微生物に乏しい環境でも生分解する "生きたプラスチック" を開発!

2024.05.17

枯草菌配合プラスチック サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、熱耐性の高い枯草菌を配合した "生きたプラスチック" の開発についてだよ!生分解性プラスチックににているけど、これは元々生物が少ない埋立地などでも分解が促進されるような仕組みとなっているよ。

 

このようなプラスチックの従来の類似品は、強度や製造工程に様々な制約があるせいで中々広まらなかった部分があるけど、今回は普通のプラスチックの作り方で "生きたプラスチック" を作れる点が優れているよ!

 

今回は、そもそも従来の生分解性プラスチックや生物を配合したプラスチックの問題点から振り返り、今回の研究がどのようにすごいのかを解説していくね!

 

生物が分解してくれるプラスチックの課題

生分解性プラスチックの課題

図1: プラスチックの課題は環境中で分解しないことなので、生物が分解可能にした生分解性プラスチックに注目が集まっているよね?でも、単に分解できるようにしたら良いというわけではなく、それはそれで課題があるんだよ。 (画像引用元番号①②③)

 

「プラスチック」は挙げきれないほど多数の用途に使われているけど、その分だけ廃棄の面に問題が出てくるよ。大きな問題の1つは、自然環境ではほとんど分解が進まず、残ってしまうことだよ。

 

そこで開発されたのが「生分解性プラスチック」だよ。文字通り、細菌などの微生物が分解できるようなプラスチックであり、自然環境で速やかに分解してくれることを特徴としているよね。

 

ただ、生分解性プラスチックが土に還るには微生物の関与が必要な点が案外ネックとなるよ。微生物が豊富な土壌に生分解性プラスチックが埋められることはほとんどないので、分解が案外進まない、という課題があるんだよね。

 

そういうわけで、じゃあ自然界の微生物に頼らず、最初から微生物を練り込んでおけばいいんじゃない?という発想も出てきたんだよね。そのような発想の下で研究されているのが「ELM (ハイブリッド人工生体材料)」だよ。

 

ELMには文字通り微生物を予め配合しておくので、例えば生体分子を利用したセンサーや薬物送達、自己修復材料やキズを速やかに治す絆創膏などの利用や研究が進んでいるよ。

 

ただ、生分解性プラスチックへの応用については、プラスチックという材料との相性の悪さから課題があったんだよね。プラスチックの製造工程は熱や圧力、強い酸やアルカリなど、生物にとって過酷な環境が存在するからね。

 

一部の細菌は「芽胞」と呼ばれる、熱や化学反応に強い状態を作り出すことができるんだけど、それでもプラスチックの製造工程での過酷な環境に耐えることが難しかったんだよね (芽胞についての詳細は後述) 。

 

そういうわけで、微生物を練り込んだ従来のプラスチック材料は、熱などをなるべく使わず製造されてたんだけど、そうなるとプラスチックの強みである強度や化学的耐性が低下してしまい、用途が広がらなかったんだよね。

 

また、熱や圧力を使えない状態では、プラスチックを製造すること自体が大変になっちゃうので、1つを作るのに時間がかかりすぎる、という時間的コストの問題もあったよ。

 

熱耐性の高い枯草菌を見つけるところから始めてみた!

枯草菌の芽胞

図2: 「枯草菌」は非常に身近な細菌で、熱耐性の高い芽胞を作ることで知られているよ。ただ、それでもプラスチックを形成する温度には耐えないので、今回は「適応実験室進化」と呼ばれる手法で熱耐性の高い株を選別したよ。 (画像引用元番号①④⑤⑥)

 

カリフォルニア大学サンディエゴ校のHan Sol Kim氏とMyung Hyun Noh氏などの研究チームは、これらの課題を踏まえた上で、微生物を練り込みつつも従来の製造工程が使えるような生分解性プラスチックの開発に取り組んでいたよ。

 

今回の研究で利用したのは「枯草菌 (Bacillus subtilis)」と呼ばれる細菌だよ。枯草菌は自然界やヒトを含めた動物の腸内にも生息し、代表的な変種に納豆菌がいるなど、非常に身近で安全性の高い細菌として知られているよ。

 

そして枯草菌は、環境が生きるのに適さなくなると、芽胞を作って休眠する代表的な細菌でもあるんだよね。それこそ近代的な生物学の起こりの頃からおつきあいのある、由緒正しい (?) 芽胞を作る細菌と言えるよ。

 

この芽胞というのは、生きるのに適さない環境を克服し、次の良い環境へ生きて辿り着くチャンスを増やす休眠状態なので、熱や圧力、酸やアルカリなどの化学反応、放射線にも耐えるくらい頑丈なんだよね!

 

枯草菌は熱に耐性のある芽胞を作る代表でもあるというか、枯草菌を枯草菌と呼ぶ理由にもなっているんだよね。その辺の歴史は本題から外れちゃうので、脚注に内容を譲るね![注1]

 

ただ、100℃の沸騰水に耐える枯草菌と言えど、さすがにプラスチックの製造工程は熱すぎるみたいだよ。熱で形を整える熱可塑の加工工程では130℃の熱に晒されるけど、枯草菌は1分以内に芽胞の90%以上が死滅するんだよね。

 

Kim氏らは、単純に枯草菌の芽胞を入れてもうまくいかないと分かっていたので、枯草菌について「適応実験室進化」という手法を試したよ。字面はいかついし内容も難しいけど、やりたいことは比較的単純だよ。

 

枯草菌の中でも、その株 (系統) によって熱の耐性は様々だよ。だから、高熱をかけても生き残る株のみを選別し、培養して増やし、さらに選別する……という作業を繰り返すと、より熱に強い枯草菌の株を入手できるわけだね!

 

またKim氏らは、枯草菌の芽胞を含ませるプラスチックとして、ポリエステル系のTPU (熱可塑性ポリウレタン) を選択したよ。これは芽胞の外側の物質がTPUと結合して強度を増すと予想しての選択なんだよね。

 

今回の実験では、TPUを135℃まで熱して帯状に形成したあと、オートクレーブで加熱処理した堆肥に置き、37℃と45~55%の相対湿度環境で、どの程度で分解が進むのかを調べてみたよ。

 

この135℃で形成というのは大きな利点で、たった15分で押し出して形を作ることができるんだよね。これは熱がかけられない従来のELMとは比べ物にならない製造速度となるよ!

 

枯草菌配合TPUの実験結果

図3: 実験の結果、熱耐性の高い枯草菌の株を配合したプラスチックは、無菌環境でも5ヶ月で90%異常が分解したよ!また、類似品の課題であった強度も向上したよ! (画像引用元番号①⑦)

 

そして分解実験の結果、微生物がほぼ全滅している、加熱処理した堆肥の中でも、約5ヶ月で90%以上が分解されることが分かったよ!これは何もいじってない野生株より、熱耐性に特化した株で優位な結果だったよ!

 

これは、135℃の熱をかけて形成したプラスチックであっても、枯草菌の芽胞が耐えて生き残ったということを意味しているので、熱をかけてもELMとしての特性を失っていない、ということになるよ!

 

滅菌処理した堆肥とは、生物に乏しいか、燃えないゴミが埋め立てられる場所と似たような状態を再現しているわけだから、これは条件が悪くてもプラスチックの生分解が進むということを意味しているよ!

 

また、枯草菌の芽胞がプラスチックを強化するという見立ても正しくて、引っ張り強度や伸縮性などの強度は、芽胞がない状態よりも上がったんだよね!

 

今までのELMは、生物の何かを入れると強度が下がるという欠点があったことから、この改善は生分解性プラスチックを普及させるための利点となりうるよね!

 

応用への課題は多いけれども期待も持てる!

今回は、枯草菌の芽胞という、生物を組み込んだプラスチックがどのように機能するのかを調べてみた研究だけど、もちろん研究はここで終わりじゃないよ。

 

例えば、プラスチックは一般的に環境に対する耐性、特に酸やアルカリに反応しないという特性を生かして使用されているわけだけど、今回の研究ではそこを調べていないよ。

 

もちろん、芽胞状態の枯草菌には耐性があることが期待されるわけだけど、プラスチックに練り込んでいる以上、一応調べてみないことには分からない部分もあるからね。

 

また、今回は適応実験室進化で熱耐性が高い枯草菌の株を選別したわけだけど、他の性質が変化しているかどうかも問題になってくるわけだね。

 

枯草菌そのものは食品に入れても安全と言われるくらいの細菌な訳で、懸念は最小限な訳だけど、人や食品に触れるような場面で使う場合には、最終的にはそこの安全性も念の為調べることが必要なわけだね。

 

さらに、芽胞を作って休眠している状態からいつ目覚め、プラスチックを分解しだすかの条件面も突き止めないといけないね。これは今回に限らず、あまり長持ちしない生分解性プラスチック全体の課題と言えるよ。

 

もちろん、どのような用途にも万能で汎用的に使えるプラスチックというのはないので、欠点があっても使い物にならないというわけではなく、むしろ用途を選別するのに必要な作業と言えるわけだよ。

 

最後に、これらの問題がクリアになったとしても、今回作ったような生物練り込みのプラスチックを市場に流すには、工業プロセスで大量生産する必要があるよね。

 

実験室で作るのと工場で大量生産するのでは、スケールアップによる思わぬ問題が見つかることもあるので、この辺も実験を繰り返して問題を見つけていくしかないよ。

 

いずれにしても、今回の "生きたプラスチック" は、熱を加えて加工でき、しかも丈夫という点で、今までの生物練り込みプラスチックと違うわけだから、この辺は今後も経過を見ていきたいところだよ!

注釈

[注1] 枯草菌の名称の由来
生物は非生物的な物質から自然発生するという「自然発生説」は、紀元前4世紀のアリストテレスの提唱依頼、17世紀半ばまで広く信じられてきました。しかしその後、フランチェスコ・レディ、ラザロ・スパランツァーニ、ルイ・パスツールなどの実験により、煮沸によって加熱した有機物から生物が自然発生しないことを確かめ、自然発生説は否定されました。こうした背景の中で、枯草を煮沸して煮出した汁からは、まるで自然発生するかのように微生物の繁殖が確認されることがジョン・ティンダルによって確認されました。枯草に付着していた微生物であることから、これが「枯草菌」と呼ばれるようになりました。なお、煮沸への熱耐性は本文の通り芽胞によるものであり、伝統的な納豆が藁で作られることもこれに関連しています。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Han Sol Kim, et al. "Biocomposite thermoplastic polyurethanes containing evolved bacterial spores as living fillers to facilitate polymer disintegration". Nature Communications, 2024; 15, 3338. DOI: 10.1038/s41467-024-47132-8

 

<参考文献>

 

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 熱可塑性ポリウレタンのペレットと枯草菌の芽胞: プレスリリースより (Photos: David Baillot/UC San Diego Jacobs School of Engineering)
  2. プラスチックゴミのイラスト: いらすとやより
  3. 食細胞のキャラクター: いらすとやより
  4. 染色された枯草菌の細胞と芽胞: WikiMedia Commonsより (Autor: WMrapids / Public Domain)
  5. 藁に入った納豆のイラスト: いらすとやより
  6. 適応実験室進化の概略図: 原著論文Fig. 2Bよりトリミング
  7. TPUの分解対照実験: 原著論文Fig. 5Aよりトリミング

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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