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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第33回のテーマは「細胞にお盆はない――生き物相手の休めない実験」です。





こんにちは!
ラボりだな日々、第 33 回のテーマは「細胞にお盆はない――生き物相手の休めない実験」です。
8 月中旬。世間は夏休み、お盆休みモード。帰省の予定を立てたり、家族と過ごしたり、少しゆっくりした時間を楽しみにしている方も多い季節です。
しかし、研究室ではそう簡単に「全員お休み!」とはいかないことがあります。
その理由のひとつが、今回の漫画に登場する「細胞」です。
今回の漫画では、お盆にお休みをとるつもりで実験準備を進めていた Ayane が、休み直前になって「思ったより細胞が増えていない」ことに気づき、結局お盆にもラボへ出勤することになった様子が描かれています。
お盆休み前に培地交換を済ませて、完璧な連休を迎えるはずが……いざ休み直前になってみると、予定通りにはいかない。
人間には人間の都合があるように、細胞にも当然お盆休みはありません。生き物を相手にする研究では、こうした「カレンダー通りにいかない」事態はよくみられます。
細胞培養では細胞の状態を観察しながら、培地交換や継代を行います。
継代とは、増えた細胞の一部を新しい培養容器に移し、さらに増殖できる状態に整える作業です。
順調に増えていれば、予定通りに継代して、安心して休みに入ることができます。
しかし、実験の技術や観察である程度コントロールはできるものの、基本的に細胞は人間の都合に合わせて増えてくれるわけではありません。
「この日までに増えているはず」
「休み前に継代すれば大丈夫なはず」
そう思っていても、実際に見てみると、予想より増殖が遅いことがあります。逆に、思ったより早く増えすぎてしまうこともあります。
細胞の状態は、培養条件、細胞の種類、継代後の日数、播種密度、培地の状態、温度や CO₂ 濃度など、さまざまな要因に左右されます。だからこそ、カレンダーだけを見て機械的に予定を立てるのではなく、細胞そのものの状態を確認しながら判断する必要があります。
人間の休みに合わせてくれないのは、細胞だけではありません。
マウスなどの実験動物を扱う研究でも、休みだからといって完全に手を離すことはできません。
動物たちは毎日生きています。餌や水、ケージの状態、健康状態の確認など、継続的なお世話や観察が必要です。実験の内容によっては、投薬やサンプリング、行動観察などのタイミングが決まっていて、休日であっても予定をずらすことはできません。
「お盆だから少し待ってね」と細胞に言えないように、実験動物にも「今日は人間がお休みなのでまた明日」とは言えません。なぜなら、マウスの生後 15 日は、そのマウスの一生において 1 回しか訪れないからです。
相手が命ある生き物である以上、最終的には人間側が彼らのペースに合わせざるを得ない。
それが、これらの実験の大きな特徴であり、同時に悩ましいところでもあります。
研究者や技術職員、学生さんも、もちろんお盆や年末年始、ゴールデンウィークには休みたいと思っている方が多いのではないでしょうか?
そのため、連休をしっかり休めるように逆算して細胞を播いたり、継代のタイミングを調整したり、培地交換の予定を組んだりと、事前にかなり綿密なスケジュールを立てます。
しかし、そこはやはり生き物です。
「いつも通りに育たない」
「なぜか増えすぎた」
「突然コンタミしてしまった」
「休み明けに使うはずだったのに、状態がそろわない」
このように、思い通りにいかないことは少なくありません。
漫画のように、念入りに計画を立てても最後の最後で細胞の機嫌が変わり、結局予定を変更して出勤する……という「計画の崩壊」は、生き物を実験対象として扱う生命科学系ラボの“あるある”と言えるでしょう。
では、やむを得ず休日に出勤したラボはどんな雰囲気なのでしょうか。
実は、誰もいない休日のラボは、普段の喧騒から離れて自分のペースで作業ができるため、「意外と嫌いじゃない」「集中できる」という声も少なくありません。
静かな廊下を歩き、クリーンベンチの前に座り、インキュベーターから細胞を取り出す。
周囲に人が少ないぶん、いつもより落ち着いて細胞の状態を見られることもあります。
とはいえ、ふと休憩中にスマホを開けば、世間の楽しそうな帰省や旅行の話題が目に入ってきます。
そんな情報を横目に、「自分はお盆も細胞と一緒やんけ!」と心の中でツッコミを入れつつ、静かに作業に戻るのです。
とはいえ、研究に関わる人も人間です。
細胞にお盆がないからといって、研究者や技術職員、学生さんが全く休まなくてよいわけではありません。(頑張らなければならない時はあるので状況によると思いますが…)
むしろ、生き物相手の研究が続くからこそ、無理なく回せる体制づくりが必要です。
休み中の細胞管理をどう分担するか。
誰がいつ確認に来るのか。
実験動物のお世話や観察は誰が担当するのか。
細胞を凍結保存して実験を一時中断する選択肢はないか。
こうしたことを研究室内で共有しておくことで、誰か一人に負担が集中する状況を減らすことができます。
「生き物だから仕方ない」で終わらせず、「どうすれば人間側も休めるか」を考えることも、研究現場にとって大切な視点です。
生き物を大切にしながら、実験者自身も大切にする。
その両方のバランスを取りながら進めていくことが、長く研究を続けるためには必要なのかもしれません。
それではまた次回、「ラボりだな日々」でお会いしましょう!