ムズ ムズ ムズ ……はっくしょん! くしゃみの仕組みに迫る!

2024.01.29

空気が日毎に冷えていくのを実感する今日この頃、皆さん風邪などひかれてはいないだろうか? 風邪をひくと、最中はもちろん治ってからも色んなことがしんどくなるので、手洗いうがいをしっかりして、十分に予防していただきたい。日々を楽しく、笑って過ごせるようにも、無病息災で元気に冬を越したいものだ。

 

今更言うまでもない事だが、風邪の症状の1つにくしゃみがある。

というより、風邪をひいてなくても寒くなると出る。

更に言えば、寒くなくても出る。

 

オールシーズン、何らかのきっかけで出るくしゃみだが、一体何のために、どのような仕組みで出るのだろうか? そこで今回は、くしゃみがどのように引き起こされるのかについて解説していく。

 

少し詳しく 〜くしゃみの理由〜

そもそもくしゃみはどんな時に起きるのだろうか? と言っても、わざわざ解説するまでもなく、皆さん日常生活の中ですでにご存知だろう。くしゃみをするのは噂をされたとき・・・ではなく、主に鼻の穴に異物が入った時だ。

 

それではなぜ鼻の穴に異物が入ると、くしゃみをする必要があるのだろうか?

砂塵や埃、花粉症の方にとっては花粉症など、普通に生活しているだけでも、私たちは多くの異物にさらされている。しかしながら、通常、これらの異物が体内に入りこむ機会はそれほど多くない。私たちの体は皮膚に守られているからだ。

とはいえ穴が空いている箇所、すなわち口や傷口、そして鼻などは別だ。こうした箇所は消化管や血管などと直結しているため、体内に異物が侵入する事が可能になってしまう[注1]


特に鼻は口や傷口と違って、常時開放状態だ。そのため、入り込んだ異物に対しては強い力で追い出す必要がある。その時に行うのが、くしゃみというわけだ。

 

家の前に落ち葉が積もっているところを想像してほしい。玄関扉や外壁からは、風が吹いても落ち葉が入ることはないが、開きっぱなしの窓からは少しの風でガンガン入ってくる。こうして入ってきた落ち葉を、その都度外に掃き出すのと同じだと思ってもらえばいい。


 このような、健康を脅かす異物を物理的な方法で排除する免疫の仕組みを、物理的防御という[注2]

くしゃみが出るのは、主に免疫機能の物理的防御によるものだと分かった。それでは実際にくしゃみが出る時、私たちの体はどのような動きをしているのだろうか?

 

続いて、くしゃみをするときの体の動きについて解説する。

さらに掘り下げ 〜くしゃみの動作〜

ゴム風船でこんな事をしたことはないだろうか?

息をフ〜フ〜と吹いて大きく膨らませていく。大きく大きく膨らんだ風船で遊ぶため、吹き込み口を結ぼうとした。しかしながら、風船の吹き込み口を結ぶのは案外難しい……。ふとした拍子に風船を掴む力が弱くなってしまい、あなたは風船から手を離してしまった!

悲しいかな……風船はヒューヒューと大きな音と猛烈な風とともに、しぼんでしまうのであった。

 

なぜこんな事が起きたのだろう? 大きく膨らませたゴム風船の中は、私たちの周囲より多くの空気が詰まっている。そのため、ゴム風船の中の空気は周囲の気圧と同じになろうと、過剰な分の空気を追い出そうとする。

しかしながら、空気が出入りできるのは小さな吹き込み口だけだ。小さな吹き込み口から空気が一度に流れ出るため、勢いが強くなってしまうという訳だ。

多量の空気を小さな出入り口から出すと、勢いよく出る。これがくしゃみを理解する上で重要だ。

 

私たちにとって空気の出入り口といえば、どこだろう? もちろん鼻と口だ。

鼻と口から取り込んだ空気は、気管を通して肺に運ばれる。ちょうど吹き込み口と風船の関係だ。そのため、くしゃみは空気を深く吸い込む動作と、それを強制的に一気に吐き出す動作の2段階からなっている。

くしゃみの様子を擬音で表現すると、「ハ……ハ……ハ……ハックション‼︎」という感じになるが、「ハ……ハ……ハ……」の部分で肺の内圧を高め、「ハックション‼︎」で一気に吐き出していると考えてほしい[注3]

 

しかしながら、実はこれはとても危ない動作だ。外方向に大きな力が加わるということは、異物以外のものが顔から出て行ってしまう可能性もあるという事だ。その代表格は、眼球である。

眼球を保護するため、息を吸う前に軽くまぶたを閉じ、吐く前に強くまぶたを閉じる。これにより、眼球が押し出されるのを防いでいるという訳だ。

くしゃみは肺に溜め込んだ空気を一気に吐き出す事によって、引き起こされている事がわかった。

 

ところで、くしゃみを自発的にやってみてほしい。古典的な方法としてはコショウやこよりを使った方法があるが、そうしたものを使わずにだ[注4]

 

やってみた方はわかったかもしれないが、自発的にやると、普段のくしゃみのような力強さは得られない。これはどうしてだろう? この答えは、くしゃみを引き起こす神経と関係している。

 

もっと専門的に 〜くしゃみを引き起こす神経〜

意外に思われるかもしれないが、くしゃみを引き起こすいくつかの原因のうち、明確にメカニズムが説明できるのは異物が原因のものくらいだ。世界中のヒトが、いや世界中の動物が日常的に行うありふれた動作でありながら、詳しいことはほとんど分かっていないのが現状だ[注5]

それでは異物が原因のくしゃみはどのように引き起こされるのだろう?

 

くしゃみは三叉さんさ神経という神経が刺激されることで引き起こされる。三叉神経は触感や温度、痛みなど顔の感覚を伝える神経で、文字通り3本に分岐しているのが特徴だ。

三叉神経のうち鼻粘膜に伸びているものが刺激されると、その刺激は呼吸や消化の中枢となっている延髄へと伝えられる。これにより、くしゃみの反射が引き起こされ、自分では制御できないような力強いくしゃみが出るという訳だ。

三叉神経は感覚を伝える神経のため、物理的な刺激には敏感だ。そのため、砂塵や埃を吸い込むと鼻粘膜内の三叉神経が興奮し、くしゃみが引き起こされる[注6]

 

しかしながら私たちは、ツンとした刺激臭を感じた時や、花粉のような感触を感じさせないような極小の粒子を吸い込んだ際にも、くしゃみをする。到底、三叉神経が興奮するとは思えないが、何故くしゃみが引き起こされるのだろう?

 

実はこれらのくしゃみも基本的なメカニズムは砂塵や埃の時と同じだ。三叉神経の刺激を通じて、延髄がくしゃみ反射を引き起こしている。ただ、三叉神経を刺激させるために、前段階がある。

 

鼻粘膜内に入った化学物質や極小粒子は、鼻粘膜の下の組織にいる免疫細胞を刺激する。この細胞は刺激を受けると、血管を拡張させる。この拡張した血管が三叉神経を刺激することで、くしゃみが引き起こされるという訳だ。

ここまで、くしゃみが出る仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? くしゃみは病気の予防のために必要な行動だ。くしゃみエチケットを意識して周囲の人々に配慮しつつも、病原物質をしっかりと吐き出して健康な生活を過ごしていただきたい。

 

最後に、記事の趣旨からは少し外れるがエアロゾルに関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

ちょっとはみ出し 〜エアロゾルを調べる〜

飛沫の影響を調べる

エアロゾルとは空気中を漂う小さな粒子の総称だ。私たちの生活において最も身近なエアロゾルは、咳やくしゃみで排出される飛沫だろう。

鼻水や唾液を含んだ飛沫には、種々の病原物質が含まれている事がある。そのため、感染症予防の観点からも咳やくしゃみによって排出される飛沫の特徴を詳細に把握することはとても重要だ。

 

飛沫が感染症の拡大にどのような影響を与えるかを調べるため、エアロゾルの沈着について調べた研究がある。粒子径、排出速度などの条件を変えて、飛沫の沈着する場所がどのように変化するかを調べたものだ。

人体への沈着についての場合、粒子径が大きいときは主に口や鼻に、粒子径が小さくなると気管支や肺へと沈着しやすくなる。感染症予防は粒子径を制御する系を構築する事が重要なようだ。

 

雲の出来方を調べる

エアロゾルが影響を及ぼすのは何も感染症の拡大だけではない。空気中の小さな粒子によって形成される大きな存在、すなわち雲だ。

雲はエアロゾルを核に、水滴が集まる事で形成される。したがって、エアロゾルの大気中の量やサイズと天気との相関を調べることは、雲の出来方や天気の動向を予測する上でとても重要だ。

 

都市圏のエアロゾルの動向を自動観測することで、天気予報の精度向上に活用しようという試みがある。エアロゾルのサイズ、密度、エアロゾルになっている物質の種類などを、高所に設置した測定機器で調べることでピンポイントでの天気予報を実現できないかという試みだ。

 

さて、この研究だが一体どこで行われているかご想像できるだろうか? 正解は日本で最も高い電波塔・東京スカイツリーだ。

参考文献

・嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.

・Peter Wood著, 山本一夫 訳. 『免疫学 巧妙なしくみを解き明かす』. 東京化学同人.

・Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 『組織細胞生物学 原初第5版』. 南江堂.

・岡田 泰伸ら. 『ギャノング生理学 原書26版』. 丸善出版.

・入村 達郎ら. 『免疫学の基礎 第5版』. 東京化学同人.

・Murat Songu, Cemal Cingi. “Sneeze reflex: facts and fiction”. Ther Adv Respir Dis. 2009 Jun;3(3):131-41.

・Z Y Han, et al. “Characterizations of particle size distribution of the droplets exhaled by sneeze”. J R Soc Interface. 2013 Sep 11;10(88):20130560.

・Naiping Gao, Jianlei Niu. “ Transient CFD simulation of the respiration process and inter-person exposure assessment”. Build Environ. 2006 Sep;41(9):1214-1222.

・近藤 健二. 『鼻炎の病態生理と神経反射』. 耳鼻咽喉科免疫アレルギー2017年 35 巻 3 号 261-265.

・竹川 暢之. 『エアロゾルと飛沫感染・空気感染』. エアロゾル研究 2021年 36 巻 1 号 65-74.

・三隅 良平ら. 『東京スカイツリーでのエアロゾル・雲研究』. エアロゾル研究 2022年 37 巻 2 号 96-103.

 

脚注

[注1] 生物学的にいうと、食物が通る消化管は体外に分類されるのだが、ここでは分かりやすさのため体内と表記させてもらった。なぜ消化管が体外に分類されるのかというと、口から肛門までが一本の管として外気に接触可能だからだ。 本文に戻る

[注2] 物理的防御はくしゃみの他にも、咳による病原物質の排出や、皮膚や鼻毛による障壁、涙や鼻水による洗い流しなどがある。咳や鼻水などは、くしゃみと同じく病気になると頻発する現象だが、これは体内の病原物質を積極的に排除するために引き起こされているためだ。 本文に戻る

[注3] この動きによって吐き出される空気の速度は、最速で時速1045kmにも達すると推定されている。実に音速の85%近くだ。くしゃみってすごい。 本文に戻る

[注4] なんの自慢にもならないが、葉月はこよりを使ってくしゃみをするのが上手だ。友人らと「誰が最初にくしゃみを出せるか」という遊びをした際に、ぶっちぎりの速さで勝利した経験がある。「何でそんなことをしたんだ?」と言われたら、「何でなんでしょうね?」としか返せないのが困るところだ。 本文に戻る

[注5] これに対し「まぁ、くしゃみのメカニズムが解明されたところで」と笑っている方もおられるかもしれない。しかしながら、くしゃみは肉体に非常に負荷のかかる行為で、くしゃみに伴う、内臓破裂や骨折の例は世界中で数多く報告されている。くしゃみのメカニズムを知ることは身を守ることに繋がるのだ。 本文に戻る

[注6] 三叉神経が刺激されれば、くしゃみは出るので、実はその原因は物体として存在している必要すらない。冒頭で、寒くなるとくしゃみが出ると書いたが、これは三叉神経の温度を感じるという刺激が引き金になって引き起こされたものだ。 本文に戻る

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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