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マンボウ類は漁業関係者でなければ、普段は遭遇することのない海の生き物である。しかし、人生いつ何が起こるのかは全く予想がつかない。例えば、川沿いを歩いていた時、浜辺で遊んでいた時、釣りをしていた時、船に乗っていた時……さすがに水気の無い場所でマンボウ類と遭遇することはほぼ無いだろうが、ごくごく稀に川を遡上することもあるので、水気のある場所では思いもよらぬ形でマンボウ類と遭遇する可能性がある。私は日本におけるマンボウ類の広域的な分布情報を知りたいので、日頃からインターネット検索を行って情報収集しているが、それが功を成して、論文にすることができた記録がいくつかある。マンボウ類と日本人の関わりは少なくとも江戸時代にまで遡るが、マンボウ類のことを完全に理解した! というところまではまだまだ至れていない。情報が圧倒的に足りていないのだ。では、もしマンボウ類と遭遇した時にどういう情報が欲しいのか? この点について今回はお話ししたい。
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マンボウ類と海上で遭遇した、海岸で打ち上げられているのを発見した、スーパーで売られてるのを見付けた…、状況は様々であるが、マンボウ類の発見時に私が最低限欲しい情報は以下の5点である。
いつになるか、実際に使う機会があるかはわからないが、論文に使用することを前提としてデータを収集しているため、情報は細かいほど嬉しい。しかし、マンボウ類のデータの取り方を知る人はほとんどいないと思うので、大まかな情報でもあれば助かる。
発見場所は必須情報として欲しい。場所は少なくともその時そこにいたことを証明するものだ。Google地図で場所を示すことが可能であれば、それがベストだ。Google地図は右クリック→「この場所について」ででてくるポップをクリックすれば正確な緯度経度を調べることができる。しかし、船で遭遇した場合など正確な情報が不明な場合は、だいたいこの辺で遭遇したという範囲指定でも構わない。
発見日も必須情報で、何月何日までの情報が欲しい。特に海上でマンボウ類と遭遇した場合は、何時(昼か夜か)に遭遇したのかの情報もあれば、より詳細な生態的知見を知ることができる。
写真や動画も必須情報として欲しい。客観的な証拠画像がなければ、マンボウを見たと言われても論文に情報として載せることは困難だ。また、マンボウと思って撮影していても、実はマンボウ科の別種だった、ということも結構よくあることだ。ヤリマンボウやウシマンボウはマンボウと混同されていることが多く、それらの種は未報告地域もまだまだ多いので、写真は広域分布を把握する有力な手掛かりとなる。
写真は出来る限り真上から撮ってもらえると嬉しい。その際、長さがわかる物(メジャーなどが理想的だが、靴などでもいい)も一緒に置いて写真を撮ってもらえると、写真からおおまかなサイズを推定することができる場合があるので私は嬉しい。
しかし、巨大な個体は全身を真上から撮ることはほぼ不可能だと思うので、その場合は斜めのアングルでもいい。時間に余裕があるなら、以下のように体をパーツ分けして写真を撮ってもらえると嬉しい。分割して写真を撮影する時、頭部と尾部は分類形質が多く含まれているので特に撮影して欲しいポイントだ。この時も長さがわかるものを個体のそばに置いて一緒に写してもらえると嬉しい。
謝辞に書く情報提供者の名前も必須情報だ。特に写真や動画を提供して頂く場合は、論文では誰によって撮影されたのかを明記する必要がある。名前は情報提供者の事情によって、個人名でいい場合もあれば、組織名がいい場合もあるので、教えて頂けると助かる。個人の場合は、本名が理想的だが、ハンドルネームでも構わない。論文の図は英文表記することが一般的なので、情報提供者の名前は英名(ローマ字読み)も教えてくれると話がスムーズだ。
体サイズ(全長や体重)はできれば欲しいが必須の情報ではない。体サイズは大体でも参考になるが、実際に計測したのか、目視による推定なのかはちゃんと教えて欲しい。実測値と推定値は結構離れていることが多いからだ(つまり、推定値は正確な情報として使えない)。
もし、メジャーなどを持っていて、計測が可能な場合は、以下の3点を計測してくれると嬉しい(ここではわかりやすいのでヤリマンボウを使って解説する)。一番欲しい情報は「全長」。全長は体サイズの指標で、体の一番前から一番後ろまでを直線的に計測する。その次が「帯前体長」だ。帯前体長は上顎の吻端から舵鰭基部の帯(舵鰭を曲げてシワができるところ)の前までの直線的な長さだ。最後は「全高」。全高は背鰭の先端から臀鰭の先端までの直線的な長さだ。
計測の際に気を付けるポイントとしては、できれば魚体に沿って計測する(下記図の赤矢印)のではなく、2点を挟み込んで直線的に計測(下記図の水色矢印)して欲しい。長い棒などが落ちている場合は、それを真っすぐに立てると、2点を挟んで測りやすい。魚体に沿って測ると直線的な計測より少し長くなってしまう問題があるのだが……ただ、一人で大型個体を計測するのは困難なので、その場合はある程度魚体に沿う形で計測されるのも仕方がないと思っている。可能なら、二人で端と端を確認しながら計測するのがベストである。
もし、この記事を読んだ後にマンボウ類と遭遇した場合は、最低限この5つの情報(体サイズの情報はなくてもいい)を教えて下さると私としては非常に嬉しい。マンボウ類の全国分布を解き明かすデータとして活用したいと考えている。
~今日の一首~
発見日
発見場所や
体サイズ
写真提供
情報求む
澤井悦郎.2017.マンボウのひみつ.岩波書店.東京,208pp.
Sawai, E., M. Nyegaard and Y. Yamanoue. 2020. Phylogeny, taxonomy and size records of ocean sunfishes, pp. 18-36. In Thys, T. M., G. C. Hays and J. D. R. Houghton (eds.) The ocean sunfishes: evolution, biology and conservation. CRC Press, Boca Raton.