試料を破壊せず、非接触で温度を計測

2024.08.08 By 日本原子力機構

材料工学

技術概要

透過力の高い中性子を利用し、物体内部の温度を計測する手法です。赤外線やX線では計測できない、新素材を溶融した炉内・稼働中の電動機内・軸受け等の試料温度を計測することができます。

用途・応用

非破壊温度計測

背景

試料の温度を測定する方法として、試料と温度センサとを接触させる接触型の測定方法
と、試料と非接触の状態で試料の温度を測定する非接触型の測定方法の2種類がある。試
料と温度センサとを接触させることが困難な状況の場合には、特に非接触型の測定方法が
好ましい。

 非接触型の測定方法としては、例えば試料から発せられる熱赤外線の強度を基にして温
度を測定する方法が広く用いられている。一方、例えば放射性廃棄物の温度を測定する場
合には、試料と温度センサとを接触させることが困難な上に、更にこの試料が他の物質(
キャニスタ等)で覆われている場合もあるが、放射性廃棄物の管理上、その温度を認識す
ることは重要である。この場合には試料が発した熱赤外線を外部で検知することが困難で
あるため、熱赤外線により試料の温度を検知することが困難である。

 このため、このようにキャニスタ等で覆われた内部の試料の温度を非接触で測定する方
法として、非特許文献1に記載されたように、キャニスタ及び試料を透過するX線を用い
る方法が知られている。この測定方法においては、温度の変化に伴う試料の密度の変化が
、透過X線を用いて認識される。プローブとして使用されるX線としては、高強度の放射
光が特に好ましく用いられる。しかしながら、この方法においては、キャニスタにおける
X線の透過率が十分に高い場合にのみ温度測定が可能となるため、キャニスタの厚さや材
料に対する制限が大きい。

 これに対して、一般的に、中性子(線)の物質に対する透過率はX線等と比べて非常に
高いため、中性子を上記のX線の代わりにプローブとして使用する場合には、上記のよう
なキャニスタに対する制限は緩くなるため、非常に有効である。例えば非特許文献2、3
には、中性子線をプローブとして用いる温度測定方法が記載されている。図8は、この測
定装置の構成を模式的に示す図であり、ここでは、中性子源100からパルス状に制御し
て生成された幅広いエネルギーをもつ(白色スペクトルの)中性子線N0が試料Sに対し
て照射され、試料Sを透過した中性子線N1の強度が、中性子検出器90によって、高い
時間分解能で検出される。この場合において試料の温度の算出に使用される中性子検出器
90における測定結果の例である。図9においては、パルス状に発せられた中性子の飛行
時間(検出時刻)と検出強度(中性子カウント)との関係が示されており、早く到達した
(横軸が大きい側の)中性子がエネルギーの高い中性子に対応し、遅く到達した(横軸が
小さい側の)中性子がエネルギーの低い中性子に対応する。このため、図9の特性は中性
子線N1のエネルギースペクトルに対応する。ここで、図8においては、試料Sのみが記
載されているが、実際には中性子線N0、N1に対する透過率が高い他の材料(例えばキ
ャニスタ)が光軸上に存在していても、上記の測定を行うことができる。中性子の物質透
過率は他の放射線等と比べて高いため、こうした材料として、多くのものを用いることができる。

 中性子線N0が仮にエネルギーが一定の白色スペクトルであり、試料Sが存在せずに中
性子線N0がそのまま中性子検出器90で検出された場合には、図9の破線で示されたよ
うに、白色のエネルギースペクトルを反映した時間的に一定の検出強度が得られる。一方
、試料Sが存在する場合には、中性子線N0が試料Sを透過する際に、試料S(試料S中
の核種)における中性子の共鳴吸収に固有のエネルギーをもつ中性子が特に強く吸収され
る。このため、試料Sを透過後の中性子線N1においては、上記の固有のエネルギーに対
応する飛行時間で強い吸収(検出強度の低下:ディップ)が発生する。このエネルギーは
、例えば試料SがTaで構成される場合には4.3eV程度となる。

 試料Sの温度が変化した場合に、このディップの極小点の位置(エネルギー:飛行時間
)は変化しないが、ディップの形状(深さや幅)は、原子核の熱運動によるドップラー効
果により定まり、試料Sの温度に応じて変動する。例えば、図9において、特性Aは温度
23℃、特性Bは500℃におけるTaの共鳴吸収に対応する。このため、試料Sに含ま
れる元素(核種)が特定され、中性子検出器90の検出結果でこのようなディップの形状
の差異を認識することができれば、試料Sの温度を認識することができる。この際、試料
Sに複数種類の元素が含まれる場合においては、各元素(核種)についてこの解析を行う
ことができるが、試料Sが単体の構造物である場合にはどの元素の場合でも原理的には同
じ温度が算出される。このため、この元素としては、このうちの一種のみを選択すれば十
分であり、このディップが最も顕著となった核種(共鳴吸収のエネルギー)に対してこの
解析を行うことにより、試料Sの温度を算出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】

【非特許文献1】「物体内部の温度を非破壊で計測可能な3次元X線サーモグラフィー技
術を開発」、日立製作所HP、URL:https://www.hitachi.co
.jp/rd/news/topics/2018/0926.html
【非特許文献2】Tetsuya Kai、Kosuke Hiroi、Yusha S
u、Takenao Shinohara、Joseph D.Parker、Yosh
ihiro Matsumoto、Hirotoshi Hayashida、 Mar
iko Segawa、Takeshi Nakatani、Kenichi Oika
wa、 Shuoyuan Zhang、 and Yoshiaki Kiyanag
i、「Reliability Estimation of Neutron Res
onance Thermometry Using Tantalum and Tu
ngsten」、Physics Precedia(2017年)、Volume.8
8、306頁
【非特許文献3】A.S.Tremsin、W.Kockelmann、 D.E.Po
oley、 W.B.Feller、「Spatially Resolved Rem
ote Measurement of Temperature by Neutro
n Resonance Absorption」、Nuclear Instrume
nts and Methods in Physics Research Sect
ion A:Accelerators(2015年12月)、Volume.18、1
5 頁

課題

図9におけるディップの形状(深さ、幅)から温度を算出するに際しては、図9におけ
るバックグラウンド値であるI0からの、ディップにおける検出強度(中性子カウント)
の減少分を認識することが必要となる。このため、I0と共に、ディップの極小点におけるI0からの減少値ID等を正確に認識することが必要となり、上記のようにディップの
形状から温度を正確に算出するためには、比率ID/I0が大きいことが要求される。し
かしながら、I0は非共鳴領域の(共鳴吸収のエネルギーから十分に離間したエネルギー
をもつ)中性子の強度であり、これはプローブとなる中性子線N0の強度に対応するため
、I0は常に大きな値となるのに対して、試料Sにおける共鳴吸収により生じたIDは小
さい場合がある。このため、比率ID/I0を十分に大きくすることは実際には困難であ
り、温度算出の精度は充分ではなかった。更に、試料Sに複数の元素が含まれる場合には
、I0は、対象とするディップを形成する元素以外の他の元素の影響も受けるため、算出
において採用すべきI0の値自身にも不定性が存在する。このため、実際には、上記の様
な中性子を用いた温度測定方法においては、測定される絶対温度Tの分解能ΔT/Tは5
%以上(例えば400Kで20K程度)となり、温度測定の精度は充分ではなかった。

 すなわち、試料における中性子共鳴吸収を利用して試料の温度を非接触かつ高精度で測
定することが望まれた。

 本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提
供することを目的とする。 

手段

 本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
 本発明の温度測定装置は、試料における中性子の共鳴吸収を用いて前記試料の温度を非
接触で測定する温度測定装置であって、前記試料における前記共鳴吸収が発生するエネル
ギーを含むエネルギー範囲のスペクトルをもつ中性子で構成されたパルス状の中性子線を
発生させる中性子源と、前記試料において前記共鳴吸収が発生するエネルギー領域で前記
共鳴吸収をおこす核種を含んで構成され、前記試料を透過後の前記中性子線が照射される
インディケータと、前記インディケータからの前記共鳴吸収に伴う即発γ線、又は前記中
性子線の光軸から外れた散乱中性子線の強度の経時変化である飛行時間スペクトルを検出
する検出部と、前記飛行時間スペクトルから前記試料の温度を算出する解析部と、を具備
することを特徴とする。
 本発明の温度測定装置において、前記インディケータは、前記試料と共通の核種を含ん
で構成されることを特徴とする。
 本発明の温度測定装置において、前記解析部は、前記飛行時間スペクトルと、予め記憶
された参照スペクトルからの差分の積分値を算出し、当該積分値に基づいて前記温度を算
出することを特徴とする。
 本発明の温度測定方法は、前記温度測定装置において、異なる共鳴吸収エネルギーを有
する複数の核種を含有する前記試料に対して、前記複数の核種を含有する前記インディケ
ータを用い、前記複数の核種の各々に対して前記温度を算出することを特徴とする。
 本発明の温度測定方法において、前記複数の核種は、前記試料における別体とされた複
数の部分にそれぞれ別に含有され、当該部分毎に前記温度を算出することを特徴とする。

効果

本発明は以上のように構成されているので、試料における中性子共鳴吸収を利用して試
料の温度を非接触かつ高精度で測定することができる。

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特許情報

特許第7223420号

JPB 007223420-000000