ヤリマンボウで伝統玩具を再現! 「マンボウの眼球蛍籠」

2025.07.08

伝統玩具「マンボウの眼球蛍籠」とは・・・?

子供のおもちゃ(玩具)は時代と共に移ろうもの……昔ながらのおもちゃはいつしか遊ばれなくなり、歴史の彼方に忘れ去られることもある。しかし、誰かがそれを書物に書き残しておけば、未来の誰かが過去を振り返った時、それをまた見付け、再現される場合がある。今回はそんな話で、インターネット検索では全くヒットしない伝統玩具「マンボウの眼球蛍籠」を再現してみた話をしよう。

私は幅広く片っ端からマンボウ類に関する論文を収集し、読んでいる。特に昔の文献は現在とは大きく異なる情報が載っており、なかなか面白い。ある時、江戸時代の文献、原(1802)を共同研究者に翻訳してもらって読んでいた時に、興味深い一文が書かれているのを発見した。その一文を大まかなに現代語訳すると、「マンボウから眼を取り出して、内外をきれいに洗った眼の膜を乾燥させたものは、漁村の子供達が蛍を中に入れるおもちゃとしていた。それは大きさ5~6寸(15~18 cm)である」という。まさかマンボウの眼をホタル(種は不明)の入れ物にしていたとは驚きだ。気になって結構インターネット検索したものの、全くヒットしない(私が過去に記事で書いたもの以外)。この話は漁師からも聞いたことが無いし、文献を読むまで知らなかった。もしかしたらこれは現代では失われてしまった伝統的なおもちゃだった可能性がある。私はいつか再現してみたいと思っていた。

その後、文献収集を進めていた私は、再びこの「マンボウの眼球蛍籠」の知見と再会した。岸上(1910)の中に「眼球の螢籠」という項目がある。原(1802)から約100年後の明治時代の文献だが、岸上(1910)にはホタルの入ったマンボウの眼の蛍籠の実物写真も載っていた。実物写真があるとどういう風に作っていたのかがよく分かる。作り方も詳しく書かれていた。作り方は簡単だ。大きなマンボウから眼を摘出し、眼の中身(水晶体など)を出して綺麗に洗い、膜だけ残して乾燥させ、中にホタルを入れるだけ。私がこの知見を知った時はもうほとんどマンボウのサンプリングに行かなくなっていたので、いつかマンボウを得る機会があった時に作ってみようと心の片隅にしまっておいた。見逃している文献もあるとは思うが、「マンボウの眼球蛍籠」に関する知見が書かれている文献を、私は原(1802)と岸上(1910)以外に見付けられなかった。

 

「ヤリマンボウの眼球蛍籠」を作る機会が・・・!

岸上(1910)の文献発見から9年の時が流れ、2025年5月、海とくらしの史料館のマンボウ祭で、ヤリマンボウを解剖する機会に恵まれた! 久々の解剖なので、色々データを取ろうと思っていた矢先、ふと「マンボウの眼球蛍籠」のことを思い出したのである。マンボウで作れるならヤリマンボウでも作れるだろうと思い、解剖時にヤリマンボウ(全長94 cm)の眼を摘出。眼の中が見える角膜の方に穴を開けてそこから中身を全部出し、残った強膜をできるだけ球形の形を崩さないように中にティッシュを複数詰めてよく乾かした。これで「ヤリマンボウの眼球蛍籠」の完成だ! 

実は後から岸上(1910)を再確認すると、作り方を間違えていて、角膜の方は穴を開けずに残し、視神経が繋がっている眼の後部の方に穴を開けて中身を出すのが正しい眼球蛍籠の作り方だった! うっ、ミスった……また大きなマンボウ類を解剖する機会があった時に作ってみよう……。しかし、角膜の方が無くても蛍籠にはなっている。今回はこのままホタルを入れてみよう! そう考えた私は、X(旧Twitter)上で比較的私の家の近場でホタルが採集できるところがないか募集を掛けてみた。すると……幸運にもフォロワーさん(白南風さん)から連絡があり、私の家からそれほど遠くない場所でホタル採集を行うことになった!

 

いざ、ホタル採集へ!

2025年6月4日、奈良県の某所にて、連絡を受けた私は白南風さんと駅で合流し、ホタルがいる現場に向かう。ホタルは結構飛び回るイメージがあったので、虫取り網と虫籠を買ったのだったが……野生のホタルは葉っぱに止まっていて、全然逃げない。光っているから分かりやすいし、全然手で掴んで採集できるのだった。

早速ホタルを捕まえた現場で、「ヤリマンボウの眼球蛍籠」の中にホタル3個体を入れてみる……すると、黄緑色のホタルの光がドーム状の眼球蛍籠の中でぼやあと光った。ちょうどすりガラスに光を当てたような感じだ。

確かにキレイ! 子供が喜びそうだ。岸上(1910)の写真ではホタル7個体を「マンボウの眼球蛍籠」の中に入れていた。ホタルには申し訳ないが、たくさん眼球蛍籠の中に入れさせてもらうと、綺麗だろうなと思った。

さて、「ヤリマンボウの眼球蛍籠」の中に入れたホタル、昆虫には詳しくないので家に持って帰って調べてみたところ、サイズが15 mm前後、前胸背板に黒い十字形の紋がある赤斑を有していたことから、ゲンジボタルで良さそうだ。もし種を間違えていたら教えて下さると嬉しい。

家に帰ってから改めて「ヤリマンボウの眼球蛍籠」の中にゲンジボタルを入れて観察していると、オレンジ色の常夜灯の下で撮影した影響で、採集現場で撮影した光よりも緑色みが増していた(常夜灯を消したら見え方が黄緑色に戻った)。これはこれで綺麗だった。

昔の漁村の子供達もこういう風にして、「マンボウの眼球蛍籠」を作り、中にホタルを入れて鑑賞して楽しんでいたのだろう。今回はヤリマンボウであったが、伝統玩具「マンボウの眼球蛍籠」を再現することに成功した! また古い文献を読み漁る中で、マンボウの体から作られた道具や玩具などが見付かれば再現してみたいと思う。

余談になるが、家に持ち帰ったゲンジボタル2個体は別の場所で放流する訳にもいかず、標本にしようと思ってそのまま飼育してみた。1個体は4日後に死亡、もう1個体は14日後に死亡した。採集した時点で成虫になってから何日経っていたのかは分からないので、飼育できた期間の個体差が大きいのは何とも言えないが、本当に市販のミネラルウォーターだけで飼育できたことに驚いた。日中はほとんど動かないので水を飲んでいるのかさえも分からなかったが、夜になって暗くなると光を放ち動き始め、思っていたよりも強い光を放つなと思った。ホタルとマンボウが近場で入手できる人は、昔ながらの伝統玩具でホタルを鑑賞してみてもいいかもしれない。

 

江戸時代

 子供のおもちゃ

  蛍籠

   マンボウ目玉

    干して完成