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「優れた人間になりたい」、これは人間が持つ本質的な欲求である。保育園へ通う幼児であっても、デイサービスに通う老人であってもそれは変わらない。ましてやビジネスシーンで切磋琢磨する現役世代ではなおさらである。しかし、優れた人間とはいったいどのようなものなのだろうか。その指標には様々なものがあるが、今回の記事では「リーダーシップ」を取り上げ、これを考えてみたい。
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リーダーシップ研究は長い歴史を持ち、その定義も多岐にわたる。今回の記事ではリーダーシップを「ある目的のために、他人を志向させ、動員する力」と定義して話を進める(ジョセフ・ナイ,2008年)。ちなみにリーダーシップスタイルにはいくつかの種類があるので、代表的なものを以下に4つ紹介しよう。
管理型リーダーシップ、あるいは取引型リーダーシップとも呼ばれるもの。罰や報酬を用いて部下の行動を管理し、目標を達成しようとする。
変容型リーダーシップとも呼ばれるもの。高いカリスマ性を持ち、部下にビジョンを示し、変革や成長を促す。
メンバーの従者(サーヴァント)として、部下を支援し、信頼を獲得することで目標を達成するもの。
自分自身の価値観と倫理観、一貫性のある言動と率直なコミュニケーションで部下に影響力を与えるスタイル。
とはいえ、これらの類型は切り分けられるものではなく、同じリーダーであっても様々な側面を持つ。私自身は個人事業主なのでリーダーシップを取る機会はないが、子育て場面を考えれば、トランザクション8割、トランスフォーメーション0割、サーヴァント1割、オーセンティック1割くらいかもしれない。世の中一般のリーダーと呼ばれる人はいったいどの程度なのだろうか。
リーダーシップを取れるに越したことはない。しかし、これは生まれつき決まっているものなのだろうか、それとも後天的に学習できるものなのだろうか。リーダーシップ研究では、リーダーシップを資質と捉える立場とスキルと捉える立場があるが(ジョセフ・ナイ, 2008年)、まずは資質に関する知見を整理してみたい。
リーダーシップ研究では、遺伝的要素は少なからぬ影響を与えることが報告されている。特にトランザクション・リーダーシップやトランスフォーメーション・リーダーシップでは5割程度が遺伝的要因で説明できることも報告されている(Tuncdogan, 2017年)。
人間の性格傾向を示すものとして、ビッグ・ファイブと呼ばれるものがある。これは人間の性格傾向を、外向性、協調性、誠実性、開放性、神経症的傾向で示すものである。このビッグ・ファイブとリーダーシップの関連を調査した研究から、トランスフォーメーション・リーダーシップでは外向性が、トランザクション・リーダーシップやサーヴァント・リーダーシップでは協調性が大きな要因を示すことが報告されている(Tuncdogan, 2017年)

感情的知性とは、自分や他人の感情を感じ、理解し、管理し、表現する能力である。この感情的知性はビッグ・ファイブで示される外向性や協調性とも高い相関を示し(Tuncdogan、2017年)、特にトランスフォーメーション・リーダーシップと関連していることが報告されている(HarmsとCredé, 2010年)
知能の高さはリーダーシップに大きな影響を及ぼす。軍人を対象にした研究では、リーダーシップ・パフォーマンスとIQは高い相関を示し(Rockstuhlら、2011年)、企業の中間管理職を対象にした研究では、性格要因や感情的知性以上に重要な要因であることが報告されている(Cavazotteら、2012年)。
身長の高さや声の低さ、顔つきもリーダーシップに影響することが知られている。政治家を対象にした研究では身長が高いほうが当選確率が高く、経営者を対象にした研究では声が低いほど収入が高いことが報告されている(Tuncdogan, 2017年)。また顔幅が相対的に広い経営者ほど企業の財務成績も良好であることを示した研究もある(Wongら, 2011年)。
男性ホルモン、テストステロンの体内濃度が高いほど、リーダーシップに関わる指標も高まることが報告されている。具体的にはテストステロン濃度は、起業家気質、リスクテイク、交渉パフォーマンスなどと関連することが報告されている(Tuncdogan, 2017年)。また、テストステロンとコルチゾール(ストレスホルモンの一種)がともに高い場合、リーダーとしての支配性が高いことも報告されている(MehtaとJosephs, 2010年)。
脳活動からもリーダーシップを読み取れることも報告されている。リーダーシップに関わる心理的要因として責任回避性の低さがある。これは端的に言えば、先行きが不明瞭な状況でも問題を先送りすること無く、責任を持って判断を引き受ける資質である。チューリッヒ大学の神経経済学の専門家、エデルソン博士は、リーダーシップ意思決定課題を行っているときの脳活動から、被験者のリーダーシップを予測できることを報告している。具体的には、自己意識や情動、価値判断に関わる領域の関係性から、高い精度でリーダーシップの高さを予測できたことを報告している(Edelsonら, 2018年)。
このようにリーダーシップは生理学的要因に影響されると報告されているが、一方ではリーダーシップはスキルであり、学習可能であるという立場もある。具体的には、コミュニケーション能力、チームビルディング能力、問題解決能力などを高めることでリーダーシップを育成できるというものである。では実際、リーダーシップ研修はどの程度の効果があるのだろうか。組織行動学の専門家、ラレンツァ博士らの研究グループは、リーダーシップ研修の効果を検証した研究335本のデータを対象にメタアナリシスを行っている。ちなみにメタアナリシスとは、多くの研究をまとめて解析して、総合的な結果を得る方法である。この研究結果によると、リーダーシップ研修は全体的に受講者や組織のパフォーマンス改善に高い効果を及ぼすことが示されている(Lacerenzaら, 2017年)。またこの研究ではリーダーシップ研修で用いられた様々なアプローチを比較し、どの方法がパフォーマンス改善に効果的かを調べている。以下に調査結果を踏まえて推奨されているものを示す。
・対面研修(vs. オンライン研修)
・オンサイト(現場)研修(vs. オフサイト研修)
・トレーナーによる指導(vs. 個人管理)
・座学やデモンストレーション、実践活動など複数の介入を交えた研修(vs. 単一の介入による研修)
・非自由参加(vs. 自由意志による参加)
・可能な限り長い期間の研修(vs. 短期間の研修)
・ソフトスキル(感情・コミュニケーショントレーニングなど)研修
・事前の十分なニーズ評価
・360度フィードバックは時にネガティブな効果を生むので注意して行う。
では、ここまでの内容をまとめよう。
・リーダーシップとは、「ある目的のために、他人を志向させ、動員する力」である。
・リーダーシップスタイルには様々な種類がある。
・リーダーシップは、性格傾向や感情的知性、知能、心身の男性性に影響される。
・リーダーシップは学習によって向上する。
翻って「優れた人間」とはどのようなものなのだろうか。リーダーシップは物差しの一つであって、絶対的な基準ではない。世の中には「最高のナンバー2」というポジションもあれば、「最高のピエロ」という役回りもある。アメリカ海兵隊には「なりうる限りの最高の自分になれ」という格言があるという。あなたにとっての「最高の自分」とはなんだろうか。自分自身のリーダーは自分以外にいない。自分の人生のリーダーとして、しっかりと考えてみたい。
ジョセフ S.ナイ (著), 北沢 格 (訳)(2008)リーダー・パワー: 21世紀型組織の主導者のために 日経BPマーケティング
スティーヴン・マーフィ重松 (著)(2019)スタンフォード式 最高のリーダーシップ サンマーク出版