新しい治療標的につながるALS研究2題(7月21日 Neuron オンライン掲載論文、他)

2023.08.22

ALS研究は最近大きく動き始めている気がする。iPS作成により、患者さんの運動神経細胞を調べることが出来る様になり、病態の解析が進んだこと、及び免疫系などの神経以外のシステムが病気の進行に関わることが明らかになったことで、新しい治療標的が続々見つかってきたためではないかと思う。

 

このトレンドの代表と言える研究を今日は紹介するが、最初の英国クリック研究所からの論文は、ALSを核と細胞質の題交通渋滞という視点で捉えた研究で、7月21日 Neuron にオンライン掲載された。

 

 

この研究では、遺伝性のALSの多くがRNA結合タンパク質の様なRNAの核から細胞質への輸送に関わる分子であること、またALS一般でTDP-43などRNA結合タンパク質の局在異常が認められることから、核と細胞質のmRNAの輸送全体に異常があるのではと着想し、患者さんのiPS由来運動神経細胞、あるいは遺伝子変異を誘導した運動神経細胞を準備し、核と細胞質別々にmRNAの配列と量を調べている。

 

膨大な研究で、かつ一つの分子で決定されるわかりやすい話ではないので、詳細を全て省いて簡単に言ってしまうと、最初の原因はともかくALSではmRNA輸送が全般的に滞り、特に長くてイントロンが多いmRNAほど渋滞が多いことを発見する。

 

この結果、RNA輸送やスプライシングに関わる分子の局在も変化してしまい、病気の進行とともに渋滞がますますひどくなる。すなわち、ALSは最初の原因にかかわらず、mRNA輸送大渋滞に端を発する細胞内物質輸送の異常が病態の中心にあることを示している。

 

Valosin containing protein(VCP)はALSを始め様々な神経変性疾患に関わることが知られており、この阻害剤が運動神経細胞の生存を伸ばすことが知られているので、これに着目しVCP活性阻害が他のALSにも効果があるか調べ、原因を問わず交通渋滞を少し改善できることを示している。この研究は、ALSを大きな状態として捉えることの重要性を示している。

 

次のワシントン大学からの論文はALSの進行に関わる免疫機能についての研究で、7月31日米国アカデミー紀要に掲載された。

 

 

この研究では、SOD遺伝子に変異を持つALSモデルマウスのミクログリア細胞を調べ、病気の進行に伴い、運動神経領域でのみミクログリアのα5インテグリン発現が著しく上昇することを発見する。この傾向は、SOD変異だけでなく、他の遺伝子変異により誘導されるので、ALS共通の状態と言えるので、次にα5インテグリンに対する抗体を全身投与すると、生存期間や症状が改善することを示している。

 

結果は以上だが、抗体の全身投与で効果が見られることから、おそらく神経へ移行する細胞も病気進行に関わり、このプロセスの抑制も治療標的になることを示すとともに、今後神経系への直接投与の効果も是非調べて欲しいと思った。

以上、ALSでは運動神経のストレス反応、ストレス細胞に対する免疫機構が重要であることを改めて認識した。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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