世界を彩る魔法!? 葉はどう赤くなるの?

2023.11.20

 毎日蒸し風呂のようだった夏の暑さもすっかり鳴りを潜め、過ごしやすい日々がようやくやってきた。秋最高! ビバ秋! サンキュー秋! 年中秋でいてくれ! というのは1割冗談だとして、日毎に下がる気温に乗せて、北の方から秋の便りが日々届いている。新米に果物に野菜など、味覚の秋は言うに及ばず、忘れてはならないのが山々を彩る紅葉こうようだ。本格的な冬の到来まで、少しずつ紅を濃くしていきながら私たちの目を楽しませてくれる事だろう。

 それにしても紅葉とは不思議な現象だ。春の芽吹きから半年あまりの間、青々と茂っていた葉が染め上げたように紅く色づくのはなんとも言い難いものがある。毎年繰り返されるものでありながら、何をきっかけに、どういう機序で紅葉するのか、言われてみれば説明できない。そこで今回は青々と茂る葉が、どのように紅葉するのかについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜紅葉の色素

 皆さんは、紅葉する植物の代表例といえば何を思い浮かべるだろう? 多くの方が、真っ赤に色づいたカエデと黄金色のイチョウを連想するのではないだろうか[注1]。どちらの樹も、春から夏にかけては青々とした緑色の葉をつけているにも関わらず、秋になると赤と黄にわかれてしまう。なぜだろう?

 実はカエデの葉とイチョウの葉で、葉を染めあげている色素が異なるのだ。そりゃそうだろうな、と思った? 実は葉月も、調べる前からそうだろうなと薄々思ってた。

 それでは、それぞれの葉を染めている色素とはなんなのだろう?

 実は、カエデやイチョウを染める色素は、この時期に話題になる食品に含まれている色素と同じ分類のものが含まれている。

 それぞれの葉の色素と同じ分類の色素を持つ食品がなんなのか、次の組み合わせの中から考えてほしい。

 

①カエデ-赤ワイン, イチョウ-サンマ
②カエデ-鮭, イチョウ-サツマイモ
③カエデ-赤ワイン, イチョウ-サツマイモ
④カエデ-鮭, イチョウ-サンマ

 

 答えは決まっただろうか?

 正解は「③カエデ-赤ワイン, イチョウ-サツマイモ」だ。

 カエデの葉はアントシアンという水溶性の色素により赤く染まっている[注2]。アントシアンはポリフェノールの一種で、赤ワインを赤くしているのと同じ物質だ[注3]。一方のイチョウの葉やサツマイモの黄色は、カロテノイドという脂溶性の色素によるものである。

 これらはどちらとも、紅葉前の葉を緑色にしているクロロフィルとは異なる物質だ。

 アントシアンとカロテノイドの働きにより、葉が色づいていることがわかった。しかしながら、葉は葉緑体中に含まれるクロロフィルにより緑色をしている。実際の葉の内部では、どのように緑色から染めあげる変化が起きているのだろうか?

 続いて、葉を染めあげる仕組みについて解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜紅葉の仕組み

 突然だが、あなたは経営者だ。ビックリしただろう。実はあなたは経営者だったのだ。

 いくつもの支店を抱える敏腕経営者のあなただが、残念なことにいくつかの支店で収入が支出を上回るようになってしまった。いわゆる赤字だ。さて、こんな時どうすればよいだろう。

 戦略の一つとして、支店の在庫を全て吐き出して現金に変え、店を畳んでしまうという方法がある。いわゆる店仕舞いだ。店仕舞いにより、部分的にダメージは負うが、本体にかかる負担を小さくすることができる。実は樹木も店仕舞いをしている。

 植物の葉で行われている最も代表的な活動といえばそう、光合成と呼吸だ。光合成により、植物は生育に必要なエネルギーすなわち糖を合成し、呼吸により、生命を維持している。

 植物が生命維持には必須の存在となる葉だが、一方で困ったこともある。日照時間と低温で光合成が鈍くなる秋冬の葉は、せっかく蓄えた糖をいたずらに消費するだけの負債になってしまうのだ。これを回避するため、低温を感じた樹木は葉緑体を分解して光合成を止め、さらに葉を落として呼吸量を落としてしまう。これにより樹木本体にかかるエネルギーが低減される。まさしく、店仕舞いだ。

 紅葉はこの店仕舞い間、すなわち葉緑体を分解し始めてから、落葉するまでの期間に行われる。のだが、赤と黄色で色づく仕組みが全く異なる。

 

 赤く色づく場合、葉緑体の分解と並行してアントシアンが合成される。緑が徐々に薄くなり、代わりに赤が強くなることで、赤く見えるという訳だ。

 一方の黄色の場合、カロテノイドは新生されない。新生されないのに、なぜ黄色く染まるのか疑問に思われるかもしれない。だが、最初からカロテノイドが葉に存在していたと言えばどうだろう? 実はカロテノイドは植物の葉をはじめ、光合成を行う生物が一般的に持っている分子だ。そのため、わざわざ新生する必要はないのだ。

 このように、新規に色素が合成される色の変化を紅葉といい、葉緑体の分解に伴って元々存在していた色が強くなる変化を黄葉こうようという[注4][注5]。なお、今回の記事ではまとめて紅葉として扱わせていただく。

 

 葉緑体の減少と色素のバランスによって、葉の色づき方が変わることがわかった。しかしながら、そもそも植物は何をきっかけに紅葉を開始するのだろうか?

 続いて、樹木が紅葉するきっかけについて解説させていただく。

 

 

もっと専門的に 〜紅葉のトリガー

 樹木が何をきっかけに紅葉しているのか、すでになんとなく思うところはあるだろう。紅葉は、夏が終わり秋が深まると色づき始める。したがって温度の低下が原因だと考えるのが自然だ。

 実はこの推測は正しい。樹木は低温によって紅葉が誘発され、色づくことが知られている[注6]。しかしながら、一口に低温と言っても色々な条件がある。日中は寒いのに夜はあまり冷えない日もあれば、反対に日中は汗を掻く程暑いのに夜は震えるほど寒くなる日だってある。もちろん、一日中寒い日だってある。

 それでは一体、どんな時間帯の温度を参考に樹木は紅葉しているのだろう? 下の組み合わせから少し考えてほしい。

 

時間帯: ①. 全日 ②. 日中 ③. 夜間 ④. わかっていない

温度 : A.1日の低温 B.連続した低温 C.低温の積算量 D.わかっていない

  •  時間帯:日中と夜間というと分かりづらいかもしれない。光量が多い時間帯と少ない時間帯だと考えてほしい。

     温度 : 秋の気温は気まぐれだ。ポカポカ陽気の翌日に、風邪を引くような寒さになることもある。どうすれば確実に寒くなったと言えるだろう?

 

 それでは正解の発表といこう。現在の答えは「③-D」。すなわち、夜間の低温がキッカケであることはわかっているが、どのように低温を感じ取っているかは現時点ではわかっていないのだ[注7]。とはいえ、全く何もわかっていない訳ではない。

 実験や観察により、3週間程度低温が連続する、夜間の低温の積算量がある値になる等の条件が考えられている。私たちが夏場に1日だけ冷える日があっても秋の訪れを実感しないように、植物もまた低温をしばらく感じることで秋の訪れを感じ取っているのだ。

 

 ここまで、紅葉のメカニズムについて解説してきたが、いかがだっただろうか? これから本格化する紅葉のシーズンを前に、皆さんオススメの紅葉狩りスポットがあることだろう。体調の変化に注意して無理せず秋の色彩を楽しんでほしい。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが色素に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜色素のあれこれ

病巣を見つける

 私たちの日常には、何かを色で判断する場面が多くある。葉が色付けば秋を実感し、信号が赤になれば移動を止め、空の色でおおよその時間帯を把握する。使用期限の終わりを色の変化で伝えてくれる消耗品というのも珍しくない。視覚情報が、それだけ多くの情報を持っているということだ。その情報量の多さは、医療の分野でも大いに力を発揮している。

 困った事に、私たちは生きている間ずっと、何らかの病気のリスクに脅かされている。罹っていた事にすら気づかない些細なものから、生命に関わる重篤なものまで様々だ。だが、どんな病気であれ、私たちの体を構成する細胞は何らかの変化を起こしている。

 病気の細胞を色素で染め、病気の早期発見に役立てようという研究がある。すでに癌などの検査に利用されている手法だが、コンピューターやカメラ、そして色素の性能向上により現在も進化している。

色移りを防ぐ

 私たちの生活に彩りを与えてくれる色素だが、時に困った仕事をやらかしてくれる。色物の衣類を洗濯した際に、一緒に洗った他の生地に色移りしてしまった、という失敗をしたことはないだろうか? お気に入りの服に妙な色がつくと、それだけで気持ちが凹んでしまう。強い漂白剤を使えば色は落ちるかもしれないが、繊維へのダメージや元の色も落ちてしまうという問題もある。

 色移りをさせにくい漂白剤が研究されている。そもそも色移りは、すすぎの際に生地から抜け落ちた色素が別の生地にくっついてしまう現象だ。そこですすぎ水に漂白剤を加え、抜け落ちた色素を分解することで色移りを防ぐ。大豆の食べない部分から精製した色素分解酵素を利用することで、エコロジーかつ少ダメージな漂白剤を作ろうという試みだ。

参考文献

  • 堀 大才ら. 『樹木学事典』. 講談社.

  • 塩井 祐三ら. 『ベーシックマスター 植物生理学』. オーム社.
  • 松本 太. 『紅葉の季節学』. 日本生気象学会雑誌 2013年 49 巻 4 号 141-148.
  • Simcha Lev-Yadun. “The phenomenon of red and yellow autumn leaves: Hypotheses, agreements and disagreements”. J Evol Biol. 2022 Oct;35(10):1245-1282.
  • Susanne S Renner, Constantin M Zohner. “The occurrence of red and yellow autumn leaves explained by regional differences in insolation and temperature”. New Phytol. 2019 Dec;224(4):1464-1471.
  • Aakansha Kanojia, et al. “Primary metabolic processes as drivers of leaf ageing”. Cell Mol Life Sci. 2021 Oct;78(19-20):6351-6364.
  • 北尾 光俊ら. 『ハウチワカエデ紅葉期のアントシアニンの挙動と役割』. 日本森林学会大会発表データベース 134 (0), 9-, 2023-05-30.
  • Marco Archetti, Sam P Brown. “The coevolution theory of autumn colours”. Proc Biol Sci. 2004 Jun 22;271(1545):1219-23.
  • 池松 弘明ら. 『早期大腸癌の深達度診断:色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡』. 日本消化器内視鏡学会雑誌 2022年 64 巻 9 号 1596-1606.
  • 藤本 明弘ら. 『大豆非可食部から抽出した未精製ペルオキシダーゼ による色素退色反応』. 日本家政学会誌 2019年 70 巻 6 号 339-345.

脚注

[注1] イチョウといえば、雌雄がある樹木という事でも知られている。イチョウの実、すなわち銀杏はメスの樹がつけるのだが、葉月の通っていた中学校の一年生の教室のすぐそばにメスのイチョウの樹が生えていた。ところで寒い時期になると窓を開けた換気が呼びかけられるものだ。そこから先は……察して。 (本文へ戻る)

[注2] 「アントシアンじゃなくてアントシアニンじゃないの?」と思われた方も多いかもしれない。実はアントシアンは糖が結合することがあり、糖が結合した状態のアントシアンをアントシアニンと呼ぶのだ。アントシアニンのようにある物質に糖が結合した状態の物質を、配糖体という。 (本文へ戻る)

[注3] ポリフェノールのポリは「同じものがたくさん連なった」という意味だ。ここから屁理屈をこねると「ポリ袋」は「袋がたくさん連なったもの」という事になり、スーパーのサッカー台にあるロール状の袋などをさす事になる。が、こういう事を言うと間違いなく面倒臭く思われるので黙っていよう。 (本文へ戻る)

[注4] そもそも2つの色素の役割はなんだろう? アントシアンは樹木が回収しきれなかった糖から合成されるもので、不要な光合成により糖濃度が上昇するのを抑制していると考えられている。一方の、カロテノイドは光合成に関与する物質で、光エネルギーの授受をコントロールしていると考えられている。 (本文へ戻る)

[注5] ところで葉の色変化といえば、枯れて褐色になるパターンもある。これは褐葉かつようといい、アントシアンやカロテノイドが酸化分解されることが原因と考えられている。緑→赤・黄→褐という色の変化があらゆる葉の一生なのだ。 (本文へ戻る)

[注6] もっとも、これは「秋の紅葉」の場合の話だ。実際の樹木は低温の他、紫外線や乾燥、病害虫の影響など様々な要因で紅葉し、条件次第では夏場に色づくことも知られている。とはいえ、今回は「秋の紅葉」をテーマにした記事なので、今回はその辺りは省かせていただいた。 (本文へ戻る)

[注7] それどころか、どれくらいの温度になれば色づき始めるのかという目安も様々な説があり、ハッキリとしていない。植物種によって違いはあるだろうが、一桁台程度の日がしばらく続いたら紅葉する、くらいに考えておくと良いかもしれない。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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