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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneアヤネさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第12回のテーマは「マイコプラズマ」です。
こんにちは!
ラボりだな日々、第12回のテーマは「マイコプラズマ」です。
最近、マイコプラズマ…流行ってますよね?
あ、ヒトにですよ?ヒト!熱!咳!としんどい感染症です。そして、マイコプラズマに感染するのはヒトだけではありません…培養細胞にも感染します(種類については後述)。そして、それが研究においては想像以上に大変な事態を引き起こす可能性があるのです…
今回は、この漫画で出てくるマイコプラズマとは何か、細胞培養にどのような影響を及ぼすのか、そしてその汚染を防ぐための方法についてお話をしたいと思います。
マイコプラズマは、細菌の一種ですが、非常に特殊な特徴をもっています。まず、他の細菌と違って細胞壁を持たず、そのためペニシリンなど細胞壁を標的とした抗生物質が効きません。また、非常に小型(直径0.2~0.3マイクロメートル)で、光学顕微鏡では確認することが困難なため、気づかないうちに培養細胞を汚染してしまうことがあります。
培養細胞に汚染を引き起こすマイコプラズマにはいくつかの種類がありますが、主に6種のマイコプラズマ(Mycoplasma orale, Mycoplasma arginii, Mycoplasma fermentans, Mycoplasma salivarum, Mycoplasma hyorhinis, Acholaeplasma laidlawii )によるものであるとされています。
Mycoplasma orale や Mycoplasma fermentansは、ヒト由来の培養細胞でよく見られる汚染原因です。
マイコプラズマに汚染された細胞は、増殖が遅くなったり、代謝や遺伝子発現が変化したりすることがあります。これにより、細胞を用いた実験結果が不正確になり、再現性が損なわれるなど、研究に重大な影響を及ぼします。
研究室における培養細胞のマイコプラズマ汚染にはさまざまな原因がありますが、その中にはヒト由来の汚染も含まれます。特に、唾液や呼吸器分泌物中に存在する Mycoplasma orale のような種は、無菌操作が不適切な場合、培養作業従事者の咳やくしゃみ、おしゃべりから発生したエアロゾルにより細胞を直接汚染したり、実験用試薬や器具を介して細胞を汚染したりする可能性があります。
マイコプラズマ肺炎を引き起こす Mycoplasma pneumoniae など、ヒトに感染するマイコプラズマも唾液や飛沫で広がることがわかっていますが、これらが直接培養細胞を汚染する可能性は低いと考えられており、細胞培養系に影響を与えるのはやはり前述した口腔内に常在する Mycoplasma oraleなどの種であるようです。
漫画の中のAyaneたちは学生さんが感染しているであろうMycoplasma pneumoniaeの培養細胞への感染よりも、症状の1つである強い咳によって発生するエアロゾルからのMycoplasma oraleの感染を心配していたのかもしれませんね。
マイコプラズマ汚染を防ぐためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
●無菌操作の徹底
クリーンベンチ内で作業する際には、手袋の使用、器具や培地の滅菌などを徹底します。また、作業中は必ずマスクを着用し、呼吸器由来のエアロゾルが培養液に侵入しないようにします。
●定期的な検査
マイコプラズマ検査を定期的に行い、汚染の有無を確認します。
●新規細胞株や試薬の検査
新しく導入する細胞株や試薬が汚染されていないことを確認するために、購入時の検査を徹底します。
マイコプラズマは、目に見えない脅威でありながら、細胞培養やそれを基盤とする研究に大きな影響を与える存在です。Ayaneたちが学生さんを心配しながらも、細胞の方も心配していた理由がよくわかりますね。
「細胞ファースト」的な概念、あなたのお仕事にもありませんか?
(参考文献)
1.Drexler H.G., Uphof C.C. Mycoplasma contamination of cell cultures: Incidence, sources, effects, detection, elimination, prevention. Cytotechnology 39: 75~90 (2002) .
2.Nikfarjam, L. and Farzaneh, P., "Prevention and detection of Mycoplasma contamination in cell culture", Cell J., 13(4), 203~212 (2011).