腸内細菌叢と脳をつなぐγδT細胞(3月20日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2023.03.31

昨日に続いて腸内細菌関連論文を紹介する。腸内細菌叢の変化が脳にも伝わってさまざまな症状の原因になることは何度も紹介してきたが、ほとんどは神経系や、代謝物、ホルモンが両方の組織を媒介するという話だった。


今日紹介するジョンズ・ホプキンス医科大学からの研究は、ストレスにより起こる細菌叢の変化が、dectin-1と呼ばれるレクチンを介して腸内での炎症性 γδ T細胞の増殖を変化させ、これが髄膜へと移動し炎症を起こすことで、ストレスによるうつ症状を誘導することを示した研究で、3月20日 Nature Immunology にオンライン出版された。


タイトルは「Dectin-1 signaling on colonic γδ T cells promotes psychosocial stress responses(腸内γδ T 上のDectin-1シグナルが神経症のストレス反応を促進する)」だ。


この研究ではマウスに少し大きめで獰猛なマウスのビデオを毎日10分間見せることで負け組ストレス反応を誘導している。


ただ、このぐらいの刺激では全てのマウスが、社会性忌避症状といったうつ症状までは至らないようで、うつ症状を示すマウスと示さないマウスに別れる。


この2群のマウスの腸内細菌叢を比べると、抵抗性マウスではストレスを受けないマウスに近いが、感受性のマウスの細菌叢ははっきり違っている。


なかでも、抑制性T細胞の増殖に関わる乳酸菌の一つが減少していることに注目し、細菌叢の変化が腸内のT細胞の変化につながっていないか調べている。


予想に反して抑制性T細胞に変化はなかったが、ストレスに感受性のマウスでのみ γδ T細胞、特に炎症性サイトカインIL17を発現する γδ Tが増加していることを発見する。


同じ感受性マウス特異的な γδ T細胞増加は脳の髄膜でもみられることから、腸内で増殖したγδ T細胞が髄膜に移動し炎症を起こすことで、ストレスによるうつ症状が増強していることが考えられる。


また、この γδ T細胞の増殖はjohnsonii乳酸菌を飲ますことで抑制されることから、細菌叢の変化により誘導されていることも確認している。


研究では、抗体注射、あるいはノックアウトマウスを用いて、γδ Tを除去したマウスではストレス感受性が生まれないこと、逆にIL17を発現する γδ T細胞を移植することで、ストレス感受性が移行されることを確認し、γδ T細胞のIL17発現が症状の原因であることを証明している。


最後に γδ T細胞による炎症誘導メカニズムを探り、腸の自然炎症にかかわることが知られているベータグルカンを認識するレクチン、dectin-1が γδ T細胞上に発現することで、炎症のスウィッチが入ることを、ノックアウトマウスを用いて明らかにしている。


そして、最も面白い結果と言えるだろう、dectin-1に結合するβグルカンを投与することで、うつ症状の発生を抑えられること、そして真菌から抽出されたこのβグルカンがうつ病を抑える方法として既に利用されていることを述べ、この治療法が一定の合理性を有することを明らかにしている。


以上、炎症がうつ症状を高めるという点では目新しさはないが、腸と脳を γδ T細胞を介する炎症がつないでいること、この経路は治療標的になることを示した面白い研究だと思う。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。