おせち料理の数の子の話

2023.01.02

 お正月と言えばおせち料理。おせち料理と言えば、黄色いプチプチした細長いアレ、「数の子」だ! マイナビニュースによると、株式会社紀文食品が20~60代の主婦7015名に対して調査した「2021年好きなおせち料理ランキング」で、数の子は4位だったという。まあまあ順位は高い方ではないだろうか(ちなみにトップスリーは、お雑煮、栗きんとん、黒豆)? 今や数の子自体は年中いつでも食べられるのだが、お正月以外で食べる機会は意外に少ない。普段何となく食べているおせち料理の数の子だが……実はあまりよく知らない。そこで今回は新春企画として数の子についていろいろ調べてみた。

 

数の子とは何か

 まず気になるのが、数の子は一体何かということである。結論を先に言うと、数の子はニシンという魚類の卵巣だ。ニシンは昔、別名でカドと呼ばれており、「カドの子」が訛ってカズの子と呼ばれるようになったという説が一般的だ。おせち料理で食べられる由縁は、ニシンの漢字に「二親」を当て、親二人からたくさんの子供ができますようにという子孫繁栄の縁起を担ぐためとされている。またニシン自体も、好条件が重なれば爆発的に増えることが知られている。


 ニシンは尾叉長30cm前後になり、北太平洋に分布し、国内では北海道が主な産地で、昔は大量に漁獲されていたが、様々な要因で近年は漁獲量が減少し、足りない需要は海外から輸入している。現在、国内産のニシンは漁獲量の少なさから珍重され、国内産の数の子は海外産よりも値が高い。私が今回スーパーで購入した比較的安い900円台の数の子も産地を見るとアメリカとなっていた。それにしても、原材料がニシンの卵と食塩のみとは非常にシンプルな食材である。


 ニシンと言えば、年越しそばにもニシンの甘露煮を入れて食べるものだが……これはどうも地域性があるようだ。私の家は年越しそばにニシンを入れるのが定番となっている。私も調べるまで知らなかったのだが、おせち料理の「子持ち昆布」の卵も、実はニシンの卵である。つまり、年末の年越しそば、お正月の数の子と子持ち昆布と、ニシンは年末年始に縁起物として密かに大活躍していたのである。

 

 世界一臭い食べ物と称されるシュールストレミング(塩漬けのニシン類を缶に入れて発酵させたスウェーデンの発酵食品)もニシン類であるが、北大西洋のニシン属の種(主にタイセイヨウニシン)は、北太平洋の種(ニシン)と別種とされ、遺伝的にも異なることが確認されている。ニシンの産卵期は春(主に3~4月)で、主に昆布などの海藻類に付着卵を産み付ける。一方、タイセイヨウニシンの産卵期は春と秋で、海底の砂礫などに卵を産む。ニシンの卵巣は堅く身締まりするため塩数の子にされることが多いが、タイセイヨウニシンの卵巣はあまり堅く身締まりしないため味付け数の子にされることが多い、といった卵の粘着具合も異なる。これでスーパーで数の子を買う際に、産地が太平洋産か大西洋産かを見るだけで、どちらのニシン類を食べる事になるのかは予測することができるだろう。ちょっとした豆知識だ。

 

数の子、数えてみる?

 ところで、このニシンの卵、粒々が見えるので数えることが出来そうと思ったことはないだろうか? 私は職業病のため、数の子を食べるたびに少し気になっていた。そこで、今回はスーパーで買ったアメリカ産の塩数の子一房の卵の数を調べてみようと挑戦してみた。まずは数の子一房の重さを計量する。

 

 17gだった。家にあった計量計は1g単位なので精度は悪い。通常、卵数を調べるなら0.1g単位などもっと細かい単位で計量する。また通常、硬骨魚類の卵巣は一対である。ニシンも同様に卵巣は一対だ。ということは、この数の子一房は卵巣の片割れということになる。卵巣は左右で大きさや形が少し違っていることもあるので、厳密にするなら両方一緒に計量する方が良い。この記事は論文ではなく、また卵巣のもう片割れも不明なため、ざっくり推定するものとして話を進める。このニシンの卵巣は単純に2倍して、推定卵巣重量34gとする。

 

 卵巣内の卵数を数えるのは「抱卵数(孕卵数)」であり、産卵数ではない。つまり、数の子の卵数は抱卵数である。一方、子持ち昆布の卵数を数えるなら、産み出された卵になるので産卵数に相当するが……子持ち昆布は複数の個体が昆布に産み付けているため、1個体の産卵数として数えるのはほぼ不可能だろう。そうなると、ニシンの卵数もまた抱卵数として推定するしかない。

 

 計量した卵巣の一部を計量する。今回は1gだった。この1g中の卵の数を数えて、計量した卵巣重量に引き延ばした卵数がその個体の抱卵数として推定される。これが抱卵数の推定でよく行われる「重量法」である。早速、1gの卵巣片を箸でほぐして、卵数を数えてみようと試みた……が、しかし、思っていた以上に一粒一粒の卵が卵巣の膜に固着していて、全然分割できない。卵は弾力があるが、強く裂こうとするとプチプチと潰れていく。また、数の子全体は黄色く見えているが、卵一粒一粒は透明度が高いため、見えにくい。やはり卵巣をほぐして卵を分離するには、柄付き針と顕微鏡が必要だと再認識した。これらの理由から、30分ほど格闘して、正確に卵数を計数するのは困難だと判断し、断念した。研究に失敗は付き物だ目に見えているものを計数するだけでも地味に難しいのである。

 

推定しよう

 しかし、実際に計数できなくとも、ニシンは重要な食用資源であるため、基礎的な生態は明らかにされている。ニシンは複数の地域集団が存在するので、本来は今回スーパーで買った数の子の産地であるアメリカのデータを参照するのがベストであるが、適切な論文が見付からなかったので、ここでは高柳・石田(2002)の石狩湾系ニシンのデータを参照して、この数の子の卵数を推定することにした。高柳・石田(2002)の卵巣重量と尾叉長の関係式から今回のニシンの推定卵巣重量の推定尾叉長を算出すると、約26cmと算出された。次に、高柳・石田(2002)の抱卵数と尾叉長の関係式で、推定尾叉長から今回のニシンの抱卵数を求めると、約41000と推定された。今回調査を試みたニシンの卵巣片の重量は片割れなので、抱卵数を半分に割ると、約20500個と推定される。

 

 かなり大雑把な推定なので実際の抱卵数とは大きく異なると思われるが、一房17gの数の子に2万個前後の卵が含まれていた可能性があるとは驚いた。我々はお正月に何万個ものニシンの卵を一人で食べているのだ。プチプチ食感が美味しい数の子に感謝して、今年も元気に暮らせることを願うばかりだ。

 

~今日の一首~

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