アイスクリームの独特な「食感」はどうやって生まれている?科学的に分かりやすく解説します

2023.08.21

 清少納言だって「夏は無理」と言うと思われる今日この頃、皆さんいかがお過ごしだろうか? 葉月は今日も元気にダウンしております。夏の終わりにはカピカピの干物になっているかもしれない。

 皆さんも水分補給と暑さ対策は十分にして、残暑を乗り切っていただきたい。作戦は「命大事に」で。

 暑い夏を乗り切るのに欠かせないものといえば、そう、アイスクリームだ。カップにモナカ、そして定番のコーンに入ったものなど、味も形も様々なものが売られている。

 しかしながら、アイスクリームという食べ物は不思議な存在だと思う。氷のように冷たい一方で、カスタードクリームのようにスプーンで簡単に掬い取ることができる。固体のような、液体のような、不思議な食感はどのようにできているのだろうか? そこで今回は、美味しいアイスクリームの食感がどのように出来ているのかを解説していく。

 キーワードは『粒径』だ。

 

 

少し詳しく 〜粒径と滑らかさ〜

 突然だが、皆さんはビーズクッションをご存知だろうか? 体が吸い込まれるような、不思議な感触が魅力のクッションだ。ビーズクッション特有の感触は、敷き詰められたビーズの細かさにある。細かなビーズが柔軟に動くことで、体にフィットするためだ。同じ体積に大きめのボールを敷き詰めたものがどんな感触になるかを想像してもらえれば、わかりやすいかもしれない。

 いきなり、アイスクリームから程遠い話題になってしまった。しかしながら、アイスクリーム特有の食感を語る上で、物体の大きさはとても重要な要素だ。

 とても極端な言い方をしてしまえば、アイスクリームとは牛乳を冷やし固めたものだ[注1][注2]

 牛乳の中には、水分や可溶性成分だけでなく、脂質やタンパク質などの固形成分も含まれている。アイスクリームでは、これらの成分が数 μm程度の小さな粒子を作っている。

 小さな粒子が無数にある食品では、食感が滑らかになることが知られている。全体がまるで液体のように柔軟に形を変えるためだ。ビーズクッションは簡単に形が変わり、肌にも馴染むが、ボールを詰めた袋は形が変わりづらいのと同じことだ。そのため、粒径は小さい方が滑らかになる。

 このような小さな粒子をコロイドといい、アイスクリームのように無数のコロイドが集まって固形状になったものをゲルという。

 粒径の小さなコロイドをたくさん作ることが、アイスクリーム特有の食感に繋がることがわかった。とはいえ、牛乳をそのまま凍らせたのでは、牛乳シャーベットにしかならない。この違いはなんなのだろう?

 続いて、牛乳がどのようにコロイドを形成しているかについて解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜粒径とフリージング〜

 そもそも牛乳を凍らせただけでは、牛乳シャーベットになってしまう理由はなんだろう?

 実は、単に牛乳を冷凍庫に入れただけでは、牛乳中の水分が一つの巨大な氷になってしまう。そのため、ゲル化していない牛乳シャーベットになってしまうのだ。

 それでは、巨大な一つの結晶になるのをどのように防げば良いのだろうか?

 突然だが、ご家庭の冷凍庫に入っている氷を思い出してほしい。恐らく、一口サイズの氷が冷やされていることだろう。それらの氷は、冷凍庫で冷やされている限り一口サイズのままだ。ある日突然くっつきあって、巨大に成長したりはしない。

 小さい氷が小さいままなのは、氷結晶の成長には液体の水が必要だからだ。すなわち、小さな氷を無数に作ってしまえば、巨大な一つの結晶になるのを防げるということだ。

 このように、牛乳中の水分を無数の氷のコロイドにする工程をフリージングという。フリージングにより、アイスクリームは滑らかな食感になる。実際のアイスクリーム作りでは、原材料を-3 〜 -6 ℃で冷やしながら、空気を巻き込むように混ぜることで、フリージングを行なっている[注3][注4]

 

 フリージングにより、無数の氷のコロイドを作り出せることがわかった。とはいえ、アイスクリームに求められる氷の結晶の大きさは1 – 2 μm程度の小さなものだ。混ぜながら冷やすだけで、どうしてそんな小さなサイズの結晶が出来るのだろう?

 続いて、実際のフリージング工程でどのように氷の結晶が作られているのか見てみよう。

 

 

もっと専門的に 〜粒径と結晶生成〜

 とても当たり前のことだが、よく冷えた容器に水を注ぐと、容器の内壁に接する外側の方が早く冷える。何を当たり前のことを、という感じだ。フリージングの話に戻ろう。

 フリージング工程では、容器自体を冷やしながら、プロペラ状の部品で攪拌かくはんしている[注5]。とはいえ、冷えた容器に入れられた材料をひたすら混ぜ続けていても、外側ばかり冷えて固まってしまう。そこで、容器の内壁に出来た氷の層は、掻き取られて内側に運ばれる。

 この、「外側で冷え固まる → 掻き取られて内側に運ばれる」というのが、フリージングの基本的な流れだ。

 それでは氷のコロイドはどのように生成されるのだろう? 実を言うと、氷結晶の詳細な生成プロセスは明らかになっていない。現在考えられているのは、掻き取られた氷が容器との間に発生する摩擦熱や内外との温度差により溶けることで、粒径が段々と小さくなり氷のコロイドになるというものだ。

 こうして、氷の結晶を作っては溶かしを繰り返すことで、フリージングによる氷コロイドの生成が完了する。

 

 とはいえ、フリージングが終わったらアイスクリームの完成ではない。フリージング後の水分のうち60 〜 70 %はまだ液体で、全体としてはしっかりと固まっていないからだ。この後、-18 ℃以下のさらなる低温で冷やし固めることでゲル化させ、ようやく私たちがよく知るアイスクリームになる[注6]

 ここまで、アイスクリーム特有の食感がどのように出来ているかについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 食感を作る要因について絞って解説したため、実際のアイスクリーム作りの工程からは色々と省略させてもらった部分がある事はご理解いただきたい。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが食感の評価に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜食感を評価する〜

音で評価する

 サクサク、バリバリ、ポリポリ。固形状の食品を食べる際には欠かせない音だ。「このポテチ、ザクザク感がすごくてかなり美味しかった」「この漬物、あんまりポリポリしなくていまいちだな」等のように、音と食事の満足感には重要な相関関係がある。しかしながら、食感の評価は難しく、熟練の技術を要する。

 音から食感を評価しようという研究がある。食品の破砕音をマイクで録音し、実際に食べた感覚と照らし合わせることで、破砕音と食感の関係を分析する試みだ。音という客観的かつ簡単に取得できる情報を使うことで、容易に客観的な評価が可能になるかもしれない。

機械学習で評価する

 私たちの生活を彩る食事は、同じ物を食べていても一口一口微妙に食感が異なる。「この肉、脂身が多くて噛みきれない」「このじゃがいも、生煮えだ」こんな経験がある人は多いだろう。形状や状態が、食感を変化させたためだ。そのため同じ食品でありながら、形状が違うために実験結果が大きく変わることも珍しくない。

 形状や状態が食感に変化を与えるなら、逆に実験結果から形状や状態を推察しようという研究がある。形状と実験結果のペアを学習させることで、機械学習を用いて形状を推測しようという試みだ。AIと食の融合により、より一層美味しく感じられる形状や状態が見つかるかもしれない。

参考文献

  • 井上 恵介. 『「フリージング工程によるアイスクリームの品質制御」』. ミルクサイエンス 2010年 59 巻 1 号 37-47.

  • 櫻井 一美. 『平成期におけるアイスクリーム産業の衰退と再成長の背景』. 日本食生活学会誌 2020年 31 巻 1 号 21-28.

  • 上羽 瑠美ら. 『市販アイスクリーム類の食品テクスチャー特性の経時的変化について』. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 2019年 23 巻 1 号 44-47.

  • 宮脇 長人. 『食品における凍結と氷結晶構造について』. 日本食品科学工学会誌 2021年 68 巻 6 号 255-266.

  • 厚生労働省HP

  • 杉山 妙, 村野 賢博. 『“音”による食感の可視化』. オレオサイエンス 2020年 20 巻 11 号 515-520.

  • 武政 誠. 『機械学習による食感分析』. 日本調理科学会誌 2021年 54 巻 6 号 289-290.
  • 中濱 信子ら. 『改訂新版 おいしさのレオロジー』. 株式会社アイ・ケイコーポレーション.

脚注

[注1] もちろん実際には、各種フレーバーや砂糖などの添加物も含まれているし、製造上には様々な段階が挟まれている。だが、その辺をちゃんと書こうとするとまとめきれないので、ここでは割愛する。決してアイスクリーム業界を敵に回したい訳ではないのでご理解いただきたい。……背筋がヒンヤリするな? (本文へ戻る)

[注2] 厚生労働省の分類では含まれる乳固形分などの比率によって、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓に分けられる。詳しい分け方は割愛するが、氷菓以外には牛乳が含まれていると理解してもらえれば良い。なお、ジェラートやシャーベットなどは製法による違いで、法律的な分類ではない。 (本文へ戻る)

[注3]フリージングの氷コロイド以外の狙いとして、乳固形分のコロイドを小さくすることと、気泡を閉じ込めることがある。空気を巻き込むことで、ギュッと詰まったものより、食感が軽いものになるからだ。工場では気泡の数や大きさもコントロールしているらしい。 (本文へ戻る)

[注4] 逆を言えば、液体の水があれば氷の結晶は成長してしまう。「柔らかくなってしまったアイスクリームを冷凍庫に入れたらカチカチになってしまった」という経験はないだろうか? 一度溶けた氷が、フリージングを経ずに冷却されたことで、大きな氷に成長してしまったためだ。 (本文へ戻る)

[注5] 冷やした容器に入れて混ぜる、という操作は製造現場のみならず、市販されている家庭用アイスクリームメーカーにも組み込まれている。製造現場ではフリージング後に材料を冷やし固めるが、アイスクリームメーカーでは固まるまで混ぜ続ける点で異なる。 (本文へ戻る)

[注6]物質の凝固点は混ぜ物が多いほど、低くなっていくことが知られている。凝固点降下という現象だ。アイスクリームの主原料である牛乳は、水に脂質や糖、タンパク質などを混ぜたものと考えられる。そのため、凍らせるには純水H2Oの凝固点0 ℃よりずっと低くする必要がある。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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