地球の中心部「核」から地表へ物質が漏れ出ている事を証明!貴金属「ルテニウム」がカギ

2025.06.06

コア漏洩 サムネ

(画像引用元番号①②③)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、地球の中心にある「核」から漏れ出た物質が地表へと湧き出している証拠を見つけたというお話だよ!貴金属の「ルテニウム」を調べることで、ハワイ諸島の玄武岩には核に由来する物質が含まれているとする、これまでで最も確度の高い証拠を見つけたんだよね!

 

地下2900kmにある核から物質が漏れ出て、それが地表に噴出するというのは、非常に巨大なダイナミクス!なので前々からあるんじゃないかと言われていたものの、中々決定打となる証拠が見つからず、確定的な話となっていなかったんだよね。しかし今回見つかった証拠により、そのようなダイナミクスが実在することが示されたよ!

 

今回の研究は、貴金属などの重い金属がどこに来たのかを明らかにするだけでなく、地球が誕生してから現在までの、地球の大部分を含めた非常に大規模な物質循環を明らかにするという点で、非常に興味深い研究だよ。

 

地球の「核」から物質は漏れ出てくる?

核由来物質は地表にあるか?

地球の最も中心にある「核」は、直径約7000kmの鉄とニッケルの塊だけど、他の重い金属も含まれているよ。 じゃあ、これらの金属は核に眠ったままなのか?それとも地表に運ばれることはあるのか?というのは長年の謎だったんだよね。

 

地球の内部構造はおおよそ卵に喩えることができるよ。外側には殻に相当する硬い岩石の「地殻」、その下には白身に相当する、やはり硬い岩石だけどすごくゆっくりと流動している「マントル」、そして中心部には黄身に相当する、外側は液体、内側は固体の金属でできた「」があるよね。

 

この多層構造は、今から約46億年前に、地球が誕生した時の状況と関係があるよ。誕生した直後の地球はほぼ全体が融けていて、その後徐々に冷え固まっていくわけだけど、この過程で重い元素ほど中心部に落ちていき、相対的に軽い元素は上に浮上する「分化」と呼ばれるプロセスが起こったんだよね。

 

分化のプロセスはある程度複雑だけど、すごく大雑把に言えば、ガス・岩石・金属はどれが一番重いのか (密度が高いのか) を考えれば、地球の中心部に重い金属が沈んで、金属主体の核ができるのは何となく理解できるよね。このようにして地球は、鉄とニッケルを主体とする、直径約7000kmの金属の核を持つに至ったよ。

 

もちろん、身近に様々な金属があるように、核には鉄とニッケル以外の金属も大量に含まれていると考えられているよ。割合としてはかなり小さいものの、あれだけ巨大な塊なので量としては膨大となり、例えば金やその他の貴金属の99.999%は核の中に閉じ込められていると考えられているんだよね。

 

そうなってくると気になるのは、地表にある貴金属や重金属などの重い金属は、どうして地表にあるかだよね?もちろん分化のプロセスは完全ではないから、最初から沈み込まなかった重い金属もあるにはあるだろうけど、それだけでは地表の重い金属の推定埋蔵量をすべて説明することはできないと考えられているんだよね。

 

同位体で核由来物質を見つけられるか?

核に重い金属が沈み込むのと同じように、わずかに重い同位体は核に沈み込みやすいから、逆に地表で重い同位体が多い物質を見つければ、それは核に由来する物質かもしれない、となるよね?しかし、その差は極めてわずかであり、これまで核に由来する物質であると確実に言える証拠とはなってなかったよ。 (画像引用元番号②③④)

 

この不足分を補うプロセスとしては主に2つ考えられているよ。1つは、地球がしっかり固まった後に落下した小惑星に由来するという分かりやすいもの。もう1つは結構ダイナミックで、核に含まれる物質の一部がマントルプルームと共に地表に湧き出てくるという漏洩プロセスだよ!

 

地球の内部、特にマントルは地殻と核を直接つなぐ物質循環をしているので、外核の表面から下部マントル・上部マントルを通じて地表に漏れ出る核由来物質があるんじゃないか、という説があるんだよね。この説の証拠としてよく言及されるのがハワイ諸島などに見られる「海洋島玄武岩 (OIB; Ocean Island Basalt)」になるよ。

 

海洋島玄武岩は、マントルプルームが地表に接し、島や海山ができるホットスポット周辺に見られるよ。そして海洋島玄武岩に含まれる物質を調べてみると、他の場所で採集された岩石と比べて、同じ元素の中でもより重い原子 (同位体) を多く含む傾向にある、という風に主張されているんだよね。

 

同位体と言うとピンとこない人もいるかもだけど、割と単純な話だよ。同じ化学的性質を示す原子を分類したのが元素という概念だけど、その中でも軽い原子や重い原子という違いがあって、これを同位体と呼ぶんだよね。そして重い原子は、軽い原子と比べると、より強く重力に引っ張られて沈み込みやすい、と考えればOKよ。

 

なので、他の地域の岩石と比べて、海洋島玄武岩の重い同位体の割合が高いということは、それだけ深い場所から運ばれた物質を元にしているだろう、と考えられるわけ。他の研究結果からは、核からの物質漏洩を示唆する分析結果もあったことから、これは十分に考えられる供給ルートとなる訳だね!

 

ただ、この説は長年唱えられていたものの、決定打に欠けた状況が長年続いていたよ。まず、重い同位体の割合が高いと言っても、その差はとてもわずかだったんだよね。あまりにもわずか過ぎるので、分析値そのものが妥当かという、根本的な部分にすら疑問符が付いた感じだよ。

 

また、仮に分析値が正しいとしても、それだけで核に由来するとは言い切れないよ。同位体の割合を変えるのは地表の化学反応でも起こりうるし、地下から運ばれた物質だと言っても、核よりはずっと浅いマントルに由来する物質である可能性もあるわけだからね。

 

地下2900kmにある核の表面から地表へと物質が漏れ出しているという非常に巨大なダイナミクスは、確かに興味深いけど、だからこそそんな巨大な物質の流れが起きているのかを疑うのも、ある意味では健全な科学なんだよね。核から金属が漏れ出ているのかどうかについては、もう少し強い証拠が欲しい!というところだったんだよね。

 

貴金属「ルテニウム」の同位体で長年の謎を証明!

ルテニウム同位体比率を分析

今回の研究で注目されたのは貴金属の「ルテニウム」で、単に重い金属なだけじゃなく、鉄と化学的性質が似ていることから、鉄が主成分である核に沈み込みやすい物質だから、という性質を利用しているよ。 (画像引用元番号①)

 

ゲッチンゲン大学のNils Messlingニルス・メッスリング氏などの研究チームは、この長年の疑問の決定打となる研究を行ったよ。Messling氏らは世界中のいくつかの岩石を分析し、その中で貴金属の「ルテニウム (Ru)」の重い同位体である「100Ru (ルテニウム100)」の割合を、非常に高い精度で分析したよ。

 

ルテニウムは白金族元素に分類される貴金属の1種だけど、主な用途は超微細な電子部品の接続部、有機化学における触媒 (反応を促進する物質) 、超合金への添加など、貴金属としては目立たないながらもかなり身近な領域にも用途があるんだよね!

 

ルテニウムが選ばれたのは、岩石中には極度に少ない一方で、金属でできた核には高濃度で含まれているのが予測されているからだよ。これは単にルテニウムが重い金属だからという点のみならず、核の主成分である鉄やニッケルと化学的性質が似ているので、分化の際に同じように動くことが期待されているからなんだよね。

 

ハワイ諸島の玄武岩に見られるルテニウム100の異常

分析の結果、ハワイ諸島の玄武岩に、重いルテニウム同位体の過剰が見つかったよ。他の角度からの分析により、これは核に由来する物質が混ざっている以外の理由で説明することが難しいことが分かったよ! (画像引用元番号⑤)

 

分析の結果、ハワイ諸島で採集された玄武岩は平均して9±3ppm (0.0009%) 、最大で17±13ppm (0.0017%) と、ごくわずかながらも無視できない量で、上部マントルと比べて100Ruを過剰に含んでいることが分かったんだよね!この値は、ハワイ諸島の岩石には核に由来する物質が含まれているかもしれないことを示唆しているよ。

 

そこでもう一押しとして、過去の研究で示されていた、重い金属である「タングステン (W)」の重い同位体である「182W (タングステン182)」の割合や、隕石に含まれる2種類の元素の同位体 (96Zr (ジルコニウム96) および94Mo (モリブデン94) ) との相対的比率を参照し、岩石に含まれる核由来物質の痕跡を調べたよ。

 

タングステンもかなり重い金属であり、過去の研究でも核に由来する物質の証拠としてしばしば参照されてきたよ。しかしタングステンの場合、ルテニウムと比べると岩石と金属との挙動の違いが小さい上に、核に由来するというプロセスなしでも同位体の比率を説明可能な代替論が提案されていることから、イマイチ弱かったんだよね。

 

なので、ルテニウムとタングステンの両方で重い同位体の過剰を示すことで、お互いの証拠を強化することができるわけ。また隕石に含まれる同位体を調べたのは、宇宙から降ってくる金属成分の多い天体による物質の追加が影響していないかを推定するためだよ。

 

これらの分析結果も合わせると、ハワイ諸島で見つかった重い同位体の過剰は、地球の核に由来する物質を含んでいること以外で説明が難しいことが分かったよ。今回の研究から推定すると、ハワイ諸島の玄武岩には、マントルに由来する物質に対して、核に由来する酸化物に富む物質が0.3%の割合で含まれていることが推定されたよ!

 

重い金属の起源や地球のダイナミクスの理解に関わる研究

今回の分析結果は、地球の奥深くにある核から、物質が地表まで運ばれているという、これまでになく確度の強い証拠を挙げたことになるよ。核は地表とは孤立しているだろうという予想も一部にあったことを考えれば、これは非常に大きなインパクトを持つ結果になるんだよね!

 

核に沈み込んでいる重い金属は、産業的に重要な貴金属やその他の希少金属を含んでいるわけだけど、これの起源にも影響を与えるという点で、間接的に私たちの文明社会にも関わりがあるんだよね。その点では、地球の進化やダイナミクスを含めた、地球全体の見方を変える研究とも言えるよ!

 

なお今回の研究では、ハワイ諸島と似たようなホットスポットの島であるレユニオン島やガラパゴス諸島の玄武岩では、特に100Ruの過剰は見られなかったんだよね。これはハワイ諸島と比べて核に由来する物質が少ないのか、それとも根本的にダイナミクスが異なるのかについては、これからの研究次第となってくるよ。

 

また、グリーンランドのような非常に古い岩石には、ハワイ諸島と比べても高い濃度の100Ruが見られるけど、分化や天体衝突によって重い金属が薄められる前の状況が保存されているみたいなんだよね。こういった切り口から、地球の分化や物質供給に関する研究が進められるかもしれないよ。

 

地域による細かい違いを調べることは、地表に含まれる重い金属のうち、どれくらいが核から漏洩したものに由来するのか、それ以外の由来はどれくらいなのか、を知る上でとても重要になってくるよ。

文献情報

<原著論文>

  • Nils Messling, et al.“Ru and W isotope systematics in ocean island basalts reveals core leakage”. Nature, 2025. DOI: 10.1038/s41586-025-09003-0

     

    <参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. ルテニウムの金属結晶: WikiMedia Commonsより (Author: Periodictableru)
      2. 天秤のイラスト: いらすとやより
      3. 原子核: DAVYより (Author: 降中セイミ)
      4. ハワイ島、キラウェア火山、プウ・オオ火口の1983年の噴火: WikiMedia Commonsより (Author: G.E. Ulrich (USGS) )
      5. 今回の分析で示されたε100Ru値: 原著論文Fig.1より

         

        彩恵 りり(さいえ りり)

        「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
        本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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