「好き」と「欲しい」の脳科学|似ているが実は異なる2つのシステムと「依存症」について解説

2024.06.28

人間というのは2種類に分けられるのかなと思うこともある。

一つは経営者や政治家、アスリートなどのようにストイックなタイプだ。目標に向かって突き進むを良しとするような人たちである。

もう一つはラブ&ピースといった風情のタイプである。このタイプは、目標を追求するよりも、自分が好きなことを楽しむことを第一に生きているように思える。

これら2つのタイプは犬と猫くらい違うように思えるが、それでも一つ共通点がある。それは自分の欲求に従って生きているというところだ。

脳の中には欲望を司る仕組みがあり、これは報酬系と呼ばれている。そしてこの報酬系は、欲望に関わる2つの要素、「欲しい」と「好き」の両方をコントロールしている。

今回の記事では、この2つのシステムについて詳しく掘り下げて考えてみたい。

 

報酬系とは?

報酬系は欲望のコントロールセンターである。人間に限らず、いきもの全般、欲望がなければ生きていけない。

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どんな生きものであっても、食欲がなければ餓死してしまうし、性欲がなければ子孫も途絶えてしまう。報酬系は美味しいものを食べて幸せを感じたり、パートナーをゲットしようと鼻息を荒くさせる仕組みであるともいえる。そして、これは脳の様々な部分がつながってできている。

報酬系に関する脳の部分



また、進化的にも報酬系の歴史は古く、数億年前にはすでに出来上がっていたという。そのため解剖学的に見ても、ヒトの報酬系と魚の報酬系はとても良く似ている。好きな人を追いかけたり、美味しい食べ物に惹かれる傾向は、魚も人間も変わらない。生存と生殖の根幹にある強力なシステム、それが報酬系である。

 

「好きだ!」システムと「欲しい!」システム

そして、この報酬系は、大きく分けて2つの仕組みからできている。一つは「好きだ!」システム(liking system)で、もう一つは「欲しい!」システム(wanting system)である。

 

「好きだ!」システムは快楽を引き起こす仕組みである。

美味しいケーキを食べたときや、好きな人に抱かれる時には強烈な快感情が引き起こされるが、これは「好きだ!」システムによるものだ。このときには脳の中では、いわゆる「脳内麻薬」が分泌される。この脳内麻薬は、報酬系の中でも「快楽ホットスポット」(下の図の赤色部分)に働きかけ、快楽を引き起こす。

Robinson et al., 2016, Fig 1を参考に筆者作成

 

これに対して「欲しい!」システムは、手に入れたい衝動を引き起こす仕組みである(図の緑の部分)。

この仕組みを動かすのはドーパミンと呼ばれるホルモンだ。お腹が減っている時に、焼き肉やとんかつのいい匂いを嗅ぐとお店に入りたくなる。これは食べ物の匂いでドーパミンが分泌され、「欲しい!」システムが動き出すためである。

多くの場合は、この2つのシステムは同じ程度の強さで働いているので、大きな問題になることはない。しかし、依存症と呼ばれる状態では、「欲しい!」システムだけが肥大化して、さほど好きでもないのにやめられないという状態になる。

ではなぜこのように「欲しい!」と「好きだ!」が離れてしまうのだろうか。

「欲しい!」システムの成長と依存症

先ほども書いたように「欲しい!」システムを育てるのはドーパミンである。ドーパミンが繰り返し分泌されることで、「欲しい!」システムはより強力に、より敏感に作動するようになる。

そしてドーパミンを分泌させるのは、実はご褒美の内容そのものではない。予想とのギャップである。例えば思っていたより美味しかった、楽しかったというような経験はギャップを引き起こし、ドーパミンを分泌させることになる。

これは生まれて初めてソフトクリームを舐めた子どもを思い出せば分かりやすい。ソフトクリームを舐めて目を丸くした子どもは、今まで気にならなかったソフトクリームの立て看板に敏感に反応するようになり、欲しい、欲しいと袖を引っ張るようになるだろう。

「欲しい!」と思うのがソフトクリーム程度であれば、その害は少ない。しかし世の中には歯止めが効かなくなるようなモノが溢れかえっている。

例えばギャンブルである。ギャンブルで10万円儲ければ、最初はギャップを感じて興奮するかもしれないが、次に10万円儲けてもギャップがないので興奮する度合いが少なくなる。脳はこのギャップを求めて20万円、100万円、1000万円と目標値を切り上げていく。理性がしっかりしていればどこかで止めることができるかもしれないが、多くの場合、失敗するまで止めることができない。

また、これはSNSも同様である。最初は1つか2つ「いいね」がついて喜んでいたかもしれないが、脳はさらなるギャップを求めて、投稿数を増やし、投稿内容も過激になっていく。

 

これに対して「好きだ!」という気持ちは大きく変わることはない。アイスクリームの味はいつ食べても同じ程度の好ましさを引き起こすかもしれないが、それが肥大化することはない。むしろ繰り返し食べることで食べ飽きるというようなこともあるだろう。

このように「好きだ!」は変わらないのに「欲しい!」だけが肥大化して、脳が暴走する状態が、依存症である。

 

さほど好きでもないのにやめられないものは身近なところにも色々とある。SNS依存やゲーム依存、ワーカホリックなどもあるだろう。

もし、気になるものがあるのなら、本当にそれが好きでやっているのかどうかを立ち止まって考えてみたほうがいいかもしれない。

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

・報酬系は「欲しい!」システム(wanting system)と「好きだ!」システム(liking system)でできている。
・予想とのギャップが大きいほどドーパミンが分泌され、「欲しい!」システムが、より敏感に、より強力に反応するようになる。
・「欲しい!」システムだけが強くなりすぎると、さほど好きでもないのにやめられないという依存症の状態が引き起こされる。

 

私は人間観察が趣味ではあるが、政治家や経営者は「欲しい!」システムが並外れて育ちやすいタイプなのかなと思うことがある。言い換えればドーパミンへの感受性が高いものが、政治家や経営者、アスリートの適性があるのではないだろうか。

 

また自分自身のことを考えると、ドーパミンよりも脳内麻薬への感受性が高いゆえに、のほほんとしているのかなと思うことがある。

いずれにしても自分の天分をうまく社会に適合させて、自分と社会の間にウィンウィンの関係性を築いていきたいものである。

【参考文献】

Arias-Carrión, O., Stamelou, M., Murillo-Rodríguez, E., Menéndez-González, M., & Pöppel, E. (2010). Dopaminergic reward system: a short integrative review. International archives of medicine, 3, 24. 

Robinson, M. J., Fischer, A. M., Ahuja, A., Lesser, E. N., & Maniates, H. (2016). Roles of “Wanting” and “Liking” in Motivating Behavior: Gambling, Food, and Drug Addictions. Current topics in behavioral neurosciences, 27, 105–136. 

著者紹介:佐藤 洋平(さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
脳科学・医学的知見を企業のマーケティングコミュニケーションに活用する専門家。理学療法士として15年の臨床経験を持ち、筑波大学大学院にてコミュニケーションに関わる脳活動の研究で博士号を取得。 2012年より、企業の製品・サービスの価値を科学的エビデンスに基づいて説明するコンサルティング業務を展開。「なぜそれが効果的なのか」「どこに価値があるのか」を神経科学・医学生理学・心理学の研究知見から解明し、 ステークホルダー向け資料やマーケティング素材として翻訳・構成・監修することを専門とする。多くの大手企業への学術支援実績を持ち、研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboではパートナー研究者として活動。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」運営者。

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