BMP2が生後神経回路の維持に関わっている(4月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024.05.17

BMP、Wnt、 Shhと単語を示されても一般の人には何のことかわからないと思うが、これらは私たちの体が作られる発生過程で、細胞の増殖や分化、そして形態までも支持するシグナル分子の中心に存在するファミリー分子だ。

 

当然、脳の発生にもこれらシグナルは中心的役割を演じており、例えば神経管の背側と腹側から分泌される BMPとShh は神経管内の領域を決めていることが知られている。ところが、個体発生が完成後のこれら分子の役割については解析が進んでいない。

 

本日紹介する論文

今日紹介するスイス・バーゼル大学からの論文は、完成した脳での BMPシグナルの機能も存在するはずだと検討し、抑制性神経のシナプス結合を調節している可能性を示した研究で、4月17日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Control of neuronal excitation–inhibition balance by BMP–SMAD1 signalling(神経の興奮と抑制のバランスは BMP-SMAD シグナルにより調節されている)」だ。

 

解説と考察

以前から様々な BMP が脳神経系で発現していることは知られていたようだ。この研究では BMP2、BMP4、 BMP6、 BMP7の4種類に絞って脳内での発現を調べ、BMP2がグルタミン酸作動性興奮神経で強く発現していることを特定している。また、BMP2が働きかける側の分子がパルボアルブミン(PV)を発現する抑制性神経に発現していることも明らかにしている。

 

次に、BMP2が脳内の刺激に依存して発現しているのか調べる目的で、BMP2を発現する興奮神経を抑制する PV神経細胞を遺伝学的に抑える実験を行うと、興奮神経の興奮が高まるとともに、周りの PV神経で BMP2依存的遺伝子発現が高まる。すなわち、興奮神経と抑制神経のバランスが BMP2により調節されていることがわかった。

 

次に PV神経で BMP2に反応するシグナルについて調べ、主に SMAD1 が働いていること、そしてマウス新皮質では、239種類の遺伝子に SMAD1 の調節を受けていることを明らかにしている。

 

さらにこれらのシグナルの機能的役割を調べるため、皮質上層部の興奮神経で BMP2遺伝子をノックアウトすると、PV神経とのシナプス数が低下すること、また PV神経で SMAD1 をノックアウトすると、シナプス結合が半分近くに減少し、興奮神経の発火が高まることを示している。

 

このような神経学的以上の結果、PV神経で SMAD1 が欠損すると、てんかん様の発作が見られる。このように興奮神経と抑制神経間の BMPシグナルが欠損する結果、脳へ電気刺激を与えたとき、PV神経の興奮が低下し、その結果として抑制シナプス形成が低下する結果、興奮神経はより興奮しやすくなる。

 

ただ、これは遺伝子異常を誘導した場合で、正常では興奮神経興奮により、PV神経が BMP 刺激を受け、その結果として転写プログラムが変わり、興奮神経へのシナプスが強化されることで、フィードバックループが形成されることになる。

 

通常神経のフィードバックループというと、神経興奮直後に誘導される転写因子により誘導されるシナプス変化を指すことが多いが、BMP のように遅い時間レベルでシナプスの再プログラムが起こることで、興奮と抑制のバランスの維持を確実にしているという今回の結果は、発生プログラムが生後も神経機能維持に働き続けていることを明らかにした。今後てんかんなどの研究にも重要な指摘ではないかと思う。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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