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みなさんはこの記事をどうやって読んでいるだろうか? 多くはパソコンかスマートフォンだろう。ちゃんと読めているだろうか? 読み込みが異常に遅くなったりはしていないだろうか?
という訳で、毎年10月は受信環境クリーン月間だ。受信環境クリーン協議会が中心となって、電波障害防止に向けた様々な活動をしている……らしい。
TV・ラジオにスマートフォン、家庭用の無線LANルーターに至るまで、現代を生きる私たちの身の回りには、電波による情報のやりとりを必須とするもので溢れかえっている。もはや、ライフラインと言っても過言ではない電波だが、直接触れているわけでもないのに何かとつながるというのはまるで魔法だ。そこで今回は、電波がなぜ情報をやりとりするのに利用できるのかについて解説していく。
キーワードは『波』だ。
CONTENTS
電波が何なのかを考える前に、こんな実験をしてみよう。用意するものは、乾電池と導線、そして方位磁針だ。
やり方は簡単で、方位磁針の針と水平になるように導線をピンと張り、両端を乾電池に繋ぐだけだ。すると、方位磁針の針がわずかに揺れることが分かるだろう。言わずと知れた、電磁誘導の実験だ。
電場があるところに磁場は生まれる。磁場が動くところに電場が生まれる。電場と磁場は常に一対で表裏一体の存在であることは、ご存知の通りだ。考えて欲しいのはここからだ。
乾電池と導線を繋ぐと、電場と直交するように磁場が生じる。ここまでは良い。それではその磁場からは電場は生じないのだろうか?
答えは生じる。
導線や磁石があまりにも分かりやすいため勘違いしがちだが、電場や磁場は物体の内部にあるものではなく空間に出来る場だ。そのため、導線のない場所に磁場から出来た電場が出来る。さらにその電場は磁場を作り、さらにその磁場は……と続いていく。
乾電池を交流電源に換えるとさらに顕著になる。
交流電源では流れる電流の向きが常に入れ替わっている。つまり電場や磁場の向きが一定時間ごとに正反対に向くのだ。そのため、一層ごとに向きの正反対の場が生じることになる。この時、元の電場や磁場を山だとすると、2層目は谷、3層目は再び山、4層目は再度谷……という、波を形成する。
こうして出来る電場と磁場が作る波のことを電波という[注1]。電波は電場を持っているため、回路に接触すれば回路が動くのは当然と言えるだろう[注2]。
電波が交流電源によって作られるということが分かった。電波を利用すれば、非接触による給電も行なうことができる。しかしながら、私たちの生活に利用されている電波には、電場と磁場だけではない大切なものが含まれている。すなわち情報だ。これはどこに含まれているのだろう?
続いて、電波による通信がどのように行われているのかを見てみよう。
そもそも私たちは普段、情報をどのようにやりとりしているのだろう? 簡単のために、糸電話を思い出してほしい。
2つのコップがピンと張られている時、相手の声はクリアに聞こえる。しかしながら、糸と弛ませたり、糸を掴んだりすると突然声は聞こえなくなってしまう。声の振動、すなわち音波がこちらのコップまで正常に伝わらなくなるためだ。
そう、私たちは普段、情報を波に変えてやりとりしているのだ。これは何も音波だけではない。世界を見るための可視光も、光子の作る波だ。大げさに言えば、耳や目などの受容器はそれぞれの波に特化した受信端末にすぎない。
耳や目が音波や光子に特化した波の受信端末であるならば、電波を受け取れる端末ならば情報を扱えるということになる。これが私たちが使っているスマホでありTVだ。
しかしながら、スマホやTVで扱う情報というのも元は音や光だ。波の種類が違うため、送信側では電波に変換、受信側では電波から変換する必要がある。このように、発信側の信号を電波に変換することを変調、受信側が電波から電気信号に戻すことを復調という。
つまり電波による通信とは、変調した電波を復調することだったのだ[注3][注4]。
変調と復調により、私たちは扱いたい情報を電波として、長距離でやりとりすることを可能としていることがわかった[注5]。しかしながら私たちが普段扱っている情報はとても複雑で、山と谷だけの単純な波の形をしていない。一方で、交流電源を流すことで発生する電波は、同じ振幅の山と谷だけだ。それでは電波はどのように作られているのだろうか?
続いて、波が作られる過程を見ていこう。
こんなことをしてみよう。ロープの片端を固定したままピンと貼り、もう片端を持って軽く振ってみる。手元から波が伝わり、向こうの端まで伝わるのが分かるはずだ。
それではそれぞれの端を2人で持ち、同じように振ってみるとどうだろう? もちろん、それぞれの手元から発生した波はロープを伝っていく。さて、2つの波はいずれぶつかるわけだが、山や谷はどうなるだろう?
実は2つの波がぶつかると、波は変形する。山と山がぶつかったところでは山は高くなり、谷と谷がぶつかると谷はさらに低くなる。そして山と谷がぶつかると中間の高さになる。干渉という波の性質だ。
電波もまた波であるため、ぶつかりあった波は干渉し変形する。しかしながら、それで自由自在に情報を含んだ波として扱えるのかというとピンとこないかもしれない。確かに、例にしたような2つの波の合成では、あまり自由度は上がらないだろう。しかし10個の波ならどうだろう? 100個、1000個……と増えれば、あらゆる波が表現できそうだ。
実際の電波の運用では、細かな電波をいくつも重ね合わせて元の情報に近い電波を作り出している[注6][注7]。
ここまで、電波を使った情報のやりとりについて解説してきたが、いかがだっただろうか? スマホを触りながら、どのような信号がどう電波に変換されているのかを想像してみるのも面白いかもしれない。
最後に、記事の趣旨からは少し外れるが電波の悪影響に対する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。
私たちの生活を少し見回せばわかるように、電波はあらゆる場所をとびかっている。いや、不可視だから見てもわからないんだけど。多くの電波がとびかえば、当然電波に起因する問題も発生する。それらの多くは日常生活が少し不便になる程度のものだが、中には生命に直結する重大な問題に繋がる場合もある。
医用テレメーターという装置がある。遠隔地の患者の測定データをモニタリングし、送信するための装置だ。当然、送信される電波にノイズが乗るとデータを正しく把握することが出来ない。
データに含まれるノイズの影響を把握するため、リアルタイムに電波環境を把握しようという研究がある。医療従事者や医療機関など、電波を専門的に扱わない人たちでも扱えるようにするにはどのような工夫が必要かが議論されている。
私たちの身の回りをとびかう電波は、必ずしも通信する機器からだけ発生しているわけではない。むしろ電気を必要とするあらゆる物から発生していると言ってもいい。中でも発生源として問題となるのがモーターだ。モーターは換気扇や洗濯機、扇風機など動力を必要とする機械にはなくてはならない存在だが、電磁ノイズとして電子機器に悪影響を与えることが知られている。
電気自動車のモーターから発生する電磁ノイズを対策するため、様々な方法が考案されている。車体のプラスチック材料に金属チップを混ぜることで電波が外部に漏れるのを防ぐ方法や、電波を吸収する材料を車体に配置する事で電波を吸収してしまう方法などだ。
クリーンな電波環境を作るために、越えるべき壁は多いようだ。
数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
井上 伸雄. 『「電波と光」のことが一冊でまるごとわかる』. ベル出版.
唐沢 好男. 『改訂 ディジタル移動通信の電波伝搬基礎』. コロナ社.
石田 開. 『医療機関における簡易電波環境測定手法の提案』. 生体医工学 2021年 Annual59 巻 Proc 号 710-712.
鈴木 洋介. 『電磁波シールド・電波吸収体の最新評価技術』. 表面技術 2019年 70 巻 11 号 546-550.
[注1] 音の速度は秒速約340 mで、光の速度は秒速約30万 kmということはよく知られている。それでは電波の速度はどうだろう? 実は光と同じ秒速約30万 kmだ。なぜなら電波も光も電磁波の一種だからだ。というわけなので、遠くの人との会話は素直に電話した方が早い。喉も痛まないし。 (本文へ戻る)
[注2] 電波を実験で初めて発見したのは、周波数の単位Hzにも名を残すヘルツだ。ヘルツは電波を何の役にも立たないものと思っていたようだが、今日の生活は電波なしには成立しない。葉月も単位になるような偉業を残したい。その時はHdでお願いします。 (本文へ戻る)
[注3]この説明では、一度発せられた電波はあらゆる媒体にでたらめに受信されてしまうことになる。しかしながら、電波の波長と送受信しやすいアンテナの長さには密接な関係がある。簡単に言えば、波長が短い電波ほどアンテナが長く、波長が長くなるとアンテナは短くなるというものだ。 (本文へ戻る)
[注4] 実際の電子機器は電気信号の形で情報を扱っているので、元の情報を変調の前に電気信号に変える必要がある。これを符号化という。反対に、復調後に電気信号から元の情報に戻す作業を復号化という。符号化や復号化の方法は、扱う媒体によって変わるので今回は省かせてもらった。 (本文へ戻る)
[注5] 例えば光線はまっすぐにしか進めないので、地平線や水平線の向こう側に届かない。しかしながら、電波は電離層と呼ばれる大気の層と地表との間で反射するため、遠くまで届けることができる。電波が通信の主流となっている理由の一つだ。 (本文へ戻る)
[注6]近いと表現したのは、完璧に元の信号通りの波を送っているわけではないからだ。なぜって全ての波が波形に大きな影響を与えるわけではない上に、大変だからね。そのため、波形への影響が小さい波をカットし、一定範囲の波だけで合成している。この範囲を周波数帯域幅という。 (本文へ戻る)
[注7] どのような周波数の電波を使うのかについては、使途によって異なる。例えば電話によるやりとりの場合、端末から基地局、基地局から端末で異なる周波数の電波を使っている。混線や減衰を回避するためで、プラチナバンドと呼ばれる周波数だ。 (本文へ戻る)