γδT細胞を刺激する新しい自己分子(7月16日 Science 掲載論文)

2026.07.30

 

利根川先生の訃報を聞いたので、新しく Science に掲載されていたカロリンスカ研究所から発表されたγδT細胞を刺激する自己分子の話を取り上げることにした。

 

大学卒業後、免疫学から始めたので、利根川先生についての思い出は多い。最初はまだ研修医の頃、京都大学胸部疾患研究所の会議室で、凱旋帰国した利根川先生の免疫グロブリン再構成の可能性についてセミナーが行われ、同級生の武藤君と聞きに行った。まだ southern blotting と言う時代ですらなく、DNAの会合・再会合を調べる Cot 解析で、リンパ球のDNAが生殖細胞と異なることを示した話だった。

 

その後1980年に留学した時は、ちょうど MIT に移られる頃だったが、バーゼル研の利根川研で夜昼なく働いていた同世代の黒沢さん、坂野さんと知り合いになり、帰国後も付き合いは続いた。バーゼル研での利根川さんの様々な逸話は彼らから聞かされたので、いつか彼らの口から語られるのを待とう。

 

免疫グロブリンの研究は1970年代の話だが、1980年当時はT細胞受容体遺伝子を明らかにすることだった。T細胞受容体遺伝子をだれが最初に明らかにするのか、当然利根川先生が本命と考えられていた。ところが京都で行われた免疫学会が最初だったと思うが、全くダークホースと言える Mark Davis や Tak Mak が T細胞受容体遺伝子のクローニングに成功した。

 

この競争の中でもう一つ明らかになったのが、全く新しいγδT細胞で、通常の αβTCR遺伝子とは異なるγδTCR遺伝子を再構成して表現するおもしろい T細胞で、最初に利根川先生により報告された。そんな訳で、γδT細胞とノーベル賞のカロリンスカ研究所が利根川先生と結びつき、この論文を紹介することになった。

 

本日紹介する論文

利根川先生の発見以来40年以上経つが、この細胞についての謎は多い。中でも、いくつかのγδT細胞が胸腺で自己分子に選択され、Th1T細胞へ分化するという発見だ。とはいえ、ほとんどのγδV遺伝子組み合わせに対応する自己分子はほとんどわかっていない。その中で、なんと炎症に関わる IL-17受容体を新しいγδT細胞刺激自己分子として発見したのがこの研究で、7月16日 Science に掲載された。

 

タイトルは「Direct interaction of Vδ7 TCRs with IL17RA drives the differentiation of TH 1-like γδT cells(Vδ7TCRとIL17RAの直接相互作用がTH1様γδT細胞の分化を誘導する)」だ。

 

解説と考察

この研究では胸腺から樹立した細胞に反応する TCR を探索し、調べたほとんどの TCR を刺激する胸腺リンパ腫細胞を発見する。即ち、自己分子がいくつかのセットのγδTCRと反応する。次に反応している分子を特定するため、この細胞の遺伝子をクローニング、その中から TCR を刺激する分子を探索して、IL17RA分子を特定する。

 

次に、IL17RA分子をラベルして、これに結合する T細胞を集め、その TCR遺伝子を調べると、全て例外なく Vδ7 を発現しており、γの方は Vγ4 か Vγ1 である事がわかった。おもしろいのは、Vδも再構成部位には多くの変異が入っており、これが IL17RA との結合多様性に関わる点だ。おそらく、CD3領域の変異は分化後に導入されていると思うので、今後この変異の起こり方の理解が重要な課題になると思う。

 

ただこの研究では機能より、IL17RA と Vδ7 の結合に関わる部位、及びこのT細胞の発生に焦点を当てて研究している。構造的には CDR2 を挟む FR2、FR3 領域が直接 IL17RA に結合する。即ち、例えば HLA のような抗原を提示する分子は全く必要がなく、直接結合する。

 

多くのγδT細胞は腸管に分布するが、このタイプはほとんど脾臓やリンパ節に存在し、ほとんどが TH1 型の遺伝子発現を示す。そこで、γ4δ7TCR を持つトランスジェニックマウスを作成し、IL17RA抗原を発現するマウスと掛け合わせると、このタイプの T細胞が胸腺の CD4-CD8-細胞段階から発現し、ここで IL-17RA と反応して TH1 への分化のシグナルが入り、末梢へと移動することを明らかにしている。この過程は、IL-17RA のノックアウトされたマウスでは起こらず、またγ4δ7T細胞の増殖も起こらない。即ち胸腺のポジティブセレクションを IL17RA が誘導し、そのまま TH1細胞へと分化させている。

 

まとめと感想

結果は以上で、自然炎症に重要な IL-17RA がγδT細胞を誘導する自己分子として働いているという驚くべき結果だが、何故このようなγδT細胞系が存在するのか、あるいは人間にも存在するのか、そしてその機能は何か、等まだまだ謎は続く、

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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