血液細胞に見られるX染色体喪失の頻度と影響(6月12日 Nature オンライン掲載論文)

2024.07.06

年齢とともにY染色体を喪失した血液細胞が増加して、この頻度が様々な疾患リスクや余命と相関することが知られている。これは、このブログで何度も紹介したクローン性血液増殖がY染色体を喪失した幹細胞で起こりやすいことを示している。

 

本日紹介する論文

今日紹介する米国 Broad 研究所、フィンランド分子医学研究所、英国 MRC 、そして米国 NIH を中心に世界のゲノムデータベースが集まって発表した論文は、同じような性染色体の喪失がX染色体でも年齢とともに見られ、同じようにクローン性増殖を反映しているが、メカニズムはY染色体喪失とは異なることを示した研究で、6月12日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Genetic drivers and cellular selection of female mosaic X chromosome loss(女性の X 染色体喪失モザイク発生に関わる遺伝的原因と細胞レベルの選択)」だ。

 

解説と考察

一本しか存在しないY染色体喪失と比べると、2本あるX染色体の喪失をゲノム解析データだけから特定するのは難しい。しかし、インフォマティクスを駆使して、2本の染色体を区別して頻度を調べることで、片方の染色体が喪失することで起こる細胞レベルの増殖優位性による変化を特定できる。

 

この研究では世界中のデータベースから90万人近くの女性のデータを集め、X染色体喪失が起こった細胞が血液に存在する可能性を調べると、なんと12%の女性でX染色体喪失が見られ、その頻度は40歳以下では3%、80歳を超えると35%と、年齢とともに増加する。

生活習慣との相関を調べると、肥満との相関はないが、喫煙とは相関を認めている。そして、Y染色体喪失と同じく、白血病の発生リスクと相関する。

 

さて、これだけ高い頻度でX染色体喪失が検出できると、起こりやすいゲノム多型を調べることができる。この研究では実に56種類の相関するゲノム多型を特定している。これらは、1)白血病のリスクに関わる多型、2)分裂時の染色体分離異常に関わる多型、そして 3)免疫異常に関わる多型の3種類に分類できる。1)は血液細胞の増殖を反映し、2)は染色体喪失事態の起こりやすさを反映し、3)は免疫反応に伴うリンパ球の数の変化を反映すると考えられる。

 

面白いのは、この56種類のうち7種類しか Y染色体喪失の頻度を上げる多型と相関していない点だ。例えば、HLA は免疫反応を通して細胞増殖の変化を反映すると考えられるが、X 染色体喪失と強く関わるのに、Y 染色体喪失とはほとんど相関しない。他の X 染色体喪失特異的に相関が見られる多型も、免疫反応に関わる遺伝子多型が多く、個人的印象では女性に多い自己免疫疾患発症とメカニズムを共有する可能性がある。

 

他にも同じ解析から、X 染色体上の多型により片方の染色体へシフトが起こる可能性についても調べ、細胞増殖や、染色体分離といった現象に関わる多型とは全くことなる、セントロメアを中心に分布する多型が強く相関することを発見している。すなわち、分裂糸の形成や染色体への結合に関わる多型が、X 染色体喪失のしやすさの指標となることが明らかになった。

 

まとめと感想

主な結果は以上で、Y染色体喪失だけでなく、X染色体喪失も老化の指標として使えることが明らかになるとともに、共通のメカニズムもあるが、X染色体喪失に関わる特有のメカニズムが存在し、それが女性特有の病気とも関わることが明らかにした、面白い研究だ。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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