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アカデミスト株式会社は2021年9月1日、若手研究者を対象とした月額支援型クラウドファンディングのプロジェクト「academist Prize」を開始しました。アズワン株式会社は日本の未来を支える若手研究者を応援したいという思いに共感し、今回のプロジェクトにスポンサーとして参画しております。
「academist Prize」に採択された若手研究者の研究内容や研究に対する思いなどをインタビューしましたのでその内容をお届けします。
今回は従来の二次電池より安全、高性能な全固体電池の研究で、充電切れの心配のない世界の実現を目指されている引間さんに研究のお話を伺いました。
CONTENTS
全固体電池とは電池の構成部材が全て固体である電池のことです。
現在、スマートフォンや電気自動車に使われている充電できる電池はリチウムイオン二次電池というもので、2つの電極(正極と負極)とその間を分ける電解液を染み込ませたセパレーターで構成されています。電極間をリチウムイオンが電解液の中を通って、行ったり来たりすることで充電や放電が起こります。
電極は固体ですが、電解液部分は有機溶媒が使われているため、液漏れや発火、爆発の危険性がありボーイング787の発煙事故やスマートフォン発火事故の原因となっています。
一方、全固体電池は電解液の代わりに正極と負極の間に固体電解質を使用し、電池全体がすべて固体で出来ているため、液漏れが起こらないなど安全性の高い電池です。
また、理論的には液体より固体のほうがリチウムイオンだけを通すことができるのでもっと早く充電/放電できる(車でいうとアクセルを踏んだ時、勢いよく加速できる可能性がある)と言われていますが、全固体電池の実用化に向けてはイオンを高速で伝導させることが難しかったり、エネルギー密度や出力特性を高めたりする面などで課題が残っています。
※全固体電池の実用化に向けた課題
「課題」 | 「研究ポイント」 |
---|---|
出力(パワー) | リチウムイオンが早く動ける"セパレーター(電解質)" |
長寿命 | たくさんリチウムイオンを溜め込める"電極" |
安定性 | 繰り返しの充電放電に耐えられる(劣化しない)材料の"組み合わせ" |
現在それらの課題の解決に向けて、以下の3つの研究テーマを行っています。
次の3つのテーマに取り組んでいます。
①高容量正極材料の合成と全固体リチウム二次電池への応用
②液相複合化による全固体電池用電極複合体の設計
③液相法による硫化物固体電解質の合成と材料探索
【テーマ①:高容量正極材料の合成と全固体リチウム二次電池への応用】
リチウム過剰系正極(Li2MnO3-LiMO2(M:遷移金属))は初期充電過程での酸素が関与する活性化反応が進行し、250mAh g-1以上の高容量を示すことから、次世代正極材料として注目されています。
これまでモデル薄膜を用いた全固体電池では高容量が可逆的に得られることが明らかになっていますが、実用粉末系全固体電池に適用した例はなく、本研究では全固体電池の高エネルギー密度化を目指し、リチウム過剰系正極を用いた全固体電池の構築を目指しています。
【テーマ②:液相複合化による全固体電池用電極複合体の設計】
全固体電池の高性能化に向けては、(1)ナノサイズの電極活物質、(2)Liイオン伝導性の硫化物系(Li3PS4など)もしくは酸化物系固体電解質(Li3PO4など)、(3)アセチレンブラックなどのカーボン系導電助剤、以上3種類の粉末を混合した電極複合体の作製が必要とされています。
しかし、先行研究において電極層内部における電子・イオン伝導パスを設計した例はなく、材料の組み合わせ毎に導電助剤や固体電解質の材料種、混合割合や混合方法を、色々なパターンで検討するに留まっており、その組合せパターンによって、なぜいい特性がでるのか?についてもまだ解明が進んでいない状況です。これは、高い表面エネルギーを持つナノ粒子では強い凝集が発生し、均質分散に限界があることが大きな要因の一つです。
そこで、ナノ粒子を均一に分散できる静電吸着法により作製された複合顆粒などを駆使して、電子・イオン伝導パスを制御した電極複合体を創製することを目指して研究を進めています。
【テーマ③:液相法による硫化物固体電解質の合成と材料探索】
全固体電池実用化の鍵を握る硫化物系固体電解質の合成は、遊星型ボールミリングの機械的エネルギーによって粉末原料をまぜて原材料粒子間の化学反応を進行させるメカニカルミリング法での報告が多いですが、混ぜ続ける工程の為、処理時間が長く高エネルギーが必要であるため大量生産には不向きです。
我々はメカニカルミリング法に代わる社会実装に向けた合成プロセスとして、液相加振法に関する研究を精力的に行っています。
液相加振法とは、エステル系有機溶媒中でLi2SとP2S5などの出発原料とジルコニアボールを振盪処理することで硫化物系固体電解質を合成する方法で、メカニカルミリング法に比べ早く大量に合成が出来るのではないか検討を進めています。
しかし、液相加振法はメカニカルミリング法と比較し導電率が一桁程度低いことが課題なため、液相合成プロセスの改善や異種元素置換による導電率の向上などを行っています。
各研究テーマをまとめますと、テーマ①は電極、テーマ③はセパレーター用などの最適な固体電解質材料を探すというものです。
たくさんのリチウムイオンを蓄えられる電極を作ることで、例えば1週間バッテリーが持つようなスマートフォンや走行距離が長い電気自動車が製造できる可能性があります。またリチウムイオンが速く移動できるようなセパレーター用固体電解質材料を作ることで、例えば吸引力の高い掃除機など電池の出力を高めることができます。
セパレーター部分に液体が使われている従来の二次電池とは異なり、全固体電池は電極層にもイオンを通す物質を入れ込む必要があります。テーマ②は電極と固体電解質を均一に混ぜ込んだり、最適な組み合わせを検討したりするテーマになります。
この研究を通して、もっと小型で出力が大きな電池を生み出せたらと思っています。本来脇役であるべき電池が、今はデバイスにおいてメインの課題になってしまっているのは問題だと感じています。
安全性や性能で課題があるというのが現状ですが、それを脇役に戻し、蓄電池を搭載した様々なデバイスが広がり、人々の生活に貢献できるような未来にしたいです。
電極やセパレーター用の固体電解質材料、それらの組み合わせ、合成条件は考えれば無限に近い組み合わせがあります。
なるべく効率的に実験を行うよう心掛けていますが、現在手作業で行っている実験をなるべく自動化できるといいなと考えています。将来的にはシミュレーションや計算科学といった技術が進歩することで、より研究が加速することも期待しています。
また材料合成の各工程において、要素技術でユニークな特徴のある製品や技術をお持ちの企業(例えば、撹拌のプロや熱処理のプロなど)とコラボできるといいなと思います。
他にも、合成した材料や電池の反応分布のユニークな分析評価ができる企業とも、コラボできると面白いと思います。
大きく分けて3つあります。
①支援者との新しい関係構築のため
②研究を身近に感じてもらうため
③研究資金を得るため
現状、研究者は大半の方々にとって遠い存在です。ただ、研究は国のお金を使ってやっている面もあるため、一般の人にもっと身近に感じてもらえるように、研究者側はもっと自身の研究を発信し、一般の方々もそれに興味持っていただけるような関係性が築ければと思っています。
雇用の安定性向上やキャリア選択の多様化が進めばと思っています。
そのためにも、博士号を取ってアカデミックの世界にずっと閉じこもるのではなく、研究者が自身の研究をもっと外に発信する必要があると思います。そうすることで必然的に支援者が増え、研究が進むと考えています。
問題は単純ではないかもしれませんが、若手研究者がより活躍・チャレンジしやすくなるための初めの1歩として、今回クラウドファンディングに挑戦しています。
いかがだったでしょうか?
スマートフォンや電気自動車をはじめとする様々なデバイスに欠かせない蓄電池の研究は非常に興味深いですね。充電切れの無い世界が来るのはとても楽しみです!
引間さんの研究を応援したい!という方はぜひアカデミストのサイトより支援をお願いいたします!
引間さんのTwitterはこちら ⇒https://twitter.com/k_hikima
「Lab BRAINS」(読み:ラボブレインズ 〈通称:ラボブレ〉)は、アズワン株式会社が運営する、大学・民間企業・公的研究機関において研究活動を行っているすべての人に気づきと出会いを提供することを目的に設立された、研究者の為の情報提供・コミュニケーションサイトです。