エクササイズの脳科学:運動で頭が良くなる?

2023.03.02

運動で頭が良くなる。それだけ聞くと嘘のようにも聞こえるが、運動で頭が良くなるということを示した研究は非常に多い。しかし、なぜ運動で頭が良くなるのだろうか?今回の記事ではその仕組みについて説明しよう。

運動で改善する「頭の良さ」の定義

頭の良さと言っても色々ある。勉強ができるのも頭の良さだし、立ち回りが上手なのも頭の良さだ。では運動で改善する頭の良さとはどのようなものなのだろうか?

ズバリ、運動で改善するのは、記憶力と創造性、実行機能とよばれる能力である。ここでは実行機能について説明しよう。

実行機能というのは何かに集中して取り組む機能である。例えば晩ごはんを作ることを考えてみよう。台所では、魚を焼いたり味噌汁を煮たりと、いろんなことを同時に進める必要がある。このような時には、状況に応じて注意を切り替えていかなければならない。その時生じる心のマネジメント能力が実行機能である。ではこの実行機能を脳科学的に説明するとどうなるか。

下の図を見てもらえばわかるように、私達の脳は様々な部分が集まって出来ている。

その中でもリーダーシップを取っているのが前頭前野と呼ばれる脳領域である。この前頭前野がしっかり働くことで実行機能が高まり、料理でも仕事でもテキパキとできるようになるのだ。

 

運動で引き起こされる脳の変化

いくつかの研究から、運動をすることで脳のつながりが変わり、前頭前野のリーダーシップが高まることが分かっている。ここでは、運動と脳のつながりに関する研究をいくつか紹介しよう。


まずひとつは、運動をすることで前頭前野と頭頂葉のつながりが強くなったことを示した研究である。この研究では高齢者に有酸素運動(エアロバイク)を1回45分、週2回、6ヶ月間行わせている。その結果、背外側前頭前野と頭頂葉のつながりが強くなり、実行機能が高まったことが報告されている(Prehnら、2019年)。

ちなみに背外側前頭前野は前頭前野の一部で、思考を担う領域である。また頭頂葉は感覚を担う領域である。つまり思考と感覚がリンクしやすくなることで実行機能が高くなるということになる。

もう一つは、よく運動する人ほど前頭前野と海馬のつながりが強いことを示した研究である。この研究では、普段の運動量と脳のつながりの関係について調べている(Ikutaら、2019年)。

すると普段活発に運動している人は、海馬と前頭眼窩野のつながりが強くなっていることが分かったのである。

ちなみに、前頭眼窩野は意思決定に関わる領域で、海馬は記憶に関わる領域である。

余談ではあるが、しばしば重要な判断が求めれる海外のエグゼクティブは朝からエクササイズに励むとも聞く。意思決定能力と運動は何かしら関係があるのかもしれない。

脳を変える物質:成長ホルモンとBDNF

運動することで脳のつながりが変化する。その現象の鍵となるのがBDNFとIGF-1と言われる生理物質である。

BDNF(脳由来神経栄養因子)は、神経細胞の成長をサポートして、脳のつながりを増やす働きがある。このBDNFは運動をすることで急激に増えることが知られている(Goldら、 2003年)。

Goldら2003, Figure 1. を参考に筆者作成

またIGF-1(インシュリン用成長因子)も運動をすることで多くなる。IGF-1は、脳内の毛細血管を増やす働きがある。運動をすることでIGF-1が増え、脳内の毛細血管が増える。その結果、BDNFも脳内に行き渡りやすくなり、脳のつながりも増えるというわけだ。

運動の効果

では、頭をよくするためには、実際にはどれくらい運動をすればいいのだろうか?子供と成人を対象にした研究をいくつか紹介しよう。

子供を対象にした研究では、子供に運動をさせることで創造性や実行機能、学業成績が向上することが示したものがある。具体的な研究結果をいくつか示すと、

・高学年の小学生に、1回30分の有酸素運動を週3回、12週間行わせることで創造性が高まった(TuckmanとHinkle、1986)。
・肥満児の小学生に1回40分の運動を週5回、10週間以上行わせることで実行機能が高まった(Davisら、2007)
・週5時間の運動を割り当てられた小学生は、週40分の運動を割り当てられた小学生より学業成績が良い(Shephard、1984)

ということが報告されている。どうも子供は、毎日小一時間はしっかり体を動かすことで創造性や実行機能、学業成績が上がるようである。

では成人を対象にした研究ではどうなのだろうか。これについては以下のことがわかっている。

・青年期に心肺能力が高かった人は中年になった時に記憶力や実行機能が高い(Zhuら、2014)
・日常的に体をよく動かす青年は創造性が高い(Romingerら 、 2020年)
・成人では、1回30~60分、週2回、12週間以上運動することで認知機能が改善する(Zheng、Su、Xu、2022)

このように成人では週に数日しっかりと体を動かすことで実行機能や創造性を高められそうである。

さらには運動との直接的な因果関係は不明なものの、

・運動していない人が運動をし始めると所得が平均で10%以上上がる(Xiaoら 2022)
・休日の運動時間が長い人ほど所得が高い(Kariら 2015)

といったことも報告されている。

まとめ

さてここまでの話をまとめてみよう。

・運動で実行機能と記憶力、創造性が改善する。

・運動で前頭前野を中心とした脳のつながりが強くなる。

・運動で脳の毛細血管が増え、脳のサポート物質が運ばれやすくなる。

・1回30分以上、週に2回、12週間以上運動することで認知機能が改善する

・運動する人ほど所得が高くなる傾向がある。

走るだけならタダである。初期投資でジョギングシューズを買ったとしても数千円である。運動はローリスクハイリターン投資の極みともいえる。騙されたと思って一度やってみるのもいいのではないだろうか。

【参考文献】

Davis, C. L., Tomporowski, P. D., Boyle, C. A., Waller, J. L., Miller, P. H., Naglieri, J. A., & Gregoski, M. (2007). Effects of aerobic exercise on overweight children's cognitive functioning: a randomized controlled trial. Research quarterly for exercise and sport, 78(5), 510-519. ↩︎

Gold, S. M., Schulz, K. H., Hartmann, S., Mladek, M., Lang, U. E., Hellweg, R., ... & Heesen, C. (2003). Basal serum levels and reactivity of nerve growth factor and brain-derived neurotrophic factor to standardized acute exercise in multiple sclerosis and controls. Journal of neuroimmunology, 138(1-2), 99-105. ↩︎

Ikuta, T., Frith, E., Ponce, P., & Loprinzi, P. D. (2019). Association of physical activity on the functional connectivity of the hippocampal–orbitofrontal pathway. The Physician and sportsmedicine, 47(3), 290-294. ↩︎

Kari, J. T., Pehkonen, J., Hirvensalo, M., Yang, X., Hutri-Kähönen, N., Raitakari, O. T., & Tammelin, T. H. (2015). Income and physical activity among adults: evidence from self-reported and pedometer-based physical activity measurements. PloS one, 10(8), e0135651. ↩︎

Prehn, K., Lesemann, A., Krey, G., Witte, A. V., Köbe, T., Grittner, U., & Flöel, A. (2019). Using resting-state fMRI to assess the effect of aerobic exercise on functional connectivity of the DLPFC in older overweight adults. Brain and Cognition, 131, 34-44. ↩︎

Shephard, R. J. (1984). Physical activity and child health. Sports Medicine, 1, 205-233. ↩︎

Tuckman, B. W., & Hinkle, J. S. (1986). An experimental study of the physical and psychological effects of aerobic exercise on schoolchildren. Health psychology, 5(3), 197. ↩︎

Xiao, X., Yu, Y., He, Q., Xu, D., Qi, Y., Ma, L., & Deng, X. (2022). Does Regular Physical Activity Improve Personal Income? Empirical Evidence from China. Nutrients, 14(17), 3522. ↩︎

Zheng, J., Su, X., & Xu, C. (2022). Effects of exercise intervention on executive function of middle-aged and elderly people: A systematic review of randomized controlled trials. Frontiers in Aging Neuroscience, 924. ↩︎

Zhu, N., Jacobs, D. R., Schreiner, P. J., Yaffe, K., Bryan, N., Launer, L. J., ... & Sternfeld, B. (2014). Cardiorespiratory fitness and cognitive function in middle age: the CARDIA study. Neurology, 82(15), 1339-1346.↩︎

著者紹介:佐藤 洋平(さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
脳科学・医学的知見を企業のマーケティングコミュニケーションに活用する専門家。理学療法士として15年の臨床経験を持ち、筑波大学大学院にてコミュニケーションに関わる脳活動の研究で博士号を取得。 2012年より、企業の製品・サービスの価値を科学的エビデンスに基づいて説明するコンサルティング業務を展開。「なぜそれが効果的なのか」「どこに価値があるのか」を神経科学・医学生理学・心理学の研究知見から解明し、 ステークホルダー向け資料やマーケティング素材として翻訳・構成・監修することを専門とする。多くの大手企業への学術支援実績を持ち、研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboではパートナー研究者として活動。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」運営者。

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