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突然だが皆さんの好きな料理は何だろうか? カレーライスや卵焼き、焼き魚やシチュー、BBQやお漬物など、回答は人の数だけあるだろうし、タイミング次第でも様々に変化するだろう。そこに優劣も貴賤もない。好きなものは好きだといってほしい。ちなみに葉月の好きな料理はハンバーグです。煮込みハンバーグだと尚可。
料理に使う定番の食材に小麦粉がある。文字通り小麦の粒を挽いて粉状にしたもので、パンや揚げ物、パスタ類など洋食に欠かすことが出来ないものなのはご存知の通りだ。しかしながら料理初心者にとっては困った事に、強力粉や薄力粉、中力粉といった種類がある。それぞれの粉は何が違い、どのように影響するのだろう? そこで今回は、各種小麦粉の違いについて解説していく。
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そもそも強力粉や薄力粉、中力粉はそれぞれどのように作られているのだろう? 同じ小麦粉とはいえ、わざわざ名前を変えて分けているのだから、原材料の小麦から製品として出荷されるまでの工程のどこかに、違いがあるはずだ。
それでは、それぞれの粉に違いが出る工程は次のうちどれなのだろう? 少し考えてみてほしい。
① 製造メーカー
② 原材料
③ 製粉方法
④ 保管方法
⑤ 出荷先
答えは決まっただろうか? それでは正解を発表しよう。
正解は……
「② 原材料」が違う!
どういう事だろう?
小麦粉はご存知の通り、小麦の粒を挽いて粉末状にしたものだ。しかしながら、一口に小麦といっても、産地も品種も様々だ。当然、タンパク質や糖質といった各種成分の含有率も、収穫物によって異なる。
そこで、製造メーカーではタンパク質や糖質などの成分が「強力粉」「準強力粉」「中力粉」「薄力粉」という区分に収まるように、様々な種類の小麦の比率を変えて製粉しているという訳だ[注1][注2]。
各種小麦粉の違いは、配合する小麦の品種の違いだということが分かった。原材料の小麦に含まれる成分の違いが、それぞれの料理の食感に影響を与えているというわけだ。それではどんな成分が、どのように影響を与えているのだろう?
続いて粉の違いが、食感に影響を与える理由について解説していく。
突然だが、台所のスポンジを想像してほしい。スポンジは細い繊維が縦横無尽に張り巡らされて出来た、スカスカの網目状構造をしている。体積に対して空気をたくさん含んでいるのでとても軽いし、繊維の間隔がスカスカなので小さな力で容易に変形する。
けれども繊維質であれば、常に柔らかく軽いわけではない。同じ繊維質でも、衣装箪笥にギチギチにしまった服は、ちょっとやそっとじゃ動かなくなってしまう。
つまり、繊維間の間隔が大きければフワフワになり、狭ければ弾力のある感覚になるのだ。
それでは小麦粉の作る繊維とは何なのだろう?
小麦粉の主成分は約70 ~ 80 %程度の炭水化物と、10 %前後のタンパク質だ。この10 %のタンパク質が、食感を作り出す繊維の正体である。どういうことだろう?
小麦粉に水を加えて捏ねると、グルテンという繊維状のタンパク質の構造体が形成される。タンパク質の多い強力粉ではグルテンは多く形成されるため繊維間が密になり、タンパク質の少ない薄力粉ではグルテンはあまり形成されずスカスカになる。
そのため、パンのような強力粉を使った料理はしっかりと噛み応えのある食感になり、薄力粉を使うとケーキのように軽い食感になるというわけだ[注3][注4]。
それぞれの小麦粉で食感が違うのは、主にデンプンとタンパク質の量によるものだという事が分かった。特にグルテンの影響が大きいわけなのだが、そもそもなぜグルテンを形成するのに捏ねる必要があるのだろう?
続いて、グルテンの形成過程について解説していく。
突然だが、ちぎり絵という絵の表現技法をご存知だろうか? 書いて字のごとく、色の異なる紙をちぎって組み合わせ、1つの絵として表現するという技法の事だ。ちぎり方ひとつとっても、紙の繊維を活かすようにするのか、活かさないようにするのかと、奥が深い技法らしい。
さて、もしもあなたが理想通りに紙片を配置し、思い描いた通りのものが出来たと確信した時、その状態のまま発表しようと思えるだろうか? 様々意見はあるだろうが、恐らく多くの人はその状態のままで発表することを躊躇うだろう。配置が済んだだけでは、紙片は不安定で、あっという間に崩れてしまうからだ[注5]。発表しようと思うなら、ノリなどで固める必要がある。
そう、複数の断片を1つの塊にするには、どうしても接着剤の存在が不可欠なのだ。それでは小麦粉ではどうだろう?
小麦粉は小麦を挽いて作られる食材だ。当然、粉末中に含まれる成分だって、元の大きさからバラバラの断片になってしまっているものもある。
そのため、グルテンという巨大な網目構造を形成するためには網目の主体となる繊維と、繊維同士をくっつける接着剤が必要だ。
グルテンはグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質から構成されている。
グルテニンは短い紐のような構造をしたタンパク質で、一塊にして固めると良く弾む。しかしながら、粘着力があまりないため引っ張るとちぎれてしまう。
一方のグリアジンは球状の構造をしたタンパク質だ。球状なので一塊にしても固まらないが、反面、強い粘着力を持っている。
この二種類のタンパク質同士を、外的に力を咥えてくっつける事こそが、「捏ねる」という行為というわけだ。ちょうどグルテニンが「繊維」として、グリアジンが「接着剤」としてそれぞれ働いていると思ってもらえれば良い[注6]。
ここまで、小麦粉の性質について解説してきたが、いかがだっただろうか? 小麦は米やトウモロコシと並んで世界三大穀物として数えられる、ありふれた食材だ。粉の違いを何となくでも把握できれば、世界が少し広がるのではないかと思う。
最後に、記事の趣旨からは少し外れるが網に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。
私たちの体は、数百の筋肉が収縮と伸長を行なう事で、柔軟な動きを可能にしている。柔軟な動きは動きの自由度の高さに繋がり、動きの自由度の高さは不測の事態への対応能力に繋がる。そのため、不測の事態が見込まれる臨機応変な対応が求められる作業では、現在でも人の手を欠かすことは出来ない。けれどもそういった作業の多くは作業者への負担も大きく、ロボットへの転換が望まれる。
人工筋肉を使ったロボットや義肢が研究されている。筋肉は無数の繊維からなる構造をしているが、自動で修復される私たちの筋肉と違い、人工筋肉では繊維が同一方向に並んでいる構造は複雑な動きに弱くなってしまう。そのため、繊維を様々な方向に伸ばした網目構造のゲルが、人工筋肉の材料として研究されている。ゴツくて固いロボットのイメージはもう古いのかもしれない。
網は何も肉眼や顕微鏡で見えるサイズばかりのものではない。大きく離れて俯瞰することで初めて見ることのできる網もある。人や物の移動の基礎となる網、すなわち道路網だ。
道路網は私たちが生活していくうえでは欠かせないため、都市開発や災害対策など様々な観点で把握する必要がある。けれども、細かく張り巡らされたネットワークが持つ情報量は膨大で、人の手で正確に把握するのは大変骨の折れる作業だ。
人工知能を駆使して、道路網の持つ情報を役立てようという研究がある。人流や物流、災害への脆弱度など様々な観点から得た情報を、地図上に可視化しようという試みだ。人の手では見えてこなかった新たな道路の活用法が見つかるかもしれない。
参考文献
・長尾 精一. 『食物と健康の科学シリーズ 小麦の機能と科学』. 朝倉書店.
・農林水産省(https://www.maff.go.jp/)
・一般財団法人 製粉振興会(https://www.seifun.or.jp/)
・レファレンス協同データベース(https://crd.ndl.go.jp/reference/)
・山下 宙人. 『データ統合により脳情報を可視化する技術』. 電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン, 2022, 16 巻, 4 号, p. 326-337.
・長崎 滉大ら. 『バラ図と円周分布のパラメータを用いた駅周辺道路網の類型化』. 交通工学論文集, 2020, 6 巻, 2 号, p. A_1-A_8.
[注1] 「メリケン粉」あるいは「うどん粉」という言葉を聞いたことはないだろうか? 実はこれらは、小麦粉の規格を表す言葉ではない。ただの小麦粉の別名なのだ。アメリカから輸入されていたからメリケン粉、うどんに使われていたからうどん粉、ただそれだけだ。 本文に戻る
[注2] とはいえこれは、国際的な取り決めや根拠となる法令があって定められた規格ではない。あくまで民間規格なので、どんな小麦粉をどう扱うのかについては製造メーカーや販売者次第ではある。まぁ、名前のイメージから逸脱したものを売っても、反感買うだけだろうからある程度は保証されてるだろうけど。 本文に戻る
[注3] 実際の食感にはここにデンプンの影響が加わる。お粥を想像してもらえれば分かるが、デンプンは水中では膨張してトロミが出る。そのため、グルテンの網目構造は、デンプンと水が多くあるときは広がって柔らかく、デンプンや水が少ないと締まって硬くなるのだ。 本文に戻る
[注4] 同じく料理によく使う粉として、片栗粉がある。けれども、その性質は小麦粉とはまるで違う。片栗粉はカタクリという植物のデンプンを集めたものなので、絶対にグルテンを形成しないからだ。料理初心者の諸君は注意するように! ……はい。 本文に戻る
[注5] 諸行無常を感じたい方にとっては、そのまま提出するのもありかもしれない。ただ、その手の徒労話はデジタルで作業しているとイヤでも聞こえてくるので、無保存で作品を作ることを趣味にしてしまってもいいかもしれない。葉月は絶対に嫌だけど……! バックアップと細かな保存、大事。 本文に戻る
[注6] パンを作ったことがある方にとっては常識かもしれないが、パン生地は良く伸びる一方でベタベタと粘着性がある。グルテニンとグリアジンの特徴がグルテンに反映された結果だ。ところで「ぱんつくったことある?」という言葉遊びは、いつ頃どのように広がっていったものなのだろう? 本文に戻る