体内で特定のタンパク質濃度を持続的に測る(12月6日号 Science 掲載論文)

2025.01.09

小さな分子を体内に設置したセンサーで持続的に測ることは可能になっている。最も普及しているのはブドウ糖を図るセンサーで、2万円以下で市販されている。測定にはグルコースオキシゲナーゼ酵素がセンサーとして使われ、発生する過酸化水素が電極で酸化されるときの電流を測定している。このとき、ブドウ糖はグルコン酸と過酸化水素に変化し、センサーから離れるので、何度もセンサーとして使える。

 

では同じ原理をタンパク質に適用して、体内の特定のタンパク質濃度が測れるか研究が続いているが簡単ではない。というのもタンパク質に結合できるセンサーを設計しても、タンパク質が結合すると簡単には離れないため、センサーが使えなくなってしまう。ブドウ糖のように都合良く反応すると他の分子に変化させることが難しい。

 

本日紹介する論文

今日紹介するイリノイ州 North Western 大学からの論文は、微小電気刺激でセンサーを動かすことで結合するタンパク質の解離を促進するという難しい問題を解決した研究で、12月9日号 Science に掲載された。

 

タイトルは「Active-reset protein sensors enable continuous in vivo monitoring of inflammation(能動的にリセットするタンパクセンサーは体内で持続的に炎症のモニターを可能にする)」だ。

 

解説と考察

センサーのアイデアだが、電極から DNA ストランドを伸ばし、もう片方に特異的にタンパク質に結合するセンサー(ここでは RNA で形成させたアプタマーと呼ばれる分子を使っているが抗体でも良いらしい)と電極と反応するフェロセンを結合させ、500mV の電流で DNA を電極に近づけて電極でフェロセンの電子を感知させるとき、センサーにタンパク質が結合すると、この反応が遅れることを利用して、タンパク質の結合を検出している。

 

ただ、この方法ではいったん結合したタンパク質が離れないのでセンサーが使えなくなってしまう。そこで、電場をかけてセンサーを振動させることでメカニカルにタンパク質を解離させることを着想し、95Hz の電場で完全にふるい落とせることを発見する。

 

これを元に、センサーを開発し、最終的に IL-6 と TNFα の自然炎症で分泌されるサイトカインを皮膚に差し込んだ針型のセンサーで検出できるか試みている。詳細は省くが、糖尿病ラットの皮膚に設置して2つのサイトカインをモニターすると、ファスティングを続けると両者とも皮膚で濃度が低下すること、そこにインシュリンを加えると一時的に上昇した後低下を続けること、そして LPS 刺激で炎症を誘導すると上昇に転じることなどを示している。

 

そして、この傾向が ELISA 法で計った血中サイトカインとほぼ一致していることを確認して、このセンサーを今後様々なタンパク質モニタリングに利用できることを明らかにしている。

 

最後に、センサーを設置したことにより体内の異常が誘導されないかも調べており、半日ぐらいであればセンサーを設置したまま生活しても問題ないことを示している。

 

まとめと感想

以上が結果で、素人にもわかりやすいアイデアで感心する。もちろん実際のセンサーに仕上げる工学は私の想像を遙かに超える素晴らしい技術で、工学と医学の融合を絵に描いた論文だと思う

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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