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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、エドモントサウルスの化石の中のコラーゲンの発見についてだよ。これは、数千万年前の化石に元々の有機物が残されているといういくつかの主張の中で、最も確度が高いと思われるものだよ!
今回は分析の確かさに加えて、今まで個別には行われていたものの、組み合わせたことのない同士の手法を取り入れた点も斬新だよ。今回の研究結果を踏まえれば、過去1世紀分の研究データに同じような成果が眠ってるかもしれないので、とても夢のあるお話となるよ!
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地球はその歴史上、様々な生物が出現と繁栄、そして絶滅を繰り返してきたよ。生物は有機物の塊なので、死後速やかに分解されて跡形もなくなるけど、様々な条件で運よく完全な分解を免れると、その死骸の一部が地層に残される……。こうしてできるのが現代で「化石」と呼ばれるものだよ。
“石と化す”と書く通り、原則として化石は無機物の塊だよね[注1]。生物は有機物の塊であり、酵素や微生物による分解を受けるだけでなく、地層に埋没した後の圧力や熱でも分解するので、それらに弱い有機物は、基本的には化石として残らない情報となるよ。
骨や貝殻のような無機物が主体の硬組織でさえ、元々持っていた成分を保持することなく、地層に含まれる無機物に置換されてしまうよ。ましてや羽や内臓などの軟組織の場合、ごくまれにその形状を残している化石が見つかることはあっても、成分は全く別物に置き換わってしまうので、組成の情報は失われているよ。
というわけで、数千万年前の化石を調べても、そこに有機物の情報はない……というのがある意味で常識だったわけだけど、ところが全部がそうでもないらしいことが示唆されてきたんだよね。古い主張では1966年にさかのぼるけど、分析技術が進歩した2000年代後半からはそのような主張をする研究が徐々に増えてきたよ。
特に、細胞同士をつなぎとめるタンパク質の1つである「コラーゲン」は、比較的丈夫な有機物であり、骨の中にも大量に含まれていることから、残りやすいのではないかと考えられてきたよ。そして分析技術の進歩により、化石にごくわずかに含まれるコラーゲンと思われる物質を見つける事ができるようになってきたんだよね。
その結果、哺乳類が台頭した新生代の化石だけでなく、恐竜が台頭していた中生代の化石でもコラーゲンが見つかった、とする主張が出てきたんだよね。多くは数千万年の時間スケールだけど、中には1億9500万年前の化石からも見つかった、とする主張もあるくらいだから驚きだよね!
コラーゲンは豊富なタンパク質というだけでなく、アミノ酸の配列が様々な時代や種類の生物において共通していること、コラーゲン以外では珍しいヒドロキシプロリンというアミノ酸が含まれていること、細菌などの微生物が合成できないことから、微量でも特定しやすく、汚染か否かを判断しやすいのがあるんだよね。
ただし、このような発見の主張には異議もあるんだよね。やっぱ、数千万年も古い試料に有機物が残っているというのは違和感があるのも当然だし、何よりコラーゲンは多細胞生物の細胞にたくさん含まれているので、分析中に現代のコラーゲンによって汚染されただけなのでは?という疑問が挟まれるのも当然と言えるんだよ。
リバプール大学のLucien Tuinstra氏などの研究チームは、このように論争のある化石中の有機物に関して、新たな発見をしたよ!今回分析したのは、アメリカのサウスダコタ州にある白亜紀末期の地層「ヘルクリーク累層」の中から見つかった「エドモントサウルス」の仲間 (Edmontosaurus sp.) の仙骨[注2]化石 (UOL GEO.1) だよ。
Tuinstra氏らは、この約20kgの化石の保存状態がかなり良いので、もしかすると骨内部のコラーゲンが残っているかもしれないと考え、比較用の七面鳥の骨、およびウシの腱由来のコラーゲンと共に分析を行い、過去に恐竜化石から見つかったとするコラーゲンとの比較を行ったよ。
まず断面を監察すると、骨の内部にあるスポンジ状の組織 (海綿骨) が肉眼で見えるほど保存状態が良かったよ。その部分の化学成分を簡易的に分析すると、骨を構成する無機物の中に、もしかするとコラーゲンかもしれない有機物の存在を示唆するデータが出てきたよ!
偏光顕微鏡という装置を使ってさらに詳しく調べてみると、骨を構成するハイドロキシアパタイトの微細な結晶が、コラーゲンと絡み合うことで作られる組織であることを示すような像が見つかったよ。しかもこれは、高温で人工的に劣化させた七面鳥の骨に含まれるコラーゲン組織と似たような形状をしていたんだよね。
エドモントサウルスの骨に見つかった組織が、人工的に劣化させた七面鳥の骨と似ているということは、化石化の過程で生じた劣化によって生じた組織であるということで、ここに含まれる有機物が、外部からの汚染ではないことを示唆する結果となるんだよね。
決定的な証拠としては、実際に有機物の組成をより詳しく分析した結果があるよ。コラーゲンが含まれているならば特定のアミノ酸配列を含んでいるはずだよね。分析の結果、エドモントサウルスの骨の中に、コラーゲン以外では珍しいヒドロキシプロリンが含まれる、コラーゲンと一致したアミノ酸配列が見つかったんだよね!
現れたアミノ酸配列は、最も似ているのは現生のニワトリなんだけど、次に似ているのは1万1000年前に絶滅したアメリカマストドンということで、ニワトリはともかくマストドンの汚染というのは考え難いよね?コラーゲンは多くの生物で共通している以上、単に現生動物と似ていることが汚染を示す証拠とはならないことを示唆するよ。
また、今回のエドモントサウルスの骨の分析の前にはショウジョウバエのコラーゲンの分析を行ったけど、今回の分析ではショウジョウバエのコラーゲンの存在を示唆するデータは出てこなかったよ。このことは、少なくとも前の分析で使用した物質が分析機器に残っている、という可能性は低そうだということなんだよね。
そして、今回見つかったエドモントサウルスの骨に含まれるコラーゲンは、一部の配列が欠けている、つまり一部が劣化して分解しているという特徴があるよ。現代のコラーゲンならば、これほど劣化していることはまずないという点からも、今回見つかったコラーゲンはエドモントサウルスのものである可能性を示しているんだよね。
そして、今回見つかったコラーゲンのアミノ酸配列は、エドモントサウルスと同じハドロサウルス科に属するブラキロフォサウルス・カナデンシス (Brachylophosaurus canadensis) の化石で見つかったタンパク質や、さらに遠いティラノサウルス・レックス (Tyrannosaurus rex) の化石で見つかったタンパク質とも似ていたんだよね。
そしてごく一部の配列は、どうやら恐竜に固有のものらしく、現生の生物では見つかっていないものもあったよ。このことから、今回のエドモントサウルスのものを含め、恐竜化石には実際に恐竜に由来する有機物が残されているらしい、という確度の高い証拠が出揃った感じだよ!
今回の研究ではいくつかの観点から、化石で見つかったコラーゲンが現代の汚染ではなく、実際にエドモントサウルスに由来する可能性が高いことを証明しているよ。そして過去の研究との類似性から、他の化石で見つかった有機物の主張も正しいかもしれないということを示している点で、今回の研究の影響は大きいよ。
そして今回の研究では、有機物の化学分析と同時に、偏光顕微鏡で観察した結果を合わせている点が独特だよ。Tuinstra氏らが知る限り、両者を組み合わせた研究は過去にないんだよね。もちろん、偏光顕微鏡で化石を観察すること自体は1世紀近くやってきたものの、観察結果からタンパク質を見つけるという発想がなかったんだよね。
相手が化石である以上、多かれ少なかれ変質していることを考えれば、偏光顕微鏡で観察した結果がどのくらい変質の影響を受けているのかを予測するのは難しいからね。しかし今回、化石のコラーゲン+骨組織の光学的性質という新しいデータが得られたことにより、偏光顕微鏡が化石中のタンパク質探しに使えそうだと分かったわけ!
そうなってくると、過去の化石の研究においても偏光顕微鏡の写真があるわけだから、見逃されている化石中のタンパク質が見つかるかもしれないという可能性があるわけ。実に1世紀に渡る研究データの蓄積から、「化石に有機物はない」という常識を打破するための起爆剤となるかもしれないよ。
そして数多くの恐竜や、他の時代の生物化石からタンパク質が見つかれば、その配列を直接読むことで、生物の中でのタンパク質の進化や機能について、これまで推測にとどまっていた部分に直接的な証拠を提示できるかもしれない、という結果が楽しみな状況が生まれるかもしれないよ。
Tuinstra氏らによる今回の研究は、化石に恐竜由来の有機物が含まれているという、これまでで最も確かな証拠を提示すると共に、過去1世紀の研究データにも同じ化石中の有機物の証拠が眠っているかもしれないことを示唆する点で、とても夢のある研究結果だと言えると思うよ!
[注1] 原則として化石は無機物の塊
永久凍土でミイラ化した古生物も化石の一例ですが、これらは年代が新しい部類であるため、これは例外です。 本文に戻る
[注2] 仙骨
骨盤の後方上部に、脊椎の下部に位置する骨。ヒトの場合、脊髄を内包し、脊椎を支持する役割を持つ。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)