ALSでの神経細胞死を抑制する化合物の開発(2月6日 Cell Reports Medicine オンライン掲載論文)

2024.02.25

ALS に限らず、神経変性が起こる場所ではグルタミン酸がシナプス活動を越えて神経細胞死を誘導する可能性が指摘されてきた。

 

通常、グルタミン酸がシナプス外に漏れ出てもアストロサイトに再吸収されるのだが、低酸素状態になるとアストロサイトの再吸収が低下し、逆にグルタミン酸分泌が高まることで、シナプス外のグルタミン酸濃度が高まり、神経細胞死を誘導する。

 

この考えにもとづいていくつかの薬剤が開発され、現在リルゾールが ALS に、メマンチンがアルツハイマー病などに用いられている。

 

本日紹介する論文

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、グルタミン酸による細胞死誘導が、シナプス外で発現されている受容体(eNMDAR)特異的に起こることを明らかにし、eNMDAR を標的にした薬剤開発を続けているグループにより新しく特定された eNMDAR 特異的阻害剤開発研究で、2月7日 Cell Reports Medicine にオンライン掲載された。

 

タイトルは「TwinF interface inhibitor FP802 stops loss of motor neurons and mitigates disease progression in a mouse model of ALS(TwinF インターフェース阻害剤 FP802 はマウス ALS モデルで運動神経変性と病気の進行を抑える)」だ。

 

解説と考察

このグループは TRPM4 と呼ばれるチャンネルが eNMDAR と結合することがシナプス外で NMDAR が細胞死を誘導する原因であると考え、両者の結合を阻害する化合物 Compound8 を開発してきた。この研究では、この化合物の問題点を解決し、より効果を高めた FP802 を開発し、この薬剤が想定通り、ALSの進行を遅らせることが出来るか調べている。

 

試験管内でマウス神経細胞をグルタミン酸に晒したとき神経細胞死を予防する効果を調べると、FP802は 8.7µM と有効濃度は少し高いが、グルタミン酸による神経細胞死を抑えることが出来る。さらに、期待通り eNMDAR と TRPM4分子同士の結合を阻害する。

 

次いで SOD1 遺伝子に変異を持つ ALSマウスモデルで、症状が出た後から FP802を40mg/kg/dayになるようミニポンプで連続皮下投与を行っている。

 

さて結果だが、間違いなく病気の進行を遅らせ、さらに生存期間も延びる。勿論 ALS の細胞死の大きな部分は神経細胞自体の変化に基づいており、グルタミン酸毒性を抑えても、完全に治ることはない。それでも、組織学的にも明らかに運動神経が保護され、結果として病気が抑えられるという結果は重要だ。

 

最後に患者さん由来の iPS から誘導した神経細胞オルガノイドを用いて、グルタミン酸暴露による神経細胞死が抑制できることを示し、患者さんに利用できる可能性を示している。

 

まとめと感想

以上が結果で、まだまだ薬剤として至適化することが必要だとは思うが、TwinF interface 阻害という新しいメカニズムで、ALS の進行を抑えられる可能性が示されたと評価できる。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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