期待の抗RAS薬剤に対する耐性の発生メカニズム(8月11日 Nature Medicine 掲載論文)

2026.08.28

 

ステージ4の膵臓ガンの生存期間を大幅に延長したダクソンラシブが大きな期待を集めている。これを開発した Revolution Medicines の株価は2026年に入って4倍近くに上がっており、投資家の期待も集めている。Ras 変異が半数近いガンのドライバーになっていることを考えると当然だろう。しかし期待の薬は失望の薬でもある。

 

すなわちガンが耐性を獲得して薬剤が効かなくなる。そこで先回りして耐性のメカニズムを探り、対策が行われる。期待の薬ほど耐性研究が行われる。ダラクソンラシブの論文が出たのが5月のことだが、6月には耐性研究がスローンケッタリング ガン研究所から Cell に発表されこのブログでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/29051)。肺ガン、大腸ガン、メラノーマ患者さんの再発例のガン組織を採取してゲノムを調べた研究で、RAF などの下流経路の新たな変異が耐性の原因になることを示していた。

 

本日紹介する論文

これに対し、今日紹介する薬剤開発者 Revolution Medicine からの論文は、膵臓ガンでの耐性獲得はかなり異なる様相を示していること、また末梢血に流れる circulating DNA の解析から耐性メカニズムを診断することで、耐性を克服できる可能性を示した研究で、8月11日 Nature Medicine に掲載された。

 

タイトルは「Acquired resistance to the RAS (ON) multi-selective inhibitor daraxonrasib guides rational combination therapy strategies in pancreatic cancer(膵臓がんでのOn型の Ras 変異に対する薬剤ダラクソンラシブに対する耐性獲得)」だ。

 

解説と考察

研究では、様々なドーズのダラクソンラシブを投与され、ガンの増殖が一度は抑えられた膵臓ガン患者さんの末梢血に流れる DNA (ctDNA) の配列をモニターし、再発時に起こる変化を調べている。薬剤が効果を示すと K-ras 変異の頻度は低下するが、耐性が起こると変異 K-ras 頻度が上昇して来る。即ち、ctDNA はガンのマーカーとして使える。

 

こうして耐性が出てきたガン患者さんの ctDNA の変化を見ると、スローンケッタリング ガン研究所の論文と大きく異なり、下流遺伝子の変異は観察できるが頻度が低い。代わりに62%の耐性ケースで 変異Ras の遺伝子増幅が起こっていることを発見する。おもしろいことに、増幅は高いドーズのダラクソンラシブを用いた患者さんで頻度が高い。さらに、ctDNA からここまで正確なガンのゲノム解析が可能であることにも驚いた。

 

もう一つ特徴的なのは、K-ras 自体に新たな変異が起こらないことで、これはダラクソンラシブがほぼ全ての K-ras 変異をカバーしており、ソトラシブのように特定の変異特異的でない結果だと考えられる。

 

増幅で耐性が起こる理由を探ると、Myc 遺伝子の変異や TP53 ガン抑制遺伝子の変異が併発していることが確認される。特に TP53変異 は 変異Ras 増幅と相性が良い。ただ、増幅によってどのようなシグナル伝達系の変化が起こり、これに他の変異が重なるのかなどの詳しいメカニズムは今後の研究が必要だ。ただ、実験的に 変異Ras の発現が高まると、ダクソンラシブ耐性が出来ることは実験系で確認しており、これまであまり研究されてこなかった重要な分野になると思う。

 

最後に、こうして発生した耐性ガンを抑制する可能性について調べている。下流遺伝子や他のシグナル伝達系に新たに変異が発生した場合は、正確な遺伝子診断の元に薬剤を選ぶことで耐性を克服できる。最もおもしろい例が、Her2の発現が誘導されるケースで、ダラクソンラシブに第一三共開発のエンハーツを併用することで完全にガンを抑制することができる。

 

もう一つおもしろいのは、RasのG12D変異に限るが、Revolution Medicineが開発したオン型G12D変異特異的薬剤ゾルドンラシブとダラクソンラシブを同時に投与することで、変異rasの遺伝子増幅に対応できることを示している。標的結合については異なるが、シクロフィリンをリクルートするというメカニズムでは同じなので、この二つの薬剤が耐性を抑えるのかメカニズムはおもしろそうだ。

 

以上、薬剤が開発されることで、全く新しいrasバイオロジーが始まることを実感するとともに、着実にrasドライバーガン治療法が進んでいることを確信する。あとは、現存のras阻害剤のように月100万円を超す値段をよりアフォーダブルな価格に抑えてほしいと期待する。そのためには、特許の期間をもっと延ばしてもいいような仕組みが必要な気がする。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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