意識があまり向かないような行動も含まれています。
実際、料理をまじまじと観察したり、感触を確かめたり、ゆっくり噛む、ということをしている方は少ないのではないでしょうか?
レーズンエクササイズの内容自体は簡単ではありますが、実際に試してみよう、と行動できる方は多くないのでは...と思ったりします。
おそらく、レーズンでなくても、例えば、白米を小さなおにぎりにしたり、ナッツ1粒のような、レーズンよりも身近な食品で試してみるもの手かもしれません。
エクササイズを行うことによって、「食べる」と言うことに集中できる意識を育てるきっかけを得ることができるのだろうと思います。
レーズンエクササイズを見ると、マインドフルイーティングが「特別なもの」のように感じます。
実際、私は特別に感じました。
しかし、よくよく考えると、「五感で味わう」という日本的な感覚があるように、特別なことをする必要はなく、少しだけ食事に意識を向けるだけ、で良いのかもしれません。
日常生活への取り入れ方を考える (The British Dietetic AssociationのHPを参考)
【食事はゆっくりと】
よく噛んで食べ、一口ごとにカトラリーを置くなどして、食事中に一息つく時間を取りましょう。
【気が散らないようにする】
ノートパソコンや電話、読書、テレビを見ながら食事をしないようにしましょう。リラックスして食事を楽しみ ましょう。
【自分の体の声を聞く】
空腹を感じるとき、自分の体ではどんな感じがするのかを考えて、空腹を感じるタイミングを見極める練習をする。食事をするときは、心地よく満腹感を得られると予想される量から始めましょう。
極端な空腹や極端な満腹は避けるようにしましょう。
【自分の考えや感情を振り返ってみましょう】
感情によって空腹が引き起こされることもあるので、何が食べる原動力になっているのかを見極めることが大切です。
【ひとくちひとくちを楽しむ】
食事の香り、風味、味、食感をじっくりと味わう。そうすることで、食事を楽しむことができます。
【燃料 (エネルギー) と栄養のために食べましょう】
あなたにとって満足感があり、エネルギーを与え、そしてあなたの体を養う栄養価の高い食品を選びましょう。
【食品にレッテルを貼るのを避けましょう】
あらゆる種類の食品が、健康的で多様な食生活において役割を果たすことができます。「良い」食品や「悪い」食品に焦点を当てるのではなく、満足感、楽しみ、そして栄養を与えてくれる様々な食品を取り入れることに焦点を当てましょう。
レーズンエクササイズを行わなくても、上記のような事柄に意識を向けるだけでも、マインドフルイーティングの入口に立てるのだと思います。
さらに、今回は7つのポイントを記載しましたが、すべてを実施するというのは少々難しいのかもしれません。
ですので、上記の中からできそうなものを選択する、そして、毎食でなくても、1日のどこか、1週間のうち何日か実践してみてはどうでしょうか?
人生を80年と考えるならば、おおよそ87,000食の食事を食べることになります。
(あくまでもざっくり)
1食1食を大切に・・・というのは難しいのかもしれません。
ただ、健康や人とのつながり、を考えるとき、マインドフルイーティングのような概念は、大変重要になるのだろうと思います。
少々、「怪しい」と感じる方もいるかも知れませんが、「科学的根拠」がある概念ですので、ご安心を。
「マインドフルイーティング」について、簡単にまとめてみました。
自分自身でもそうですが、日常の中のありふれた行動にじっくりと取り組む、時間をかける、ということは減ってしまったように振り返っています。
毎食、マインドフルイーティングを実践することは難しいですが、たまには、食事をじっくり味わってみるという時間を作ることが、心のゆとりにもつながるのかもしれません。
最後に、マインドフルイーティングの健康等に与える影響を検証した研究をいくつか紹介して終わりたいと思います。
・減量と血糖コントロールが良くなった研究
減量目的で内科クリニックに通院していたが、改善が見られなかった2型糖尿病および肥満のある女性に対してマインドフルイーティングを実践したところ、体重の減少、血糖コントロールが良好になった。
・お菓子の摂食量が減少した研究
肥満女性者を対象に (BMIが35.5±3.6)、マインドフルネストレーニングを実施したところ、マインドフルイーティング群は、食事・運動療法群と比較して、お菓子摂取量が減少した (これに伴い空腹時血糖も低下した)。
参考資料
The British Dietetic Association: Mindful Eating
Harvard T.H. CHAN: Mindful Eating
慶応大学: マインドフルネス&ストレス研究センター
日本マインドフルネス学会: マインドフルネスとは
東京大学経済学部・経済学研究科学生サポートルーム: News Letter (2014, Nov)
参考文献
1)Williams, Mark, et al. The mindful way through depression: Freeing yourself from chronic unhappiness. Guilford Publications, 2024.
2)Baer, Ruth A. "Mindfulness training as a clinical intervention: a conceptual and empirical review." Clinical psychology: Science and practice 10.2 (2003): 125.
3)Kristeller, Jean L., and C. Brendan Hallett. "An exploratory study of a meditation-based intervention for binge eating disorder." Journal of health psychology 4.3 (1999): 357-363.
4)Ding, Feng, et al. "How is satiety affected when consuming food while working on a computer?." Nutrients 11.7 (2019): 1545.
5)da Mata Gonçalves, Renata Fiche, et al. "Smartphone use while eating increases caloric ingestion." Physiology & behavior 204 (2019): 93-99.
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7)野崎剛弘. "疾患・ 病態別のポイントがわかる! 栄養指導オールガイド [栄養指導に関する最新 TOPICS] 10 マインドフルイーティング." 臨床栄養 144.6 (2024): 951-953.
8)小山憲一郎, et al. "マインドフルネス食観トレーニング: Mindfulness Based Eating Awareness Training (MB-EAT) に関する基礎研究―チョコレートエクササイズのマインドフルネス音声教示はチョコレートの摂食量を減らしうるか―." 福岡県立大学人間社会学部紀要 28.2 (2020): 41-53.
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