距離が伸びても変化なし!グルーオンと「強い相互作用」の基本的な性質を解明

2022.08.10

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、物質の質量の99%以上を説明する「強い相互作用」の強さに関する研究だよ。

なんかこう聞くとちょっと難しいけど、これは私たちを含めた、宇宙の物質の非常に根幹的なところに関わっているんだよ!

強い相互作用の変化に関する新しいデータ

私たちの質量の99%以上を説明する粒子がある!?

2012年に発見されたヒッグス粒子は、全ての物質の質量の源だという事で、 "神の粒子" [注1]という言葉まで登場したくらい、当時はセンセーショナルに受け止められたよ。

ところがこのヒッグス粒子は、質量の源である事は確かだけど、質量のほとんどわずかしか説明していないんだよ!

どういう事かな?例えば、全ての物質は原子でできているけど、この原子は中心の原子核と、その周りを回る電子で構成されているよね?

中心の原子核は、陽子中性子という2種類の粒子の組み合わせでできているよ。そして原子の質量の99%以上は原子核で占められているよ

そして、陽子と中性子は、更にクォークという素粒子の組み合わせでできているよ。陽子と中性子はどちらも、2種類のクォークが3個結びついてできているよ[注2]

では、陽子や中性子の質量はクォークの質量で説明できるのかなと言うと、実は違うよ。クォーク自身が持っている質量、つまりヒッグス粒子で説明できる質量は、全体の1%もないよ!

では、残り99%以上はどうなのかというと、クォークが陽子や中性子の中で光速に近い速度で動いていて、その運動エネルギーが質量に変換されて発生したものだよ!

グルーオンは私たちがバラバラにならないようにする “糊” 粒子

グルーオンって?

グルーオンは原子核、あるいは原子核を作る陽子や中性子がバラバラにならないようにしている素粒子だよ!

ここでようやく、今回の説明の主役であるグルーオンという素粒子が登場するよ。クォークのめちゃめちゃな運動エネルギーは、このグルーオンが源になっているからだよ。

ところで、陽子はプラスの電気を帯びている粒子で、クォークはプラスやマイナスの電気を帯びているけど、これらは同じ電気を帯びている同士では普通は反発するよ。

このままだと原子核はバラバラになってしまうわけだけど、これを防いで、糊 (グルー) のようにクォークや陽子をくっつける素粒子がグルーオンだよ。

そして、グルーオンが粒子を結び付ける力は、電気の力である電磁相互作用に逆らうわけだから、同じ距離で電磁相互作用よりも100倍も強いよ!

グルーオンが伝達する力は、電磁相互作用より強い力である事から、これを強い相互作用と呼ぶんだよ。テキトーすぎる命名[注3]に思えるけど、正式な科学用語なんだよ!

グルーオンと強い相互作用は、銀河からウイルスまで、様々な物質の根幹である原子がバラバラにならず安定して存在する理由や、その質量の大半を説明しているんだよ!

さて、グルーオンは私たちの非常に根本的な部分に関わっているんだけど、その性質については理論的にも実験的にもほとんど分かっていないんだよ。

強い相互作用は1000兆分の1メートル程度という非常に短い距離でのみ働く力で、この距離で何が起きているのかを調べるには、非常に強力な加速器が必要だよ。

更に、グルーオンはカラーの閉じ込め[注4]と呼ばれる、単独では取り出せないという特殊な性質があって、単独で取り出して実験や観測する事ができないという特有の難しさがあるんだよ。

このため、グルーオンが伝達する強い相互作用は、その正確な強さが判明していないんだよ。更に、強い相互作用の強さそのものも非常に特殊というのも厄介だよ。

例えば電磁相互作用や重力相互作用は、距離が伸びれば伸びるほど弱くなっていくよ。対して強い相互作用は、距離が伸びれば伸びるほど強くなっていく性質があるんだよ!

この、バネやゴムに例えられる性質が、グルーオンを単独では取り出せない性質[注5]と関わっているよ。そしてよくわかっていないのは、距離がすごく伸びた場合の強い相互作用の強さだよ。

距離がある程度伸びている場合には強くなる事が判明しているけど、ずっと遠距離になった場合の強さは不明だよ。これを正確に知る事が現代物理学の課題だよ。

実験データを掘り起こしてグルーオンの性質を発見!

トーマス・ジェファーソン国立加速器施設などの研究チームは、この非常に測定の難しい、遠距離での強い相互作用の強さの測定に取り組んだよ。

測定に使ったのは、陽子や中性子に対して加速した電子をぶつけた場合の反応だよ。と言っても、これは元々全く別の実験のために測定していたよ。

ところがデータを改めて精査したところ、距離が非常に遠くなった時の強い相互作用の強さを測定するために必要な条件がそろっている事に気づいたよ!

そこで、必要なデータを取り出し、強い相互作用の強さをデータ化してみたよ。その結果、過去の研究でもあまり判明していない、遠距離の強い相互作用の強さが分かったよ!

強い相互作用のフラットな部分

強い相互作用の働く距離が長くなると、通常はどんどん強くなるよ。ところが今回の研究で、ある値を境に強さがほとんど変化しなくなる事が分かったよ! 
(画像引用元: 原著論文 Fig 1)

探索した範囲は、0.143GeVから2.177GeVのエネルギーの範囲内で、その時の強い相互作用の強さに関わるαg1という値は3.129から0.581まで変化したよ。

この値の細かい説明は割愛するけど、重要なのは、この値から分かる強い相互作用の変化の度合いだよ。途中までは距離が伸びると強い相互作用の強さが増加していく予想通りの展開だったよ。

今回の論文に書かれた新しい発見は、ある距離以上になった場合には、距離が伸びても強い相互作用の強さがほとんど変化しなくなったという結果が得られた点だよ!

これまで、距離が伸びた時の値の変化が、途中から変化するのかどうか、あるいはしないのか、というのは、様々な説があって、どれが正しいのか分からなかったよ。

物理学の基本を決定する発見!

今回の実験結果を踏まえれば、距離が一定以上になると、強い相互作用の強さはほとんど変化しなくなる、という理論が正しい、という事が分かるんだよ!

今回の論文は、AdS/CFT対応やシュヴィンガー・ダイソン方程式と言った、グルーオンや強い相互作用を記述する理論に影響を与える発見だよ。

グルーオンや強い相互作用を通じて、私たちの根幹である原子核の性質を深く理解する、その非常に重要な柱の1つになるはずだよ!

脚注

[注1]  "神の粒子"
この名称はメディアで多用されているけど、物理学者の間では評判の良くない名称だよ。実際、ヒッグス粒子はその分野で重要な存在だけど、それで "神の粒子" と呼ばれるなら、他にもそう呼ばれるべき素粒子は無数に存在するからね!

[注2] 陽子と中性子はどちらも、2種類のクォークが3個結びついてできている
陽子と中性子は、どちらもアップクォークとダウンクォークと呼ばれる2種類のクォークの組み合わせでできているよ。陽子はアップ2個+ダウン1個、中性子はアップ1個+ダウン2個の組み合わせだよ。

[注3] テキトーすぎる命名
「強い相互作用」は発見当初、電磁相互作用よりも "強い" 事から、仮の名前として「強い力」と呼んでいたのが、いつの間にか正式用語として定着したんだよ。ちなみに同時期に発見された、電磁相互作用よりも "弱い" 力は、同じ命名経緯で「弱い相互作用」という正式名が付けられているよ。

[注4] カラーの閉じ込め
グルーオンは8種類の異なる "色" があり、この色をうまく混ぜて "白" になる組み合わせでしか取り出して観測する事ができない、という縛りがあるよ。グルーオンは単独では "白" 以外の色だから、単独で取り出して観察する事ができないよ。これを光の三原色に例えたのがカラーの閉じ込めという性質で、グルーオン自体に視覚的な色がついているわけじゃないよ。ちなみにカラーの閉じ込めはグルーオン以外ではクォークが影響を受けているよ。

[注5] グルーオンを単独では取り出せない性質
カラーの閉じ込めの他にもグルーオンを単独で取り出せない理由が強い相互作用にあるよ。強い相互作用は距離が伸びれば伸びるほど強くなるけど、これはエネルギーが増えている事とイコールだよ。あまりに距離が伸びると、ゴムが千切れるように強い相互作用は働かなくなるけど、ところがこの距離まで引き延ばすエネルギーでは、切れた先端に新たなグルーオンやクォークを生成するのに十分なエネルギーが生まれてしまうよ。このために、グルーオンを単独で取り出す事はできなくなるよ。

文献情報

[原著論文]

  • Alexandre Deur, Volker Burkert, Jian-Ping Chen & Wolfgang Korsch. "Experimental Determination of the QCD Effective Charge αg1(Q)". Particles, 2022; 5 (2) 171-179. DOI: 10.3390/particles5020015

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事