研究はアイディアだ! 先人はどう解明した?

2023.07.26

 7月も半ば過ぎになると、多くの学校で長い夏休みに入る。日中に外出すると、あちこちで夏休みを謳歌している様子を見ることができる。熱中症や事故に注意して、是非とも夏を満喫してほしい。もちろん、宿題も忘れずに。

 夏休みの宿題の定番といえば、自由研究だ。インターネットで世界中の知恵に簡単にアクセス可能な現代、自由研究のネタは各所で見ることができる。とはいえ、「他の人とは一味違った内容を研究してみたい」、「でも、どう調べればわからない」という人もいるのではないだろうか? そこで今回は、今となっては誰もが知っている科学の常識を、先人たちがどのように明らかにしたのかを解説していく。自由研究のアイディアのヒントとなれば幸いだ。

 キーワードは『もしも○○でないなら』だ。想像を働かせて考えてほしい。

 

 

少し詳しく 〜空気の証明〜

 私たちは空気に囲まれて生活している。しかしながら、そのことを日々実感しながら生活している人はそう多くはないだろう。もちろん、葉月も気にはしていない。理由は簡単だ。目に見えず、重さも感じないからである。私たちが生きていくのに欠かせない空気ではあるが、ともすれば存在を疑いたくなりさえする。

 それでは空気が物質として存在するということはどのように明らかにされたのだろうか? 紀元前5世紀の哲学者エンペドクレスは、次のようなとてもシンプルな方法で明らかにした。

 まずはお風呂にお湯を張る。つづいて乾いた洗面器をひっくり返して、お風呂にゆっくりとまっすぐ沈める。10秒たったら洗面器をゆっくり引き上げる[注1]

 さて、洗面器の内側は濡れているだろうか? あるいは乾いたままだろうか?

 

 

 水面の揺れや結露なども影響するが、洗面器の内側はほとんど乾いたままだろう。なぜこの方法で、空気が存在すると言えるのだろう?

 もし空気という物質が存在しないなら、どうなるかを考えてみるといい。おそらく、洗面器の内側は完全に水没し、外側と同じように濡れてしまうだろう。水の侵入を拒むものが何もないからだ。

 しかしながら、空気は実際に存在する物質だ。空に見える洗面器も、空気をいっぱいに満たしていると言い換えることができる。そのため、逆さにして沈めれば空気が邪魔して、水が入り込むことができなくなる[注2]

 私たちの身の回りにある空気の存在は、洗面器とお風呂で説明できることがわかった。それでは、うんと大きな物についてはどうだろう?

 続いては地球の形や大きさがどのように明らかにされたのか見てみよう。

 

 

さらに掘り下げ 〜地球の形状の証明〜

 突然だが、地球の半径をご存知だろうか? 約6,400 kmだ。地球を貫通する穴を通したわけでもないのに、一体どう測ったんだと思ってしまう。だが実は、小学校で習ったある公式で簡単に求められてしまう。

 時は1799年にまで遡る。当時のフランスで、北極から赤道までの距離、すなわち地球の1/4の周長を10,000 kmとする決定をしたのだ[注3][注4]。さて、1/4の周長が決まれば、全体の周長が決まる。全体の周長が決まれば、半径を決めることができる。円周を求める公式「2 × 半径 × 円周率 = 円周」の応用だ。

 つまり、地球の半径や円周は「地球は球形である」という前提に立てば簡単に求める事が出来てしまうのだ。

 それでは「地球は球形である」という前提はどのように説明されたのだろう? 紀元前4世紀の哲学者アリストテレスは、夜空に浮かぶ星を観察することでこれを明らかにした。

 例えば北極星という星がある。常に真北に光ることで知られる星だ。それでは北極星を目指してずっと北に進んでいくと、北極星はどこに光っているだろうか? 少し考えてみてほしい。

 もちろん、北極星が真北の空に光っているのは変わらない。しかしながら、北に進むにつれて見上げる角度になるはずだ。些細な事だが、地球が球形であることを説明するのにとても重要なことだ。

 もしも地球が球形でなく平面ならどうなるだろう。恐らく、北極星は常に同じ高さにあるはずだ。月がいつも追いかけてくるように見えるように、あまりに遠く離れた物体は位置関係の変化に乏しいからだ。

 だが実際には、北極星の位置は緯度に伴って変化する。であれば、変化したのは観測者の相対的な位置だと考えるべきだ。例えば、立っている時には頭上で光る蛍光灯も、寝転べば真正面で光るようになる。北にいる人は常に立っていて、南にいる人は常に寝転んでいる、ということは無いわけだから地球は球形だと考えるのが合理的というわけだ[注5]

 

 

 あまりにも大きな地球の形状も大きさも、割と簡単な方法で説明できてしまう事がわかった。それでは逆に、目に見えないほど小さなものではどうだろう?

 続いては万物を構成する最小単位、原子論について見てみよう。

 

 

もっと専門的に 〜原子論の証明〜

 原子の存在がどのように証明されたのかを解説する前に、一つ質問をしたい。そもそも「物質はそれ以上に分割できない最小の粒子から出来ている」という考えはいつ頃誕生したのだろうか?

 科学的な考え方が浸透してきた17世紀頃? あるいはヨーロッパで錬金術が興り始めた12世紀頃だろうか? いや、実はもっともっと遡る。今から2,500年以上も前、紀元前6世紀のインドではすでに提唱されていたようだ。

 では実際の証明はいつなされたのだろう? 実はこちらはグッと最近、20世紀に入ってからになる[注6]

 実証のために用意するのは水と、数滴の牛乳(あるいは墨汁)、そして顕微鏡だ。牛乳を水に落とし、水面が静かになるのを待つ。水面が静かになってから、顕微鏡でもにょもにょとした牛乳の様子を観察してみると、興味深い現象が見られる。

 水の中で小さな粒子が小刻みに動くのが見られるのだ。速く動いたりゆっくり動いたり、長く動いたり短く動いたりする運動の様子は、発見者ロバート・ブラウンの名前にちなんでブラウン運動と呼ばれる。

 

 

 なぜブラウン運動が起きる事が原子の存在の証明になるのだろうか? ブラウン運動は、水の分子があらゆる方向から粒子に衝突する事により観察される。そのため、もしも水が水分子の集合体で無いなら、衝突する存在のいない粒子は沈むか、混ぜた時と同じ場所に漂ったままになるはずだ[注7]

 したがって分子は存在する事になり、分子を構成する原子も存在するという事になるわけだ。

 ここまで、科学の常識が解明された経緯について解説してきたが、いかがだっただろうか? 自由研究の方法に行き詰まったら「もしも○○でないなら」というアプローチをしてみても良いかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが自由研究に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜自由研究を研究する〜

テーマ決定

「自由に絵を描いて」と真っ白な画用紙を渡されて困った経験はないだろうか? 対象、構図、画材など、様々なことを自分で決めなければいけないというのは割と面倒臭い。一方で誰かにテーマを決めてもらった途端、描き始める事ができたという経験もあるだろう。ある程度の指標があると途端に視界が開けるというのは、自由研究でも同じようだ。 

 検索キーワードに「自由研究」を含む検索の傾向を調べた研究がある。これによると付随するキーワードの多くが「テーマ」「ネタ」「○年生」などのような、テーマ設定に関する単語だったようだ。この分析自体は2013〜2015年の検索内容について調べたものだが、恐らく現在もそう変化ないだろう。自発的にテーマを設定するというのはいつだって何だって難しいようだ。

 

|研究の進め方

 実際にテーマが決まっても、自由研究を行う上で避けては通れないものがある。他ならぬ研究だ。「設定したテーマが自分にとって難しすぎないか」「調べた内容に間違いはないか」「まとめ方は適切か」など悩みは尽きない。自分の発表を終えるまでの間、なんとも言い難い不安感があったという方は少なくないだろう。もちろん葉月にも経験がある。

 こうした自己評価の低さに対して、どのように支援できるか研究した事例がある。夏休みに入る前に「テーマ」「疑問に思う事」「仮説」「調査方法」などをどう決めるかについて、授業を受けた児童は自分が行なった自由研究に対しての自己評価が向上したというのだ。あくまで自己評価であるという検証の不十分さはあるが、方向付けがあると自由研究に対する不安感が薄れるようだ。

 

参考文献

  • アダム・ハート=デイヴィス 総監修、日暮 雅道 監訳. 『サイエンス大図鑑【コンパクト版】』. 河出書房新社.

  • 池内 了. 『知識ゼロからの科学史入門』. 幻冬舎.

  • 草野 巧. 『F-Files No.004 図解 錬金術』. 新紀元社.

  • 小山 慶太. 『科学史年表 増補版』. 中公新書.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

  • 佐藤 綾 栗原 淳一. 『子どもが理科の自由研究を進める上で必要とする指導・支援』. 教材学研究 2016年 27 巻 143-150.

  • 深谷 達史, 三戸 大輔. 『課題の設定を支援する自由研究の授業実践とその効果検証』. 日本教育工学会論文誌 2021年 45 巻 2 号 213-224.

  • 大山 光晴. 『実験を工夫させる事前指導が自由研究に与える効果』. 理科教育学研究 2015年 56 巻 2 号 141-149.

脚注

[注1] 実際にエンペドクレスが行なった方法は海に桶を沈める方法だ。ただ、海に行くのも桶を用意するのも手間だと思ったのでお風呂と洗面器に変更した。海に行った際には、是非とも2500年前の科学に想いを馳せてほしい。 (本文へ戻る)

[注2] とはいえ、エンペドクレスの時代には、気体に種類がある事までは明らかにされなかった。水素や二酸化炭素など、気体にも種類があるということが明らかになるのは、エンペドクレスの時代からなんと2000年も後の16世紀になってからだ。(本文へ戻る)

[注3] この距離自体は実測によって測った数値だ。途中足止めされるアクシデントもあったとはいえ、1792年の測定開始から6年かかったそうだ。(本文へ戻る)

[注4] この長さを1/1,000すると1 kmに、さらに1//10,000すると1 mになる。実はフランスが決定したのは、国際的な長さの定義だったのだ。とはいえ、現在はこの1 mの定義は使われていない。(本文へ戻る)

[注5] 地球球体説というと、地球平面説に追いやられてほとんど支持されていなかった、と思いがちだ。だが実際には紀元前330年ごろには一般的な考え方だったようだ。地球平面説が支配的だったのは19世紀初頭のほんのわずかな期間らしい。……知らんかった!(本文へ戻る)

[注6] 19世紀末の科学界では、「物質はエネルギーが形を変えたもので、原子や分子は概念である(そのため存在しない)」という考え方が支配的だったようだ。目に見えない上に2000年以上も証明されていない考え方だもんなぁ。(本文へ戻る)

[注7] ブラウン自身はブラウン運動による原子の存在を説明する事ができなかった。その後、1905年に物理学者アインシュタインによってブラウン運動が半径を持った物体(すなわち原子や分子)によって引き起こされることを理論化し、1908年に物理学者ペランの多角的な実験によって実証された。(本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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