妊娠中の造血は JUNK DNA を起こして味方につける(11月8日 Science 掲載論文)

2024.11.21

我々のゲノムの半分以上はトランスポゾンやレトロウイルスなどの役に立たないだろうという意味で、 JUNK という汚名を着せられた DNA でできている。ただ、これまで何回も紹介したように、トランスポゾンは様々な状況で役に立っている。最近紹介した例を挙げると、1)受精後の卵割期に LINE-1 トランスポゾンはクロマチンのアクセスをコントロールしており、この転写がないと発生が止まる(https://aasj.jp/news/watch/7308)、2)やはり初期発生でLINEはリボゾームRNAの転写を高めている(https://aasj.jp/news/watch/8669)、などだが、一方でトランスポゾンが転写されると自然炎症が誘導される(https://aasj.jp/news/watch/18549)ことから、リスクも伴う。

 

本日紹介する論文

今日紹介するテキサス大学からの論文は、トランスポゾンが活性化されて誘導される炎症リスクまで味方につけるケースがあることを示した研究で、11月8日号の Science に掲載された。

 

タイトルは「Retrotransposons are co-opted to activate hematopoietic stem cells and erythropoiesis(レトロトランスポゾンは造血幹細胞を活性化し赤血球を増やすのに利用されている)」だ。

 

解説と考察

Irv. Weissman 研の大学院生だった Sean Morrison が責任著者で、研究の流儀も Sean らしい感じがする論文だ。研究では造血でトランスポゾンが活性化される状況を調べ、なんと妊娠中の、しかも脾臓にある造血幹細胞で内因性のレトロウイルスや LINE トランスポゾンの発現が上昇することを発見する。一方、妊娠期以外の正常造血では発現は全く観察されない。

 

次に、妊娠中に上昇するエストロゲンをマウスに注射すると、造血幹細胞の増殖が上がり、それに伴いレトランスポゾンの転写が上昇する。従って、エストロジェン上昇による影響がトランスポゾン転写の重要な原因になっていることがわかる。

 

次に、なぜレトロトランスポゾンの転写が上がるのかをクロマチンの状態を調べる ATAC-seq で調べると、妊娠やエストロゲン処理でトランスポゾン領域のクロマチンがオープンになっている。

 

妊娠中やエストロゲン処理により造血幹細胞の増殖は高まるが、トランスポゾンの活性化が造血と関わるかを調べている。面白いのは、妊娠中の脾臓造血が、レトロウイルス治療に使われる逆転写酵素阻害剤で低下することだ。すなわち、トランスポゾンの転写自体ではなく、活性化されたレトロトランスポゾンが逆転写されることが、造血を助けていることになる。

 

当然考えられるのが逆転写されたDNA断片を感知して起こる炎症の関与で、DNAウイルスを感知する STING、cGAS それぞれをノックアウトして妊娠中の造血を調べると、脾臓での造血が低下する。この経路は、そのまま1型インターフェロンの産生へつながるが、実際 STING 欠損では脾臓造血でのインターフェロン産生が低下し、またインターフェロンαノックアウトマウスでは、妊娠中の脾臓造血が抑制される。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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