厳しい寒さを耐え凌げ! 防寒具はなぜ暖かい?

2024.01.15

 寒い……。特に台所が寒い。素足にフローリングは寒いのだが、なぜ葉月は毎年学習しないのだろう。冬場の台所仕事が、年々雑になっていっているのを実感している。

 寒い冬場には暖かい環境でぬくぬくするべきだと、皆さん思いませんか? 知ったこっちゃないよって話しですね。おっしゃる通りでございます。

 寒い場所で過ごす上で欠かせないものといえば、なんと言っても防寒具だ。屋外ではジャンパーやコート、屋内では毛布や羽毛布団など、冬場のモフモフは寒さの強い味方だ。それにしても、綿や羽毛、毛皮などのモフモフしたものを身にまとうとホカホカと温まってくるのは、よく考えれば不思議だ。そこで今回は、防寒着や冬用布団を使うとなぜ暖かくなるのかについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜防寒具と熱源

 当然の話だが、ジャンパーや毛布には一般的には加熱用の熱源が付属されていたりはしない[注1]。それでも防寒着を纏っていると私たちの体はポカポカと暖まる。それではこの、防寒着を温めている熱源はなんなのだろう?

 実は私たちのかなり身近なところに、その熱源はある。それは1年365日、1秒も休むことなく熱を作り続け、私たちの健康を守っている。そう、その熱源とは何を隠そう私たち自身の体だ。

 恒温動物である私たちは、常に同じように代謝を行なうために、耐えず熱を産生し続けている。これにより、寒冷地の厳しい寒さの中でも活動することが可能となっている。

 しかしながら、ヒトの基礎代謝量は1日あたり千数百 kcalもある。1 kcalは1 kgの水の温度を1 ℃上昇させる熱量を持っているため、その千数百倍となれば、どれだけの熱になるか想像を絶するだろう。そのため私たちは、体内で熱を作るのと同時に、体外に熱を移動させて体温の過度な上昇を防いでいる[注2]

 この時、放出される熱を防寒具が溜めておくことで、熱に包まれたのと同じ状態になり、暖かく感じるというわけだ[注3]

 私たち自身が放出した熱が、回り回って私たちを温めているということがわかった。しかしながら夏の薄い服装をしている間は、着衣から熱を感じたりしない。なぜ防寒着を纏っている間だけ熱を溜められるのだろう?

 続いて熱を溜めているものの正体について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜防寒具と空気

 熱を溜めているものの正体を考えるために、夏物と冬物の違いについて考えてみよう。

 

 まずは丈だ。多くの場合、夏服は半袖、冬服は長袖が一般的だろう。

 それでは丈が長いと熱を溜めこみやすくなるのだろうか? 確かにそれもあるかも知れない。肌を覆う面積が多いと、汗が蒸発しにくくなり、熱が逃げづらくなるからだ[注4]

 しかしながら、着衣から布団に視点を変えてみると、どうだろうか? 夏場に使う布団だって、面積は冬物と同じ程度にあり、体を覆うことができる。

 したがって体に触れる面積は、最も重要な要因という訳ではないことがわかる。

 

 それでは生地や構造についてはどうだろう?

 夏物の多くは一枚布で、通気性の良いものが多い。一方の冬物は袋の様な構造をしており、夏物よりもふっくらと体積の大きいものが多い。膨らんでいるということは、それだけより多くの空気を含んでいるということだ。実はこの、多くの空気を含んでいるというのがとても重要なのだ。

 氷を袋に入れれば冷気を持ち運べるように、暖かい空気を袋の中に入れておけば暖かさを持ち運ぶことが出来る。袋の中に暖かい空気がたくさん入っていれば、より暖かくなりそうだ。そして、袋が服の形をしていればすなわち防寒着になるし、布団の形をしていればすなわち冬布団になるというわけだ。

 しかしながら、布で袋を作っても常に空気で満たしておくことは大変だ。布の目よりも空気の分子の方が確実に小さいためである。そのため、空気が逃げないように、空気を溜めこみやすい材質のものを袋の内部に充填することで間接的に空気を充填しているという訳だ。この、空気を溜めこみやすい材質のものが、防寒具には欠かせない綿や羽毛といったふわふわモフモフしたものなのだ。

 

 ふわふわモフモフに溜め込まれた空気が、熱を溜め込んでいるものの正体だとわかった。しかしながら、モフモフの外側は冬の冷たい空気のはずである。なぜ冷たい空気は、防寒具内の空気を冷やしてしまわないのだろう?

 続いて防寒具が保温する仕組みについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜防寒具と保温

 こんなことを考えてほしい。

 大きなタライの中央から水を注いでいく。水はタライの底を伝って広がっていき、やがて壁面に到達する。この時、壁面近くの底に穴が空いていたとしたらどうだろう? 水は当然、穴から抜けていく。

 さて、考えてほしいのはここからだ。

 今度も同じように穴の空いたタライを使うわけだが、いくつかのサイズ違いのコップも使う。1番小さなコップを2番目のコップに、そのコップを3番目のコップに、さらにそれを……とマトリョーシカのような構造にしてタライにセットする。

 1番小さなコップ以外のコップの底に小さな穴を空けてある時、中央のコップに水を注ぐと水はどう広がるだろう?

 

 まず、中央のコップから水が溢れ出す。これについては異論はないだろう。問題は2つ目以降だ。

 溢れ出した水がすぐさま穴から流れ出ていき、2つ目以降のコップはほぼ空のままタライから完全に流れ出してしまう、とはならない筈だ。おそらく水は、少しずつ溜まる量を減らしながら外側へと広がっていくだろう。

 

 実は防寒具が保温できるのも、これと同じ理由だ。

 まず私たち自身が放出した熱は、私たちの周囲の空気を温める。裸や薄着の場合、温まった空気は拡散してしまうが、防寒具を纏っていると生地に阻まれて拡散しにくくなっている。そのため生地と体の隙間の空気は高い温度まで温まることができる。

 温まった隙間の空気はやがて、防寒具内の空気を温める。しかしながら防寒具内の空気は生地や羽毛などによって阻まれるため、拡散せず十分に温められる。

 この流れが、熱が外気と触れるまで繰り返される。

 お気づきだろうか? 空気が蓄えた熱が、その都度拡散せずに蓄積するようになっているのだ。

 すなわち、熱が伝わりづらくなっているほど、温度は保たれるというわけだ。先の実験に置き換えると、コップの中が空気層、水位が温度、穴の大きさが熱の伝わりやすさだと考えるといい。

 この熱の伝わりやすさを熱伝導率といい、熱伝導率の小さい物質が体と外気の間に挟まることで、見かけ上、熱の出入りがなくなり保温されるというわけだ[注5][注6]

 

 ここまで、防寒具で暖まる仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 寒さは健康維持の大敵だ。防寒具に限らず、寒さ対策を十分にして、病気などのない健康な冬を過ごしてほしい。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが冬の装いに関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜冬季の着せ替え

指先の感覚を守る

 ジャンパーやコートは体幹全体を暖める防寒着だが、一方で小さな部位だけを暖める防寒具も世の中には多数ある。靴下やネックウォーマー、イヤーマフ、そして手袋などだ。

 冬の防寒だけでなく、手術時の衛生や危険作業時の安全など、手袋を装着する場面というのは存外多い。しかしながら手袋をしていると1つ厄介な問題に直面することがある。指先の感覚が普段より鈍ってしまうことだ。

 手袋を着用している状態での、指先の感覚がどのように変化するかを調べた研究がある。様々な布を指先で触れて、強く圧迫したり左右にスライドさせたりした時の触感を調べることで、より感覚が鈍りにくい手袋の開発に繋がるのではないかという試みだ。

タイヤを履き替える

 冬に装いを変えるのは、何も人だけではない。日々の生活の重要な交通手段である、自動車だって冬には冬の格好をする。すなわちタイヤの履き替えだ。夏用タイヤから冬用タイヤに履き替える事で、凍結した路面に対するグリップ力を向上させ、走行安全性を確保することができる。

 タイヤ交換を確実にするため、高速道路などではタイヤ規制や、それに伴うタイヤのチェックも実施されている場所もある。しかしながら、このチェックは人員や時間など多くのコストが必要で、交通渋滞の要因にもなっている。

 タイヤチェックを低コストかつ迅速に行なうため、AIを用いて判別できないかという研究がある。走行中のタイヤを撮影する事で、冬用タイヤかどうかだけでなく劣化状態も判別できるというものだ。

参考文献

  • 岸根 純一郎. 『物理学レクチャーコース 熱力学』. 裳華房.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
  • 日本化学繊維協会
  • 井上 尚子. 『衣服の保温性に関する研究』. 日本家政学会誌 2023年 74 巻 6 号 298-309.
  • 松梨 久仁子ら. 『指先による布を介した対象布の認知に関する研究』. 繊維製品消費科学 2021年 62 巻 3 号 200-209.
  • 林 詳吾ら. 『AIを用いた冬用タイヤ自動判別システムの開発』. AI・データサイエンス論文集 2020年 1 巻 J1 号 200-209.

脚注

[注1] もちろん世の中には電気毛布というものがあり、電気1つで暖かくなる道具も開発されている。電気毛布はあったかいんだけど、寝汗がひどくなるからタイマーが必要だと思う。多分あるんだろうけど。 (本文へ戻る)

[注2] しかしながら、自然な放熱に任せていられる時ばかりではない。暑い場所にいると放熱できないし、運動時など熱が急激に作られた時には急いで冷まさなければならない。そんな時に利用するのが体内の水分、すなわち汗だ。 (本文へ戻る)

[注3] 書いていて疑問に思ったのだが、つまり毛布をかけて暖まることができるのは、恒温動物だけなのだろうか? 葉月は実家にいた頃、熱帯魚を飼っていたが、専用のヒーターを使っていた記憶がある。トカゲなどもライトで温めているイメージだ。熱の出入りを生物の面から考えるのも面白いかも知れない。 (本文へ戻る)

[注4] この仕組みを利用して、発汗を発熱のキッカケにした素材がヒートテックだ。薄い生地なのにポカポカ暖かくて、寒い冬の強い味方……らしいのだが、実は葉月はヒートテック未体験だったりする。ちなみに販売は2003年らしい。ふた回りも周回遅れしてる。 (本文へ戻る)

[注5] 普段意識する事は中々ないが、空気は熱伝導率がとても小さな物質だ。例えば、触れない程熱されたヤカンに触れると火傷してしまうが、同じくらいの距離にある空気に触れても火傷しないだろう。空気が炎の熱を伝えていない証拠だ。 (本文へ戻る)

[注6] これと同じような機構を使って保温する道具といえば、何を隠そう魔法瓶だ。魔法瓶は内瓶と外瓶からなる二重構造をしており、内瓶と外瓶の間は真空になっている。真空は空気よりも熱が伝わりづらいため、外気の影響が伝わりにくくなっているというわけだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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