『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場するマンボウに関する考察

2023.05.16

 本記事のサイト「Lab BRAINS」を運営するアズワン株式会社は、最近メディアミックス作品「ラブライブ!シリーズ」と、LINEスタンプなどでよくコラボしている。「ラブライブ!シリーズ」の一つ、「ラブライブ!サンシャイン!!」には、マンボウが登場するシーンがある……。となれば、マンボウ研究者である私も「ラブライブ!サンシャイン!!」と間接的にでもコラボできるのではないか? という安直な発想で「Lab BRAINS」の運営者に記事の提案したところ、意外にもOKが出たので本記事が誕生することになった。

 そこで本記事では、「ラブライブ!サンシャイン!!」に登場するマンボウについて、どのくらいの大きさなのか? 実際の沼津ではマンボウを食べるのか? 作中に登場した個体のお値段はいくらなのか?について考察を行った。

 

「ラブライブ!サンシャイン!!」とは? 

「ラブライブ!サンシャイン!!」とは、静岡県沼津市を舞台とした架空の女子高校・浦の星女学院のスクールアイドルグループ『Aqours』の活躍を描いた物語である。テレビアニメは2016年と2017年の2期にわたって放送された。「ラブライブ!サンシャイン!!」のスピンオフ作品として、テレビアニメ「幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-」が2023年7月から放送される予定で、本シリーズが再び注目を集めている。于・大西(2020)によると、「ラブライブ!サンシャイン!!」の沼津市への経済効果は約50億~61億円と試算されており、放送終了後も聖地巡礼として沼津市に足を運ぶファン達によって、「ラブライブ!サンシャイン!!」は地域おこしに成功した例としても、大洗のガルパン同様に注目されている。

 

作品に登場したマンボウを調査する

 しかし、本記事で注目するのは「ラブライブ!サンシャイン!!」そのものではなく、「ラブライブ!サンシャイン!!」に登場するマンボウである。「ラブライブ!サンシャイン!!」でマンボウが登場する回は、2016年9月放送の第1期第10話「シャイ煮はじめました」である。イタリア系ハーフのお嬢様・小原鞠莉がシャイ煮(1杯 10 万円相当)と名付けた、世界中から集めた豪華食材を鍋にぶち込んで煮込んだ料理の一食材として、マンボウは登場するのだ。



 これはアニメの1シーンであるが、大きいためかマンボウはなかなかの存在感を放っており、インターネット上ではマンボウにツッコミを入れているコメントも多かった。世界中から集めた豪華食材と言っているが、インターネット上では沼津産の食材ではないかと推察されている。私的には、やはりこのマンボウの大きさが気になってしまう。マンボウの大きさを推定するために、マンボウの左横にあるアワビを調べてみた。沼津で捕れるアワビは複数種いるようだが、高級食材なので、おそらくクロアワビと思われる。クロアワビの成貝の一般的な殻長(殻の最も長い部分の長さ)は 20 cm前後だとされているので、ここでは殻長20cmだと仮定して、画像(マンボウの全身が登場する別シーン)上の比率からマンボウの全長を推定した。すると、アニメのマンボウの全長は約 98 cmと推定された。

 静岡県はマンボウもウシマンボウも出現しているが、日本で確認されている最小のウシマンボウは今のところ全長 120.2 cmなので、全長から判断すると、シャイ煮に使われなかった個体(棚に飾られていた個体)はウシマンボウではなくマンボウの可能性が高い。

 

 使用許可が得られた画像では舵鰭かじびれが見えないので、アニメの別シーンからわかるマンボウの全身を描いてみた(それでも見えない部分は想像で補った)。

舵鰭かじびれ中央部は突出していないので、ヤリマンボウではないことは確定である。全長 98 cmのウシマンボウはまだ頭部も下顎下も隆起していないこと、このサイズのマンボウは舵鰭かじびれの波型があまり発達していないことを考えると、形態的にはどちらの種かを明確に判断することは難しい。実際に私が調査したことがある実物の全長 98 cmのマンボウ個体を見て欲しい。


 舵鰭かじびれは少し波打っているように見えるが、明瞭には発達していない。シャイ煮に使われなかった個体と似ていると言われれば似ている気はする。シャイ煮に使われなかった個体をよく見ると、背鰭はあまり長くない。ウシマンボウはマンボウよりも背鰭が長いので、この点から考えると、シャイ煮に使われなかった個体は、やはり水族館でも見られるお馴染みのマンボウ Mola mola と言えそうだ。ちなみに、私のデータで全長 98 cmのマンボウの体重を見てみると、約 49 kgだった。

 

沼津でマンボウは食べるのか?

 続いて、沼津でマンボウは実際に食べるのか?ということについて調べてみると……実際に食べる地域であった。沼津産のマンボウはスーパーでも売られているようだ。魚の時価は日々変動するが、インターネット上で見付けた一例では、沼津産のマンボウは 100 gあたり 68 円となっていた。つまり、1gあたり 0.68 円。今回はこの情報を使って49 kgに換算すると…… 33320 円。これらを総合すると、シャイ煮に使われなかった個体の魚体丸ごとの値段は3万円前後だった可能性が考えられる。もし、漁師から直接買い付けしていた場合はもっと安く買われたものと思われる。登場シーンが無いため、シャイ煮に使われたマンボウ(もしかしたらウシマンボウやヤリマンボウだったかも)がどのくらいの大きさであったのかは不明であるが、ある意味、小原鞠莉の「1杯 10 万円くらい」という発言を裏付ける結果となった。インターネットで調べてみると、沼津ではマンボウ料理を出しているお店もあるようなので、沼津に行った際はシャイ煮を思い出しながらマンボウを食べてみるのも一興かもしれない。

 

~今日の一首~

 ラブライブ
  シャイ煮未使用
   マンボウは
    98cmで
     3万前後

参考文献

Sawai E, Yamanoue Y, Nyegaard M, Sakai Y. 2018a. Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae). Ichthyological Research, 65:142-160.

Sawai E, Yamanoue Y, Sonoyama T, Ogimoto K, Nyegaard M. 2018b. A new record of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Tetraodontiformes: Molidae) from Yamaguchi Prefecture, western Honshu, Japan. Biogeography, 20: 51-54.

于経天・大西健吾.2020.アニメの「聖地巡礼」による沼津市の経済効果の分析.NAIS journal,14: 8-12.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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