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自閉スペクトラム症(ASD)という障害を聞いたことはありますか?
大雑把に言うとコミュニケーションをとるのが苦手という発達障害の一つなのですが、そこにはミラーニューロンという物質が関与していることが判明しています。
今回は、自閉スペクトラム症とミラーニューロンの関係について、そして自閉スペクトラム症を持つ方々と接する時に考えるべきことを解説していきます。
CONTENTS
冒頭でも伝えたとおり、自閉スペクトラム症とは発達障害の一つです。少し前までは自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼ばれていましたが、統合され自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれるようになっています。
DSM-5(*1)の基準によると、診断基準としては
1.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
2.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること
3.発達早期から1,2の症状が存在していること
4.発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
5.これらの障害が、知的能力障害や全般性発達遅延では上手く説明されないこと
というような定義となっております。表層的に見られるのは1と2の状態で、端的に言うと「コミュニケーションが苦手」「こだわりがつよい」「同じ行動が継続的に繰り返される」というものになっています。そして、それが小さい頃から存在し、学校や職場などで困りごととして明確になっていることが診断基準となっております。
ただ、状態像としてはまったく話せない状態からよく喋る状態までとても幅広くなっているので、文面だけで理解をするのは難しいです。
では、先程の自閉スペクトラム症の状態とミラーニューロンがどのように関係をしているのでしょうか?それは子どもが大人へと発達する中で行われる「模倣(真似)」が重要になってきます。
人が赤ちゃんとして生まれ、少しずつ大きくなり身体の部位が発達する中で、早期から模倣をすることで体の動きや心までもが発達していきます。一番早い段階だと、生後三ヶ月で大人の微笑みを模倣する「三ヶ月微笑」というものがあります。
この「模倣する」という力は誰かに教えてもらうものではなく、生まれながらに持っている能力となります。これはミラーニューロンが脳内に存在するからとなります。まさに「ミラー」の名にある通り、鏡に映したように模倣する機能ということですね。
また、このあとの成長段階でも身体を動かす、言葉を話す、そして人の心を理解するという所まで、ミラーニューロンの働きによって獲得していきます。
自閉スペクトラム症の児童はこのミラーニューロンが少ない、という研究結果があります。模倣する、という機能が周りの子より弱い結果「目があったら微笑む」「言葉を話す」「同じ動作をする」「人の心を理解する」などの能力が育ちにくい状態にあります。
これらは俗に言う「社会性」と呼ばれるものとなり、結果的にコミュニケーションが苦手という状態像を引き起こしています。
例えば、身体を動かすことでコミュニケーションを取る場合があります。自閉スペクトラム症児の特徴的な動きに「逆手バイバイ」と呼ばれるものがあります。1歳に満たない赤ちゃんでもバイバイと手を振った時に鏡に写したような模倣の仕方ができますが、ミラーニューロンが不足していて模倣する力が弱いと、鏡に写したような模倣の仕方ができません。
自閉スペクトラム症児の場合、バイバイという行為を「手のひらが自分に向いている状態で左右に揺らす」という認識をするので、手のひらを自分に向けた状態でバイバイするという身体の動かし方になります。
自閉スペクトラム症を持つ人達にダンスやスポーツが苦手な人が多いのも、身体の動かし方の模倣が苦手だからと考えられています。
また、言葉は口の動かし方、発声の声色などを真似します。子どもは喋っていることなの口元をよく見ていて、それと一緒に口をパクパク動かす事がありますし、言葉が表出される1歳頃の少し前には喃語と呼ばれる何かを喋っているような音声を発します。
これらも、大人の模倣で表出される行動なのですが、自閉スペクトラム症児についてはあまり見られないのが特徴的です。
心に関しても「心の理論」という実験が存在します。通常4,5歳頃から相手の立場に立って物事を考える力が育つのですが、自閉スペクトラム症児はこの発達がかなりゆっくりなようです。
心の理論に関しては、サリーとアンの課題という実験が有名です。この章では詳しく触れませんが、もし詳細に知りたい方は脚注リンク(*2)から読んでみてください。
それでは、ミラーニューロンの働きが弱い方々と関わる時、どのようなところに気をつけたらよいのでしょうか。
まず子どもについては、自分から模倣する力が弱いので、関わる人から真似してあげる事がポイントです。あちらから真似をすることが少ないので、こちらから真似をすることによって「同じ行動をしている人」として関心を持ってもらいましょう。
こだわりが強いため特徴的な遊びを展開することが多いのですが、その遊びを同じ体勢・同じ動きでしてみると、こちらから子どもの遊びの楽しいポイントを理解することができるかもしれません。
また、言葉や動きが弱い子どもに対しても、何らかの形でコミュニケーションを取るということを意識すると良いでしょう。
彼らは一見、コミュニケーションのとり方が独特に見えますが、その独特な形のコミュニケーションでも意思疎通を図ることによって子どもは「コミュニケーションを取ることが楽しい」と感じることができます。その気持ちが育つと、次第に言葉でのコミュニケーションに繋がることもあります。
また、成人の方でも基本的には考え方は変わらず、その人の取りやすいコミュニケーション方法を採用することも一つです。
ミラーニューロンとは人が模倣するための生まれながら持っている能力であること、そして自閉スペクトラム症の人たちはそのミラーニューロンが少ないことでコミュニケーションの技法を獲得することが困難であることを解説してきました。
これは障害全体にも言えることなのですが、大多数の人たちが使うコミュニケーションの方法以外のものを積極的に取り入れていくことにより共生社会が作られる、という考え方を持つことでお互いに生きやすい社会が作れるのではないでしょうか。
この解説を読んでいただいた方が、少しでも自閉スペクトラム症について理解し、共生社会が作られることに繋がればと思います。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について -厚生労働省 e-ヘルスネット
(*1)DSM-5 本文に戻る
正式名称は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」といい、米国精神医学会が発行しているマニュアルのこと。直訳すれば「精神疾患の診断と統計のマニュアル」。精神疾患について、病名や診断基準の世界共通の指標として用いられている。5は改定して第5版になっている意(執筆現在の最新版)。
(*2)サリーとアンの課題(Sally–Anne test) 本文に戻る
子どもの心の発達を診断するために用いられるテストで、「①サリーがビー玉をサリーの箱にしまう」「②サリーのいないところでアンがビー玉をアンの箱に移す」「③サリーが戻って来る」という話が与えられ、子どもに対して「サリーはビー玉で遊びたいが、まずどこを探すか?」と問うもの。
相手(サリー)の気持ちに立って考えるという能力を身に着けている子どもは、「サリーは"アンがビー玉を移したという事実"を知らない」とわかるので「サリーの箱を探す」と答えるが、自閉スペクトラム症の子どもは「アンの箱を探す」と答えることが多い。客観的に話を聞いている「自分の視点」で答えてしまうため。
(参考リンク)