くっきりバッチリ世界を見よう! 目はどうやって見ている?

2023.10.10

 長すぎた夏の気配が移ろい、ようやく秋の気配が顔を出しつつある。秋は様々な側面を見せる季節だ。有名なところでは、食欲の秋、スポーツの秋、そして芸術の秋というのもある。芸術を鑑賞するにも創作するにも、目はとても重要な存在だ。それを意識して……という訳ではないようだが、10月01日は「メガネの日」、10月10日は「目の愛護デー」、そして両者を含めた10日間を「目とメガネの旬間」として制定されている。

 しかしながら目というのはとても不思議な存在だ。直径数 cmほどの球体でありながら、これが無ければ私たちは、息を呑む程の絶景も世界が変わる決定的な瞬間も見ることは出来ない。まぁ、散々に散らかった部屋も見えちゃうんだけど……。それでは、私たちの目はどうやって色彩豊かな世界を捉えているのだろう? そこで今回は、私たちの眼球が光を受け取る仕組みについて解説していく。

 

少し詳しく 〜眼とカメラ眼〜

 突然だが問題だ!

 レンズを動かしてピントを合わせ、入ってきた光を内部に投影する、私たちの身近な物といえばなんだろう?

 

 簡単な問題なので、正解はもちろん皆さんお分かりだろう。そう、カメラだ。

 カメラ付き携帯端末の普及によって、すっかり身近な存在になってしまったのは皆さんご存知の通りだ。

 ……さて、こんな意地悪クイズのような導入をしていてはお叱りを受けそうなので、眼球についての真面目な解説をしよう。とはいえ、眼球の仕組みについて解説をする時、カメラほど例えに向いた存在も無いだろう。光を捉える仕組みが、ほぼ同じだからである。どういうことだろう?

 繰り返しになってしまうが、カメラはレンズを動かしてピントを合わせ、入ってきた光を内部にあるフィルムに投影し感光する装置だ。そのため、レンズとフィルム、そしてフィルムを閉じ込めておくための外箱さえあれば、必要最小限のカメラとしては成立する[注1]

 実は私たちの眼球も同じだ。私たちの眼球には、瞳孔と呼ばれる光を通すための孔が空いている。瞳孔には水晶体と呼ばれるレンズが嵌められており、これが光を集める。とはいえ、カメラのようにレンズを前後に動かすのではなく、ピント調節は厚みを変化させることで行なっている。水晶体を通った光は眼球内の内壁にある網膜に投影される。この光の刺激が視神経を通して脳に伝わる事で、私たちはものが見えたと認識している訳だ。

 水晶体はレンズ、網膜はフィルム、そして眼球本体は外箱に相当すると考えると、眼球の構造はまさしくカメラだとお気づきいただけるだろうか[注2]? そのため、私たちの眼球をカメラ眼と呼ぶ[注3]

 

 

 瞳孔から入った光が網膜で結ばれることで、私たちは物を見ているのだということがわかった。それでは網膜はどのように像を認識しているのだろう?

 続いて網膜上で起きる反応についてみていこう。

 

さらに掘り下げ 〜眼と視細胞〜

 皆さんは、グリザイユ画法という絵画の技法をご存知だろうか?

 例えば赤いボールを塗る時を想像してみてほしい。赤いボールと一言で言っても、使用する色の数を細分化すれば無数にある。直接光が当たる明るい場所、陰になっている暗い場所、そしてそれらの中間などだ。これらの色を全て用意するのではなく、灰色による陰影の上にベースとなる色を重ね合わせる事で塗るのがグリザイユ画法だ。光と色を分けて考える手法、と言っても良いかもしれない[注4]

 このグリザイユ画法の考え方が、私たちの目でも行われている。

 

 私たちの網膜上にある、光を受容する細胞を視細胞という。

 視細胞には、主に光を高感度に捉える桿体かんたい細胞と、主に色を捉える錐体すいたい細胞の2種類が存在する。さらに錐体細胞は反応する色の種類から、赤錐体細胞、青錐体細胞、緑錐体細胞等に分けられる[注5]。赤錐体細胞だけが反応する時は赤く見え、青錐体細胞だけが反応する時は青く見える、といった具合だ。様々な色は、各錐体細胞がどれだけ働くかのバランスによって認識されていると考えられており、この考え方を三原色説という。

 さて、光を捉える細胞と色を捉える細胞が揃った。どれだけ光が出ているか、どんな色が出ているかを別々に受け取り、統合して処理することで、私たちは色彩豊かな世界を知覚することができている。

 

 色と光量の組み合わせにより私たちは色彩豊かな世界を認識していることがわかった。しかしながら、そもそも視細胞はどれだけ光を受け取ったのかをどのように判断しているのだろう?

 続いて視細胞の中で起きる反応について解説していく。

 

もっと専門的に 〜眼と視物質〜

 産業総合研究所の開発した『至高の暗黒シート』というシートをご存知だろうか? 何やら厨二心を刺激する名前だが、実態としてはファンタジーめいたものは何もない黒いシートだ。とはいえ、普通の黒シートとは一味違う。何が違うって、黒さが違う。凹凸すら判断できないほどに黒いのだ。光を99.98 %以上も吸収するという構造により、レーザーポインターの光すら見えなくなるのだという[注6]

 光を吸収した物体は、見ることが出来ない。裏を返せば、私たちの視細胞が反応するためには、物体から発せられた光を吸収する必要があるという事だ。

 

 私たちの視細胞の中には視物質という、光を吸収するためのタンパク質が存在する。

 視物質は普段光を吸収可能な状態になっているが、対応する光を吸収すると視細胞中の伝達物質が放出され、視神経に働きかける。この際、視物質は光を吸収しない状態に変化しているが、再度光を吸収可能な状態に戻す事で、何度でも応答可能になっている。このように視物質により、光に対して反応のON/OFFを切り替える過程を退色反応という。

 退色反応により反応した視神経は反応の間隔を、刺激の大きさに変換して脳に伝える。頻度が多く、反応の間隔が短いと刺激が強い、すなわち強い光や鮮やかな色だとして脳内で処理するといった具合だ。

 

 

 ここまで、眼球が光を受け取る仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 目は一生頼りにする案内役ガイドである。目を酷使しがちな現代だからこそ、たまには目を労って、いつまでも美しい世界を見ながら生活していきたいものだ[注7]

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが、見えないものを見る研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜見えないものを見る〜

負荷を見る

 肉体労働でもデスクワークでも、肉体の健康というのは万事のスタート地点だ。腰、肩、膝など、日頃からのケアを怠っていると、数年後に代償を払うことになるというのは実際に体験したことがある方もおられる事だろう。とはいえ、いざ自分が何か作業をするとなると、ついつい疎かになりがちなのも事実だ。体を蝕む負担は、小さな蓄積によって引き起こされるからだ。

 作業中の作業者の体で、どこに負荷がかかりやすくなっているかを可視化しようという研究がある。作業の様子をカメラで撮影することで、負担がかかっている場所をリアルタイムに視覚化しようという試みだ。負担の様子を視覚化し、長く健康な生活を過ごせるように期待したい。

音を見る

 私たちが生活をする上で、最も頼りにしているのは視覚情報だ。しかしながら、それ以外の情報を全く活用していない訳ではない。特に音は、車の走行音、人々の足音、家電用品の警告音など、視覚外からの情報を伝える大きな役割を担っている。そのため、聴覚に障害が生じるとこうした情報が得られず、生活に支障が生じる事は想像に難くない。

 環境音を可視化する事で、聴覚障害者の補助に役立てようという研究がある。検出した音を環境音や騒音、音声などに分類した上で、スマホやスマートグラス上に表示し可視化する事を目指している。音が聞くものから見るものになる時代も、いずれ訪れるかもしれない。

 

 

参考文献

  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.
  • Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 『組織細胞生物学 原書第5版』. 南江堂.
  • Paul Davidovits. 『生物学と医学のための物理学 原書第4版』. 共立出版.

  • Bruce Albertsら. 『Essential 細胞生物学 原書第3版』. 南江堂.
  • David A Atchison, Larry N Thibos. “Optical models of the human eye”. Clin Exp Optom. 2016 Mar;99(2):99-106.
  • 橘木 修志, 河村 悟. 『暗所視と明所視の分子メカニズム −桿体と錐体の光応答特性を決める仕組みの探索−』. 比較生理生化学 2017年 34 巻 3 号 70-79.
  • 産業総合研究所
  • 田河 琴音ら 『身体負荷可視化用AIカメラの開発』. 人間工学 2022年 58 巻 Supplement 号 2D2-06.
  • 大姶良 義将. 『痛みのイメージを視覚化するデジタル痛み評価ツールの有効性の検討』. 日本感性工学会論文誌 2020年 19 巻 4 号 405-411.
  • 錦織 勇人ら. 『聴覚障がい者のためのスマートグラスを用いた音声・環境音の可視化システムの構築』. 第83回全国大会講演論文集 2021 1 809-810 2021-03-04.
  • 浅井 研哉ら. 『聴覚障害者支援のための環境音可視化システムの開発』. 研究報告アクセシビリティ(AAC)2019-AAC-9 5 1-8 2019-03-01.

 

脚注

[注1] ちなみにもっと要素を減らそうと思ったら、レンズすら不要で針先ほどの小さな孔さえあれば良い。ピンホールカメラと呼ばれる、カメラの原型だ。詳しい原理については省かせていただくが、絵画『牛乳を注ぐ女』などで知られるフェルメールが、絵を描くために使用した事でも知られている。 (本文へ戻る)

[注2] カメラには光の量を調節するための、しぼりと呼ばれる機能がある。この機能も私たちの眼球に標準搭載されている。どこまでもカメラにそっくりな眼球だが、カメラ眼が誕生した方がカメラが生まれるより遥かに早いはずなので、むしろカメラの構造のことを眼カメラと呼ぶべきなのかもしれない。 (本文へ戻る)

[注3] カメラ眼という名前がわざわざ付けられているということは、当然カメラ眼では無い眼も存在する。代表的なのは、昆虫などの節足動物が持つ複眼だろう。どのように光を捉えているのかは、いずれの機会にという事で。 (本文へ戻る)

[注4] 本来は油絵の技法なのだが、デジタルイラストの普及に伴ってデジタルでも広く行われるようになった。陰影の情報はすべて灰色で行うため、色を簡単に変えられるというメリットがある。葉月もやってみようと思って何度か挑戦し……まぁ、うん。 (本文へ戻る)

[注5] 反応する色の波長の長さで分けて、赤錐体細胞をL錐体細胞(Long)、緑錐体細胞をM錐体細胞(Middle)、青錐体細胞をS錐体細胞(Short)ということもある。ポテトのサイズみたい。 (本文へ戻る)

[注6] 農業用のマルチシートかと思ったが、調べてみると太陽光パネルや光センサーなど、光の散乱を抑えて効率的に光を吸収したいような場所への利用を想定されているようだ。こういう事をパッと思いつけるようになりたい。 (本文へ戻る)

[注7] なにより目から来る頭痛はヤバい。あれはあらゆる行動意欲を消滅させる。みんなも気をつけてね! (本文へ戻る)

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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