著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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喘息や真菌感染症にも関わる可能性がある炎症制御の新発見。好中球のNETを安定化するRAD51が、IL-6など炎症性サイトカインの誘導や炎症のタイプの切り替えに影響する仕組みを紹介する。
細胞死の中でも好中球で起こる Neutrophil Extracellular Trap (NET) はユニークなので、このブログでも何度も紹介してきた。具体的には、細胞死が誘導された白血球が脱凝縮したDNAをほとんど分解することなく細胞外に吐き出す現象を指す。この結果、吐き出されたクロマチンにより炎症が局所化して長く続くことになる。誘導過程についてはよく研究されており、NETが誘導される前にヒストンのシトルリン化を誘導してクロマチンをほどけやすくする酵素やクロマチンの分解を促進する Neutorophil Elastase などが核内に移行する厳密にプログラムされた現象であることがわかっている。
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本日紹介する論文
今日紹介する英国のクリック研究所からの論文はこのプログラムになんとDNA組み換えに関わるRAD51も関与することを明らかにした研究で、8月20日号の Science に掲載された。
タイトルは「RAD51 stabilizes neutrophil extracellular traps to compartmentalize inflammation(RAD51はneutrophil extracellular trapを安定化させ炎症を限局化する)」だ。
解説と考察
おそらく白血球が吐き出したNETを眺めていて、活性化酸素で切断されたクロマチンが枝状にまとめられているのを見て、RAD51による一種の組み替えが起こっているのではと想像を巡らせたのだと思う。そこで白血球のNETを誘導すると、RADは neutrophil elastase と同じように細胞質から核内に移り、その後DNAとともに組織へと吐き出されることがわかった。さらに、RAD51の阻害剤を加えると、NETの枝状の塊が緩くなり、DNA分解酵素の作用をうけやすくなる。即ち、NETが組織内で持続するために必須の分子であることを発見した。
NETは様々な刺激で起こるが、おもしろいのは刺激に応じてRAD51の誘導が変化することで、カンジダのフィラメントは誘導能力が高い。これにより、炎症の限局化程度が変化することが予想される。そこで、しっかりと限局するNETと緩いNETでの炎症状態を比べるため、RAD51を阻害して緩いNETを作って、様々な炎症性サイトカインを比較している。その結果、完全なNETの場合誘導されるIL-1βの発現が、RAD51阻害により緩んだNETでは大きく低下することがわかった。これは NETが炎症を増強していることを示すが、話はそう単純ではなく、通常なら IL-1βと同じように振る舞う IL-6 は、RAD51阻害で逆に上昇する事がわかった。他のサイトカインを調べると、NETが緩むことで2型の炎症へとスイッチすることが明らかになった。
この原因を探ると、NETが緩みDNA分解酵素の作用を受けやすくなると、切断されたDNAが血中に入り、これが単球のTLR4を介して IL-6等の炎症物質を誘導していることがわかった。実際、RAD51を阻害すると、血中のDNA量が上昇するし、また血中に単球が移行出来ないようにすると、IL-6は誘導されない。
まとめと感想
以上の結果は、RAD51がNETの構造の安定度を調節する重要な因子で、この作用のチューニングにより炎症の様態が全く変化することを示している。最後にヒトのアスペルギールス感染症をこの視点から再検討しており、一般的にはある程度緩いNETが形成されている病気であることが示されている。最後に、この緩いNETにより活性化された IL-6やエオタキシンを中心とする炎症が、重症の喘息の原因になっている可能性を示唆しRAD51も治療の対象になる可能性を示している。
RAD51は免疫グロブリン遺伝子の再構成に必須で、免疫学者には馴染みの分子だが、これが炎症の調節に関わるとは、以外性のあるおもしろい論文だった。