ウェアラブルモニターによる睡眠計測が教える病気のリスク(7月19日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2024.08.04

 

これまで無数のアップルウォッチのようなウエアラブルの身体の活動記録を使った研究が報告されているが、こららの研究が示すのは心拍数や活動記録のような簡単な計測でも、毎日記録されると身体の変調を教えてくれる点で、最も典型的な例が心拍数と体温の変化だけからCovid-19感染を確定診断の3日前に予見できるという2021年 Nature Medicine に紹介された論文だろう。

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本日紹介する論文

今日紹介するバンダービルド大学を中心とする米国の多施設研究は、電子カルテによる病気の情報と、様々な生活や行動記録情報をリンクさせる前向きコホート研究 All of Us に参加し、グーグルウォッチを用いた睡眠記録毎晩調べた6477人のデータを元に、睡眠の質と電子カルテ上の病気との相関を調べた、おそらく睡眠記録としては最も大規模な研究で、7月19日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

 

解説と考察

FitBit と呼ばれるアプリを使うと、心拍数の変化や身体の動きから、睡眠時と覚醒時が区別され、さらにREM睡眠、深い睡眠、浅い睡眠の3種類の睡眠タイプが区別され、しかも毎日の平均が数年にわたって記録され、統計結果が得られる。全員の平均をとると、睡眠のうちREMは20%、浅い睡眠は60%、深い睡眠は15%になり、深い睡眠はかなり短い。

 

次に、電子カルテと照合して、睡眠の長さや質と、病気との相関を見ると、

  1. 睡眠の長さとはっきり関わるのは肥満と睡眠時無呼吸症候群で、あとは意外と相関が強くない。
  2. REM睡眠は心房性不整脈(心房性細動など)と高い相関を示す。
  3. 浅い睡眠はやはり心房性不整脈と相関する。
  4. 深い睡眠との相関を調べると、様々な病気と低いレベルで相関を示し、なかでもうつ病や不安神経症の相関は強い。
  5. 同じように不規則な睡眠パターンは、うつ病や不安神経症とともに、高血圧との相関が見られる。また、弱い相関だが、数多くの病気と相関が認められる。
  6. 不規則な睡眠パターンと強い相関を示すうつ病、不安神経症、そして高血圧と、睡眠時間をプロットすると、平均6時間半を底にしてリスクが上昇することから、睡眠は長すぎても短すぎても健康問題を引き起こすというこれまでの結果が確認される。

 

まとめと感想

以上が結果で、内容はこれまで言われてきたことと特に変わりはない。従って、この研究の重要な点は、睡眠の質のような難しい問題をウエアラブルで調べることができ、そのデータから新しい病気を予知する可能性があることを示した点だろうl

 

ただこの論文の最大の問題は、すでに診断された病気との相関から病気が予知できる可能性が示されているだけで、実際に余地可能性を調べたわけではない。まず、他のポピュレーションでこの検証が必要になるだろう。その際ウェアラブルは充電が必要なので通常は睡眠中は外す。とすると、睡眠用だけのデバイスを安く提供した方が現実的ではないだろうか。ウェアラブルのおかげで毎日の記録が如何に役立つかが実感できるが、睡眠についてどこまで普及するか、是非見守っていきたい。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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