スマフォでCovid-19感染の予兆をキャッチする(11月29日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021.12.08

Covid-19第5波真っ盛りの今年の夏、我が国のデパートで高級腕時計の売り上げが急増したというニュースが流れた。リベンジ消費のはなしだが、時を刻む腕時計に、今も多くの人が特別な価値を認めている証拠だと思う。


しかし、私も含めて腕時計に特別な思い入れを持たない人間も多くいる。そんな人間が一端Apple Watchなどスマートウォッチに変えると、おそらく普通の時計は買わなくなると思う。特にスマフォと連動しているので便利だ。


医療の面から見ると、スマートウォッチはウエアラブルセンサーとしての機能を備えており、身体活動は言うに及ばず、心拍数から酸素飽和度まで、多くのパラメーターを持続的に測ることができる。


特異的な検査でないので、病気の診断には役立たないと思ってしまうが、持続的に計測する威力は絶大で、以前紹介したように、心拍数、運動、体温、皮膚電位の4種類のデータは、多くの血液検査データと相関させられ、体調変化を知るためのセンサーとして使えることが示されている(https://aasj.jp/news/watch/15916)。


今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、スマートウォッチのこのような機能を用いてCovid-19感染をキャッチできるか調べた研究で11月29日Nature Medicineにオンライン掲載された。


タイトルは「Real-time alerting system for COVID-19 and other stress events using wearable data(ウエアラブルデータを用いてCovid-19および他のストレス要因に対するリアルタイムアラートシステム)」だ。


この研究ではApple WatchおよびFitbitのユーザーを対象に、安静時心拍数を基本として、感染などの身体ストレスを検知するアプリケーション、NightSignal(https://github.com/StanfordBioinformatics/wearable-infection)を設計、このデータを対象者が毎日インプットする症状およびCovid-19感染についての情報と相関させ、スマートウォッチによりCovid-19感染がどこまでキャッチできるか調べている。


対象者は3318人で、そのうち84人がCovid-19陽性と診断され、18人は全く症状が見られなかった。さて結果だが、「こんな簡単な指標だけでよくまあ!!」と驚く結果で、なんと症状のでたCovid-19の80%でアラートがでており、無症状者18人のうち14人も、確定診断前後にはっきりとアラートが出ていたことがわかった。


ではいつアラートが出たのかを調べていくと、症状が出た場合は、平均で発症の3日前にアラートが始まっている。もちろん最もアラートが多く出た時期は、発症の日と一致している。一方、無症状者ではほとんどがPCRテストより前にアラートが出ており、診断以後にはアラートがほとんど出ない。


重要なメッセージは以上で、他にも症状の進行や、ワクチンとの相関も調べているが、省いていいだろう。要するに、身体的ストレスは、自覚症状がない場合も捉えることができ、特に感染症でその威力を発揮することが示された。


もちろん、現在のようなCovid-19が流行している段階を除くと、どの感染症にかかっているのかも知りたくなるだろう。この研究でも始めているが、特徴的な症状をインプットすることで、感染症の種類を大まかに診断できるようになると思う。


さらに最近紹介したようにCRISPRを用いて、結果をスマフォで検出するCovid-19検査まで開発されている(https://aasj.jp/news/watch/14464)。すなわち、オンライン診療などと議論している我が国の遙か先を、技術は可能にしつつあると言える。


このような論文に対して、おそらく正確でないとか、心配させるだけだとか、様々な批判が出ると思う。しかし、同じことはcovid-19パンデミックの初期にも多く見られた。


今でこそPCRは日常化し、マスクは国民の習慣になったが、最初の頃は、PCRは混乱を招くだけという専門家の批判は多かったし、マスクに至っては、厳密な基準を適用して、意味がないとまで言う人たちまでいた。


しかし、病原体の確定診断なしに医療はないことは当然だし、マスクで一滴でも飛沫が吸収されるのなら、できることは何でもやるという姿勢が重要だと思っている。その意味で、身体に対するストレスが感染アラートとして使えるなら、一人でも早期に気づくという意味で使った方がいい。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。