ピチピチチャプチャプな梅雨のおはなし

2023.06.08

 梅雨だ。
 蒸し蒸しして気温が高くて、外出が億劫になる時期が、頼んでもいないのに今年も来てしまった……。
 とはいえ、私たちの食卓事情の面から考えると、梅雨は農作物を育てる恵みの雨の時期でもある。文句ばかりも言っていられない。夏野菜のきゅうりにとっても、梅雨はとても大事だ。致し方なし。

 梅雨に限らないが、長雨は日常生活を少し危険な物に変える可能性がある。川や海などはもちろん、外出先の床などでの転倒などにも十分気をつけて、過ごしていただきたい。……マジで痛かった。

 それにしても、初夏から本格的な夏に差し掛かるこの時期に、なぜ毎年決まって長雨が続くのだろう? 全国規模で、ほぼ同じ時期に長期にわたって雨が降り続けるというのは、よく考えてみれば不思議だ。

そこで今回は梅雨の時期に長雨が発生する仕組みについて、順を追って解説していきたい。

 キーワードは『風』だ。

 

 

少し詳しく ~梅雨と海~

 花に水をやる際ジョウロに水を溜めるように、水を撒くという行為には必ず水源が必要になる。それは、梅雨という地球規模の現象であっても同様だ。

 それでは梅雨をもたらす水を、地球は一体どこから供給しているのだろう?

 梅雨による降水は、およそ40日の間、北海道を除く日本全国で発生する現象だ[注1]。期間と範囲の点から、水源は河川ではなく、国土を囲む海であると考えるのが自然だろう。しかしながら日本は、北西の日本海、南西の東シナ海、北東のオホーツク海、そして南東の太平洋と4つもの海に囲まれている[注2]
 一体どの海が、水源を担っているのだろうか?

 梅雨入りの時期は毎年、南から北に向かって北上していく。また、九州北部と関東はほぼ同緯度にもかかわらず、九州北部の方が数日だけ梅雨入りが早い。したがって、南西から北東に向かって梅雨入りする、というのが正確な表現だ。
 そのため、梅雨の降水をもたらす水源は東シナ海によるものだとわかる。
 とはいえ、東シナ海は狭い海だ。実際には、東シナ海よりさらに南西のインド洋も関わってくる。

 東シナ海やインド洋は低緯度の温暖な位置にある海だ。そのため、気温が高くなる時期に盛んに蒸発するという特徴を持つ[注3]
 この働きにより海から吸い上げられた水が、地球の上空を流れる風に運ばれる。これが冷えると雲を形成し雨になる。というのがもっとも簡単な梅雨による降水のプロセスだ。

 東シナ海で吸い上げられた水が、風に運ばれることはわかった。しかしながら、これはあくまで主観だが、梅雨の時期に風が強いイメージはあまり無いように思う。

 一体どのように、吸い上げられた水は運ばれているのだろうか?
 続いては湿った空気を運ぶ、上空の風について見てみよう。

 

 

さらに掘り下げ ~梅雨とジェット気流~

 突然だが、エアコンの風量を最大にして、風向を水平にしてみてほしい。あるいは床置きの扇風機の風向きを水平にして運転してみるのでも良い。その状態で立ち上がってまっすぐ上に手をあげると、風はどこで感じられるだろう?
 風を真正面から受ける場所と、それより上下したところで感じられるはずだ。
 エアコンの風ならば腕、扇風機の風ならば下半身だろうか。

 

 すなわち風は強さだけでなく、方角と高さの情報を持つ。
 何かと思えば、当たり前のことじゃないかと思われるかもしれない。だが、この当たり前が大事だ。

 地球は大気に包まれた星だ。大気の厚さは、高度100 kmにも達する[注4][注5]
 梅雨の雨を降らせる雲は、主に高層雲や高積雲という種類の雲である。高度2 ~ 7 kmにでき、広い面積を覆うのが特徴だ。つまり、東シナ海付近のこの高さに西向きの風が吹いていれば、水を運ぶことが出来るわけだ。

 しかしながら、そんな都合のよい風が吹いているものだろうか?
 答えはイエスだ。その名もジェット気流という。

 ジェット気流とはいかにも速そうな名前だが、実際速い。平均風速が秒速20 ~ 40 m、最大瞬間風速が秒速100 mを超えることも珍しくない、猛烈な風だ[注6]
 こんな風が、緯度30度付近(日本で言えば福岡や東京のあたり)の高度10 km前後の高さを、地球をぐるりと一周するように吹いている。エアコンの風のように、ジェット気流はほぼ同じ高さを通るため、地表にはほぼ影響しない。

 ジェット気流によって、湿った空気が列島に運ばれることはわかった。しかしながら、雲ができ、雨が降るには低温が必要である。この低温はどこからくるのだろう?
 続いては、湿った空気が雨になる様子について見てみるとしよう。

 

 

もっと専門的に 〜梅雨とブロッキング〜

 実はジェット気流は1本では無い。先ほど紹介したジェット気流よりも高緯度の範囲にも吹いている。この高緯度の範囲を流れるジェット気流を寒帯前線ジェット気流、先ほど紹介した緯度30度付近を流れるジェット気流を亜熱帯ジェット気流という[注7]

 寒帯前線ジェット気流はその名が示す通り冷たい地域を流れているので、高気圧と接触しやすい[注8]。梅雨期の日本では、北東にあるオホーツク海高気圧だ。普通に考えれば、この高気圧も風に運ばれてしまいそうだが、ここで少々厄介なことが起きる。

 実は亜熱帯ジェット気流がほぼ決まったルートを流れているのに対し、寒帯前線ジェット気流は南北にかなり蛇行しながら流れている。するとどうなるだろう?
 北側のルートをまっすぐ通りたい風と、南側のルートを経由してから北側に合流したい風に囲まれる形で、高気圧がオホーツク海上空に固定されてしまう。

 このようにジェット気流の影響で、流されずに停滞するようになってしまった高気圧をブロッキング高気圧という。停滞の期間は、年にもよるが1週間から数週間に及ぶ。

 

 オホーツク海高気圧は冷たい空気の塊でもあるため、南からの湿った空気とぶつかると雲を形成し、雨になる。それがブロッキング高気圧となれば、長雨も致し方なしというところだ。

 やがて夏が近くなり、気温が上がるにつれ、亜熱帯ジェット気流は弱まりながら北上する。亜熱帯ジェット気流の強さは湿った空気を運ぶ強さ、位置は雨を降らせる場所に該当するので、ジェット気流のいなくなったところから順次梅雨が明けていく。
 梅雨が明ければ、いよいよ本格的な夏だ。

 ここまで、梅雨の時期に発生する長雨の仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか?
 うんざりし気が滅入ってしまいがちな時期ではあるが、窓や屋根を叩く雨音に心を落ち着かせてみるのもいいかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが風に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜風を捉える〜

 風を利用したものでパッと思い浮かぶものといえば、風車だろう。風が吹くだけでくるくると回り始める風車だが、ある程度以上の強さの風がないと回らないという弱点でもある。
 これを解決する方法の一つに、風レンズ風車というものがある。虫眼鏡のレンズで弱い光を集めるように、弱い風を集めて強い風にしてしまおうという発想だ。とても大掛かりかつ難しい原理の装置かと思われるかもしれないが、風車の周りに輪を取り付けただけというとてもシンプルなのも良い。
 安定したエネルギー資源に風力が追加される日も遠くないのかもしれない。

 台風やジェット気流など地球規模での大きな風の流れも、街に吹き込むビル風など局所的な風の流れも、どちらも私たちの生活や安全にとても強く直結する。そのため、風がどのように流れるのかを予測することは、私たちの暮らしにとってとても大切だ。しかしながら、高い専門性とコスト、時間が必要になるという問題がある。
 この課題を、AIを駆使して解決しようという試みがある。過去の観測データを用いて、風の流れを予測する方法で、計算コストの大幅な削減が期待されている。

参考文献

  • 気象庁HP(https://www.jma.go.jp/jma/index.html)

  • 山岸米二郎. 『気象学入門』. オーム社.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.

  • 大屋 裕二, 烏谷 隆. 『レンズ風車およびマルチレンズ風車の設計について』. 風力エネルギー 2021 年 45 巻 1 号 p. 42-47.

  • 荒木 裕次ら.『畳み込みニューラルネットワークCNNを用いた風速・波高の時系列の統計的予測』. 土木学会論文集B2(海岸工学) 2019 年 75 巻 2 号 p. I_139-I_144.

  • 中村 良平. 『3D-CNNを用いた建物周辺の風速分布予測に関する研究』. 風工学シンポジウム講演梗概集 2020年 26 巻 p. 162-166.

脚注

[注1] 実際のところは、梅雨と比較して短い期間ではあるが、北海道でも雨や曇りがちになる年もあるようだ。毎年ではないため、梅雨入り梅雨明けの観測・発表を除外しているのが、というのが正確らしい。 (本文へ戻る)

[注2] もちろん、すべての海は繋がっているから、一口に「海」とまとめてしまえばそこまでだが、解説を円滑に進めるにはどの海かを明らかにしておいた方が良い。 (本文へ戻る)

[注3] 東シナ海やインド洋など亜熱帯など緯度が30 ~ 40度の範囲にある海を亜熱帯海域という。 (本文へ戻る)

[注4] とはいえ、地球の半径は約6300 kmなので、地球規模では大した厚みではない。 (本文へ戻る)

[注5] これは国際航空連盟の定めた定義であり、一般的にはこれより低い高度を大気圏、高い高度を宇宙という。また、この擬似的な線引きのことをカーマン・ラインと呼ぶ。とはいえ、「完全に」気体分子がなくなる高度というのは存在しないため、高度500 kmや1000 kmを大気圏の上端という定義もある。 (本文へ戻る)

[注6]秒速40 m以上でブロックの壁が倒壊し、電柱が折れ、木造建築物が破壊され、鉄骨の構造物であっても変形するのだという。地表で吹いてなくて良かった。 (本文へ戻る)

[注7] どちらのジェット気流も北半球と南半球に1つずつ流れているため、地球には合計4つのジェット気流が流れていることになる。 (本文へ戻る)

[注8] 冷えた空気は重くなり、密度が上がるためだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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