コリネバクテリウムの分裂様式(9月3日 米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2024.09.16

医学を学んでいても、感染症になると症状や治療のことばかりが頭にあって、バクテリア本体についてはほとんど知らないことが多い。その意味でコロナパンデミックの2年間はウイルス自体について本当によく勉強できたと思う。ただ、これは例外的ケースで、たまに細菌を直接調べた論文を読むと、驚かされることが多い。

 

本日紹介する論文

今日紹介するオランダライデン大学とハーバード大学からの論文は、口内の常在菌で歯周プラーク内に存在する Corynebacterium matruchotii (C.m) の分裂の不思議な様式を示した研究で、9月3日米国アカデミー紀要に掲載された。

 

タイトルは「Tip extension and simultaneous multiple fission in a filamentous bacterium(糸状細菌で見られる先端の伸長と同時に複数の箇所で起こる分裂)」だ。

 

解説と考察

細菌なのに菌糸を伸ばし、胞子まで作ることで知られるのは、多くの抗生物質が分離されている放線菌がいることは知っていても、細菌というと大腸菌と同じように真ん中で等分されるイメージが強すぎる。

 

C.m は健康な口内細菌叢の指標として使われたりするが、歯周プラークを見ると重要な構成成分になっており、バイオフィルム形成に重要な役割があるのではと推察されていた。この研究では、C,m の分裂をビデオ撮影することで、通常の分裂をする代わりに、まず菌体が一方向に伸び、その中に境で隔てられた娘細胞が形成され、7時間ぐらいすると菌糸が隔壁部位で同時に分断して、それぞれの娘細胞に分かれることを発見する。

 

この発見がこの研究のハイライトで、プラーク内の細菌として研究されてきたはずなのに、こんなことがわかっていなかったのかと驚く。いくつの娘細胞が一つの菌糸の中に形成されるのか、等分裂はできないのかなど、詳しく分裂様式を調べると極めて多様な分裂形式をとることがわかる。

 

細胞壁の合成に関わる様々な分子を染める方法を用いてこの不思議な様態を解析すると、菌体伸長に必須のペプチドグリカンが菌体の片方だけに局在し、この合成の局在が菌体の伸長方向を決めていることがわかる。

 

そして、菌体が伸長したあとプロテオグリカン合成は娘細胞を分けるための隔壁部位に局在し、隔壁を作ると急に機械的なストレスで、くの字型に折れ曲がるように多くの娘細胞が分かれてくることを示している。バクテリアのゲノムはこの間、均一に分配されているように見えるが、分配できていない娘細胞も存在することがわかる。

 

最後に、試験管内実験系で他の細菌とともにプラークを形成させると、C.m が主役として、プラークの核を形成し、それぞれの細菌が別々の場所に分布することを示し、この細菌が重要であることを示している。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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