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こんにちは!細菌が好きすぎて気がついたら博士号をとっていたさいぼうです!そんなわたしがつくる、楽しく学べる細菌学クイズ!今日は細菌とヒトの細胞の違いについて!
第1回と第3回のクイズで細菌、真菌、そしてウイルスの違いはクイズになっていたけれど…。
真菌やウイルスについてそもそもよくわからない…。
もっと身近なものと比較してくれないかな…。
例えばヒト細胞との違いはなんだろう?
そんな疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。
そんな方のために、生命のキホン「遺伝子情報」「代謝」「細胞膜」「細胞外構造」について細菌とヒト細胞の相違点をクイズにしました!
今回もクイズに答えて楽しく細菌について学びましょう!
CONTENTS
a) 細胞質
b) 細胞膜
c) 染色体
d) 細胞壁
染色体は細菌の中にある遺伝子情報を含んだ構造。細菌の染色体は一本鎖のDNAで構成されており、細菌の遺伝情報をコードしています。
名前はヒト細胞でも細菌でも同じ「染色体」ですが、中身は全然ちがいます!
主な違い:
- 形状: 細菌の染色体は、ヒト細胞の染色体とは異なり、一本鎖の環状DNA(図右 Nucleoid)です。一方、ヒト細胞の染色体は、核小体(Nucleolous)のなかに複数本の線状DNAを持つ染色体があります。
- 本数: 細菌の染色体は通常1つだけ存在しますが、ヒト細胞は23対の染色体を持つため、46本の染色体があります。
- プラスミドの有無: 細菌は細胞質内にプラスミド(Plasmid)と呼ばれる独立した環状DNAを持っています。プラスミドは通常、染色体とは別に存在し、抗生物質耐性遺伝子や毒素の生成に関連する遺伝子、代謝経路に関与する遺伝子などの、細菌の生存に重要な役割を果たす遺伝子が含まれることがあります。
- 細胞内の配置: 細菌の染色体は細胞質内に直接存在し、核膜が存在しません。それに対して、ヒト細胞の染色体は細胞核内に存在し、核膜によって区切られています。
この特徴を指して、ヒト細胞を真核細胞(eukaryotes)、細菌を原核細胞(prokaryotes)と分類します。
ヒト細胞(eukaryotes)と細菌(eukaryotes)
ちなみに染色体が複数ある細菌も知られています。
それはVibrio属の細菌!
2つの染色体を持つことにはいくつかの利点があるのです。
1.遺伝的多様性:2つの染色体を持つことで、Vibrioは1つの染色体を持つ細菌よりも多くの遺伝子情報を持つことができます。この増加した遺伝子の多様性は、さまざまな環境でのVibrio属細菌の生存に有利に働きます。
2.遺伝子調節の簡易化:2つの染色体により、遺伝子の制御を簡易化することが可能です。それぞれの染色体に異なる調節メカニズムが適用され、特定の遺伝子の発現を独立して制御することができます。この柔軟性は、変化する環境条件に適応し、最適な反応を行うために重要です。
3.機能の特化:1つの染色体は主に基本的な細胞の維持機能にはたらき、もう1つの染色体は毒素の遺伝子、抗生物質耐性、または他の特殊な機能に関連する遺伝子を運ぶことがしられています。この機能の特化により、Vibrioは2つの染色体間で効率的に作業を分担し、生存能力を向上させているのです。
ただし、Vibrio属細菌が2つの染色体を持つことの正確な利点や進化上の理由については、現在も研究が進行中であり、未解明な部分が多いことも覚えておいてください。
Vibrio cholerae(イメージ)
a) 細胞膜
b) 細胞質
c) 染色体
d) 細胞壁
細胞質は細菌の細胞内の液体部分で、細胞膜に囲まれた領域です。細菌の代謝反応や酵素活性が行われる重要な場所です。
こちらも変わらず、細菌においてもヒト細胞においても必要な空間です。
名前も同じですが、機能はどうでしょうか?
細菌の細胞質とヒト細胞の細胞質の主な違い:
- 構造: 細菌の細胞質は、クイズ1でもお話したように核膜がありません。さらには細胞小器官を持たないことが特徴として挙げられます。一方、ヒト細胞の細胞質内には細胞小器官がたくさんあります。ゴルジ体(Golgi apparatous)、ミトコンドリア(Mitochondoria)、リボソーム(Ribosome)、粗面小胞体(Rough endoplasmic reticulam)や活面小胞体(Smooth endoplasmic reticulam)などの細胞小器官を含んでいます。
- 大きさと複雑さ: 細菌は、一般的にヒト細胞よりもはるかに小さいのです。細菌の直径は1〜5マイクロメートル程度です。一方、ヒト細胞は10〜100マイクロメートル程度の直径を持ちます。これが、細菌の細胞質に細胞小器官がほとんど存在しない理由の1つです。
-代謝速度: 細菌は小さなサイズのため、代謝速度が速く、栄養を摂取し、エネルギーを生産する速度が比較的高いです。一方、ヒト細胞は大きなサイズのため、代謝速度は細菌に比べて遅く、エネルギー生産には時間がかかると言われています。
代謝速度に影響を受けるのが増殖速度!
ヒト細胞は多細胞生物の一部なので、細胞の種類によって分裂速度が多様です。例えば皮膚細胞や腸管上皮細胞は高い分裂速度を持ちますが、一方で脳の神経細胞は成熟した後に分裂することがほとんどありません。
細菌は単細胞生物です。細菌の分裂速度が個々の細菌で異なることはほぼありません(もちろん細菌の種類によっての分裂速度の違いはあります)。細菌の分裂速度は種によって異なりますが、一部の細菌は数分から数時間で分裂を完了することがあります。
ヒトの腸管上皮細胞の細胞分裂が12時間前後といわれているので、細菌は非常に迅速に増殖し、大量の個体数を生産することが分かりますね。
細菌の増殖(イメージ)
a) 遺伝子情報の保持
b) 物質の出入りの調節
c) 細胞の形状の維持
d) 細胞の増殖
細菌の細胞膜は、ヒト細胞と同様に細胞質を包み込む脂質二重層で構成されており、細胞内と外の環境の間で物質の出入りを調節する役割を担っています。またヒト細胞と同様に、細菌の細胞膜にも細菌の成長と増殖に重要な酵素が存在し、エネルギー産生や細胞内の代謝活性にも関与しています。
細胞膜を介した物質の出入り(イメージ)
「細胞内と外の環境の間で物質の出入りを調節する」役割は一緒ですが、実は細菌には、ヒト細胞と違って細胞膜を2枚持っている細菌がいます。
以前のクイズでも紹介した「グラム陰性菌」です!
グラム陽性菌は、細胞膜の外側に厚いペプチドグリカン層を持っており、細胞膜が1枚だけです。
グラム陰性菌は、細胞膜の外側にペプチドグリカン層と外膜があり、細胞膜が2枚あるのです。
外膜は、グラム陰性菌の細胞を保護する役割を果たしていますが、同時に病原性にも関与しています。外膜に含まれるリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide)は、特にヒトの免疫系に強力な刺激を与え、炎症反応を引き起こす可能性があります。これは、細菌がヒトに感染した際に、免疫系の応答を強化し、症状を引き起こす一因となります。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞膜構造の違い
LPSは三つの主要な構成要素から成り立っています:
リポ核酸(Lipid A): LPSの内側に位置し、細胞膜と直接結合しています。リポ核酸はヒト免疫細胞のターゲットであるため、宿主の免疫応答を引き起こします。一見、細菌がリポ核酸を持つことはデメリットかもしれませんが、リポ核酸が過剰に放出される場合、炎症反応が誘発され、感染症の症状を悪化させることができます。
核酸(O-antigen): LPSの外側に位置し、細菌によって異なる構造を持つ多糖類です。O-antigenは細菌の種や株によって異なるため、O-antigenの違いによって異なる血清型が存在することがあります。O-antigenも免疫応答に関与するため、LPSのO-antigenの違いによって細菌の特異性を示すことができます。
コア多糖類(Core polysaccharide): Lipid AとO-antigenの間に位置する領域で、これらの部分を結びつける役割を果たします。コア多糖類も免疫応答に寄与しますが、O-antigenと比較してはるかに保存されており、LPSの主要な部分として機能します。
LPSの構造
a) 細胞質
b) 細胞膜
c) 染色体
d) 細胞壁
細胞壁(ペプチドグリカン、Peptidoglycan)は細菌の細胞外を覆う硬い層で、細胞の形状と保護を担当しています。
これはヒト細胞にはない構造ですね!
こちらの細胞壁も細胞膜と同様にグラム陽性菌とグラム陰性菌によって異なります。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞壁の主な違いは、「リポタイコ酸」の存在です。
- グラム陽性菌の細胞壁: グラム陽性菌は、厚いペプチドグリカン層で覆われた細胞壁を持っています。この細胞壁には、リポタイコ酸と呼ばれる脂質タイプの化合物が含まれています。
- グラム陰性菌の細胞壁: グラム陰性菌の細胞壁は、グラム陽性菌よりも薄く、その代わりペプチドグリカン層の外側にさらに外膜があります。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞膜構造の違い
細胞壁と聞いて思い出すのは植物細胞ではないでしょうか?
動物細胞にあって植物細胞にあるもの。それが「葉緑体」と「細胞壁」でしたね。
では細菌と植物細胞の細胞壁の違いは何でしょう?
細菌の細胞壁はペプチドグリカンと呼ばれ、多糖類(糖と糖が結合した分子)とアミノ酸が結合したペプチドから成る構造です。
細菌の細胞壁
一方で植物細胞の細胞壁は、主にセルロースというポリ糖類によって構成されています。他にもペクチン、ヘミセルロース、リグニンと呼ばれる多糖類やタンパク質が含まれることがありますね。
植物細胞の細胞壁
今回のクイズでは、細菌とヒト細胞の違いについて学びました。
他にも「べん毛」「せん毛」「莢膜」などの細菌に特有の構造がまだまだあります!
これらの細菌に特有な構造は次回のクイズで詳しく紹介していきましょう。
細菌の生存能力や進化に驚かされるばかりです!
これからも一緒に、クイズを通して細菌学への理解を深めていければと思います。
それではまた次回の細菌学クイズでお会いしましょう!