「マンボウの都市伝説流行10年祭」を振り返って

2023.08.16

 私が大学院でマンボウの研究を始めた2007年当時、マンボウは「海ののんき者」と言われ、多くの人々はマンボウに対してのほほんとしたイメージを持っていた。しかし、2010年5月19日にWikipediaに「マンボウは着水の衝撃で死に至る事がある」といった一文が追加されたことを皮切りに、『マンボウは死にやすい(弱い)』というイメージがインターネット上で広がり、都市伝説化。2013年にはTwitterの投稿をきっかけに大きな流行となった。

 そんな都市伝説について、『マンボウの都市伝説流行10年祭』という形で、VtuberであるチュムノートさんとLab BRAINSを運営しているアズワンさんと合同でイベントを行った。今回はその様子を振り返っていきたいと思う。

 

マンボウと都市伝説

 都市伝説とは「現代で広く口承される根拠が曖昧・不明な噂話」のことを言い、特にインターネット上で広がる都市伝説はネットロアとも呼ばれる。インターネット上で広がるマンボウの死因は情報源が不明なものが多く、また死因以外にも様々な真偽不明な情報が書き込まれている。すなわち、マンボウに纏わる真偽不明の情報はネットロア・都市伝説と言える。

 

 結論から言うと、マンボウの都市伝説の流行については、現代人とマンボウの関わりを示す現代民俗として筆者が調査し、論文や本として既に出版している。特に流行の主因であるマンボウの死にやすさ(弱さ)に関する都市伝説に着目すれば、2010年から2014年にかけて急激に増殖し、2014年8月を境に収まっていったことがリアルタイムで観測していた者としてわかっている。

 

 しかし、一度広まった噂はもう消せないものと考えた方がいい。

 

 水族館からは今でも「マンボウを見た来観客は必ずと言っていいほどマンボウはすぐ死ぬという話をする」という話を聞くし、子供を相手にする知人からは「最近、幼稚園児がマンボウはすぐ死んじゃうという話をする」という話も聞く。表面上の流行は終わっていても、水面下では次世代の子供にもマンボウの都市伝説が着実に受け継がれているのである。これはもう…お手上げだ!

 

 

イベント開催の経緯

 私一人で「都市伝説は間違いだらけ」と言ったところで、伝えられる人より伝えられない人の方が多い。かと言って野放ししておくのも嫌だ。ならいっそのこと、何かの機会に大々的な祭りのようなイベントを開いて、マンボウの都市伝説は当時流行ったネタだったんだと改めて認識してもらえないかと考えていた。

 

 そんな思いを抱いていた中で、Vtuberのチュムノート(ChumuNote)さんと知り合ったのはある種の運命的なものを感じた。過去の記事でも取り上げているが、チュムノートさんはマンボウの都市伝説に弄ばれるマンボウに自身の境遇を重ねて誕生したVtuberで、その存在自体がある種のマンボウの都市伝説を体現している。

チュムノートさんは背中にマンボウを背負っている

 

 私がチュムノートさんと知り合ったのは去年の大晦日だが、年が変わってからも何かコラボできたらいいですねと話をしていた。一方、このサイトの運営元であるアズワン株式会社(アズワンさん)に遊びに行った時にも、何かマンボウでイベントをやりましょうという話になった。こうして何か一緒にやりたい人同士が結び付き、チュムノートさんとアズワンさん、私のコラボが実現した。イベント開催日は2023年8月5日にすることは早くから決めていたので(理由は後述)、5月頃から両者に提案し、数回三者で打ち合わせをして、イベント開催となった。

 

 

イベント当日、開始前の準備

 2023年8月5日、台風6号の懸念も晴れ、良いイベント日和だった。私がこの日を選んだのは、10年前の2013年8月5日に、絵師のサッカンさんがネタツイートした『マンボウの死因一覧』がバズり、都市伝説の大流行が始まった日だからだ。当日、あれから10年経ったことをツイートすると、当時のことを覚えていた人により1,100リツイート以上の反響があった。

 

 Misskeyの方にも同じような内容で投稿すると、「黄金のガセ」「黒幕」といったリアクションが付けられた。朝から10年前を思い出す人々の反応によって、イベントも盛り上がるような予感があった。

 

 この日は4年ぶりに新型コロナウイルスによる制限がない「なにわ淀川花火大会」が開催されるとあって、14時半頃の電車に乗ったのに、既に電車の中は浴衣を着た人でいっぱいだった。会場のロフトプラスワン ウェストは、JR難波駅から徒歩15分ほどの場所にある。

 

 手書きの告知がイイ感じでテンションが上がる。私は少し早めに現地に到着し、アズワンさんが予定通り16時半頃到着した。初めてこういったイベントを行うので会場のセッティングに手間取るかと思ったが、大きな問題もなく30分くらいでスムーズにセッティングが完了し(私は頒布用のグッズを並べた)、お客さんが入ってくるまで1時間ほど暇な時間ができてしまった。

 

 その間は、SNSで現場の様子を伝えたり、三者で雑談したり、先に気合い入れるためのお酒を頂いたりして過ごした。18時になり、開場すると、続々とお客さんが入ってくる。ネット配信の時間が19時なので、会場組は先にグッズ購入したり、飲食したり、どこから来たのかと雑談したりして、まったりとした雰囲気でイベント開始時刻まで待った。

 

 

イベント開始!

 19時になり、ネット配信がスタートされたと同時に、トークライブを開始した。私とアズワンさんが壇上で、その後ろのスクリーンにプレゼンとチュムノートさん(声は天井から降ってくる)が映っているという状況である。会場とネットのハイブリッド、リアルとVtuberのハイブリッドイベントだったので、今後はこういう形式のイベントも増えていくのかなと思った。

 

 今回は個人的に楽しむための写真はOKにしたが、ネットに写真を上げるのはNGとした。何故なら、このスライドは私とアズワンさんで数週間かけて作ったものであり、言うなれば商売道具だ。例えるならアイドルの生歌をそのままネットに上げられるようなものなので、個人の思い出にしまってもらうことにした。その代わり、SNSでの感想はハッシュタグを決めて、「#マンボウ都市伝説10年祭」で呟いてもらうようにお願いした。これは大きな成功で、イベント後にお客さんがどう感じていたのかを主催側で盛り上がり具合をすぐ確認することができた。

 

 今回のお客さんは、会場24名、ネット配信22名であった。毎日のようにイベント告知を行い、newsでも一度イベント告知を流してもらったので、自分で集客のやれることはやったと思う。ネット配信の方がどんな感じだったのか私の方ではよくわからなかったのだが、チュムノートさんによると、ネットの方でもコメントをいっぱい頂いていたようだ。嬉しい限りである。

 

 ここでトークライブの内容を詳しく書いてしまうと、お金を払ってまで参加してくれた方々に悪いので、全体的な内容と、この日にイベントを行ったこと関するものについてだけ簡単に紹介する。全体的な内容はお品書きの通りである。

 

 

 スライドは120枚くらいあったが、1枚あたりの情報量を少なくしていたので、サクサク進めて、大体1時間40分ほどで全体を終了し、その後、会場組からの質疑応答の時間とした。途中、1時間ほど経過するところで、10分くらい休憩を取り、その時間、会場組はマンボウの干物お触りタイムとなった。休憩中、お客さんにいくつか質問してみると、最も遠い場所から来た人は宮城県だった。会場に来たお客さんに、何きっかけでイベントを知ってここに来たのかを聞くと、チュムノートさんが7割ほどで、私は2割、アズワンさんはほぼ身内で1割だった。

 

 今回マンボウの都市伝説について調べている中で興味深い事実を発見した。上述したように、2010年5月19日にWikipediaに「マンボウはこの時、着水の衝撃で死に至る事がある」と書き込まれたことが、インターネット上でマンボウの都市伝説が流行ることのきっかけになったのだが、この5月19日は偶然にもチュムノートさんの誕生日であった。

【#チュムノート生誕祭】個人VTuberになって初めての誕生日🎉
https://www.youtube.com/watch?v=U7sJLa6l_J0

 

 5月19日に生まれたチュムノートさんがX才の誕生日の時に、マンボウの都市伝説の大元となる情報がネットに書き込まれ、その後、マンボウの都市伝説に由来するVtuberとして再活動を始めたというのは、まさにVtuberチュムノートになるべくして生まれてきた運命だったのだ!! …と書くと、オカルトチックな感じになってしまうが、こういう偶然ってやっぱりあるんだなと思った次第である。

 

 ちなみに、マンボウの都市伝説を流行らす起爆剤となったサッカンさんのネタツイートは、サッカンさんが適当に考えたネタであるのですべて虚偽であるが、これもVtuberチュムノートの誕生に遠因として働いたものと思われる。そして、まさかネタツイートから10年後にこのようなイベントが開かれることになろうとは、ネタツイートした時には思ってもみなかったことだろう。まさに事実は小説よりも奇なりである。

 

 

イベント終了後

 イベント後は30分ほど、自由に交流タイムとなり、私はグッズを頒布したり、チュムノートさんとアズワンさんは残ってくれたお客さんと雑談したりして、始終まったりとした雰囲気でイベントは終わりを迎えた。

 

会場組もネット配信組も楽しく見て頂いたようで、イベントを企画した者としては嬉しい限りである。またこの8月5日に行う都市伝説を振り返るイベントは内容を忘れた頃……10年後くらいにできたらいいなと考えている。

 

 ちなみに、当日の様子はTogetterにもツイートをまとめている。どんな雰囲気だったのか知りたい方は、ぜひそちらも見て欲しい。

 

「マンボウの都市伝説流行10年祭」の様子と当時を思い出す人々
https://togetter.com/li/2200345

 

 

今日の一首
 マンボウの
  都市伝説が
   流行し
    10年後には
     祭りになるや

 

【参考】コラボしてくださったChumuNote(チュムノート)さんの活動拠点はこちら

Youtube
https://www.youtube.com/channel/UCA1EQIRhhEATgqx3-MvHASQ

X
https://twitter.com/tmgnrei

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

このライターの記事一覧

参考文献

澤井悦郎.2017a.マンボウの現代民俗―ネットロア化した「マンボウの死因」に関する考察.Biostory, 27: 89-96.

澤井悦郎.2017b.マンボウのひみつ.岩波書店.東京,208pp.

澤井悦郎.2018.「マンボウは3億個の卵を一度に産むが泳ぎが遅くて2匹しか生き残らない」という話は本当か?(第38回TSA特別講座).Toba Super Aquarium.(74): 14-15.